889話 アスタリアの帰還
<農民><小鬼>同盟以外からも賛成票を集めるという、「戦後の責任追及対策」が済んだので、モンティートは頃合いを見て自分達も票を投じ……
賛成多数により、<サルトー区・ポルカト界>の代わりに<恵のダンジョン>を地獄世界に繋げて、防衛時の盾とする案を通した。
詳細は説明されなかったものの、変わり果てたトリップ姿のメグミ達が仕事に勤しむ映像を見て、「本当にヤバイ事態なのかも」と悟った者もおり……
そういう者は、万が一にでも自分に被害が及ばぬよう、これまで執念深く続けてきた「堕ちた神および格下からの搾取」を止め、自身のダンジョンに籠城。
そして、投票システムで<農民><小鬼>同盟に圧力をかけるために貯めてきたポイントを、ダンジョンや周囲の環境構築に回すことで……
防衛力を強化して己の生存確率を上げ、目先の利益や立場より、長い目で見て得になる選択肢を取っていく。
『くくくっ! 詳しい説明すらせず、<サルトー区・ポルカト界>と子飼いのダンジョンを入れ替えると聞いたときは、憤慨したが……アイツ等が死ねば……』
『盾にされたメグミと<農民>同盟の連中が、地獄世界のゴタゴタの余波を喰らって死んでくれれば、<農民><小鬼>同盟一強の時代が終わる!』
『つーか、自分のダンジョンじゃなくてメグミのダンジョンを盾にするって……それもう、<農民>同盟と<小鬼>同盟の間に亀裂が生じているだろう』
『神様のゴタゴタに巻き込まれて死ぬか、その後の内紛で潰されるか。いずれにせよ、<農民><小鬼>同盟の衰退は確実だ!』
詳細を説明されていない彼等の視点から見ると、魔王ランキングで長年トップを維持してきたモンティートが、自身のダンジョンではなく……
目をかけていた子飼いのメグミが治める、<恵のダンジョン>を盾に据えたことで、<農民><小鬼>同盟の仲にヒビが入ったように見えたのだ。
つまり神による天災の脅威を乗り切り、己の命とある程度のチカラを持ち越すことさえできれば……
<農民><小鬼>同盟が没落して、立場を逆転できる可能性がある!
そう判断したがゆえの"賛成票投じ"であり、決して「参考データとして貼られたメグミ達のトリップ映像にビビり散らかしたから」ではない。
…………と本人達は主張しており、今なお全身をむしばむ「恐怖と嫌悪感による鳥肌」は、意図的に意識から除外し全力スルー中だ。
なお現実は……<農民><小鬼>同盟の仲は今なお非常に良好であり、トリップしてしまったメグミ・スティーブ・カルマの身の回りの世話を……
サーシャのみならず、<農民>同盟のモンティートが引き受けることもある。
「不思議だよね〜。こんなに若くてピチピチしているのに、僕みたいなヨボヨボ爺より介護が必要とかさ〜。可愛いから構わないけど」
<働神の加護>という名の呪いを付与されることだけは、断固拒否なモンティートも、基本的にはメグミ達に甘く……
元来「お世話好きな気質」なので、イっちゃった彼等に近づき飯を口に放り込んでやる程度は、お手のものなのだ。
これでサーシャにまでトリップされると、「介抱=セクハラ」となり後々面倒なので、「それだけは勘弁してくれ」と願っているが……
セクハラ爺扱いされるリスクのないメグミ達の世話なら、嬉々としてやるくらいには「<小鬼>の後輩」に激甘なので、ここの繋がりが切れることはない。
そして立場によって思惑に差があるものの、無事「<サルトー区・ポルカト界>と<恵のダンジョン>を入れ替える」案が議会を通過したため……
モンティートは即時アスタリアに指示して、切り替え作業にとりかかった。
まだ<恵のダンジョン>のアップデートは完了していないが、前例のない切り替え作業ゆえ、ミス等で時間がかかる可能性も高く……
早めに着工しないと、「闇神が現場に到着したとき、まだアスタリアが切り替え作業に取り組んでいて、全バレで詰む」パターンになりかねないからだ。
しかしモンティートの想定とは裏腹に、事前学習と下準備を徹底していたアスタリアは、わずか数分で切り替え作業を終わらせてしまい……
あっと言う間に、<サルトー区・ポルカト界>は<恵のダンジョン>と置き換わり、地獄世界から切り離された。
そして一番重要な任務が終わり、地獄世界……それも闇神領に滞在する意味が一気に薄れたアスタリアは、自分の痕跡を消したあとカルマに帰還を要請。
<コマンダー>で皆のいる拠点に戻り、トリップ中の仕事中毒3名に出迎えられる。
「アスタリア先輩、お帰りなさ〜い! 身を危険にさらしてまで任務を完遂した姿勢に、敬意を評します!!」
「ちょっ……分かったから、その状態で抱きつくのは止めなさい! 汗・鼻水・ヨダレのトリプルコンボを、帰還早々にくらうのはキツイって!」
婆とはいえ……リソースを注がれた事により、(見た目が)若返ったアスタリアに抱きつくのは、完全にセクハラだが……それを指摘する者は誰もいない。
メグミ達が正気を失っているのは周知の事実であり、抱きつかれている側のアスタリアも、「汚物トリプルコンボ」を除けば出迎えのハグは歓迎だから。
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






