823話 引っ越し業者に見捨てられた神達
仕事を終えたマサル達は、他派閥へ一報入れたうえで、引っ越し待ちの中級神達を放置して闇神領を脱出。
そして疲れ果てて「ア……アァ…………」しか言わなくなったカルマに、電気ショックを与えて正気に戻し、「今日はもう働かなくていいよ」と伝えた。
「おっ、終わったぁ……」
幸いにも言語知識が飛ぶほどイってはいなかったのか、「もう働かなくていいよ」の一言で生気を取り戻し、滝のような涙を流したカルマだったが……
彼は、ちゃんと言葉の全てを聞き取れたのであろうか?
「"今日は"もう働かなくていいよ」であって、また近日中に命懸けのデスマーチが来る可能性も、闇神と他派閥の動向次第ではあるのである。
とはいえ、本日の仕事が終わったのは事実。
水分身を消滅させた時点で、「彼等のゴマ擦り&ムカつく顧客のカスハラ事案」を、5体分"経験データ"として共有し……
その場で発狂して変人扱いされたマサルも、寝なければメンタルを回復できないので、スティーブのダンジョンに移動して"お休みタイム"となった。
なお……少し前まで、<水の職人>ギフトを使ってアイテムを生み出しまくり、代償で心身共に壊れかけたスティーブは……
久しぶりに「執事の仕事」ができて喜びの涙を流しているので、働かせっぱなしで問題ない。
<小鬼>同盟男子チームの中だと"貧弱"に見えるスティーブも、執事家系の実家で鍛えられていた頃は、「年間休日0日」を地でいく社畜だったのである。
ゆえに、「口に漏斗を突っ込んでポーションを延々と流しこむ」なんて拷問じみた労働環境に置かれなければ、休息時間皆無だろうと壊れないのだ。
幸いにも闇神が外へ目を向ける前に仕事を切りあげ、誰一人失うことなく闇神領から帰還した、魔王チームとは裏腹に……
順番待ちしていたものの「引っ越しサービス終了」の宣告を受け、受け入れ先の派閥からも「自力で脱出しろ」と命じられた残留組は、絶望感に包まれていた。
「ちょっと待て、無茶を言うなよ。ここを何処だと思っているんだ? 闇神城からほど近い場所にある、防御力皆無の神殿だぞ! 無理に決まっているだろう」
引っ越しサービスを利用できないからと、自力脱出で闇神領を出られる位置に住んでいた中級神達は……
闇神城に呼び出されて喰われたか、すでにサービスを利用して新天地へ旅立っているため、誰一人として残っていない。
つまり残された神々というのは、「地理的に自力脱出不可能な位置にいて、サービス終了した時点で"詰み"が確定した者達」なのである。
傲慢な彼等もそれくらいは理解しているので、他派閥の担当者から「引っ越しサービス終了」の宣告を受けたとき、「無茶言うな!」と発狂し……
それに対して「早期に移籍を決断せずギリギリまで判断を引き延ばした、お前が悪いんだろう。自業自得だ」と呆れられていた。
「仕方ないじゃないか! 進むも引くも地獄。己の身と日々のささやかな幸せを守る為には、少しでも条件を吊り上げて移籍契約を結ぶしかなかったんだ!」
叫ぶ暇があるなら、一か八かに賭けて全財産を捨て着の身着のまま逃げればいいのに……と、思うかもしれない。
しかし、彼等にはそれが出来ないのである。
命を失う危機に晒されてもなお、「生活レベルを落として、"格下だった者達"に頭を下げる神生」をおくる覚悟が持てなかったからこそ、彼等は逃げ遅れ……
闇神城の近くに、"生餌"として放置されるハメになったのだから。
なお……<農民><小鬼>同盟と手を組み、闇神派閥の中級神を受け入れた他派閥の担当者は、「引っ越しサービス終了」について文句を言うことなく……
形式的とはいえ、側についていた眷属経由でメグミに感謝の言葉を送り、自分達も次のフェーズへ移るべく動いていた。
彼等としては、「過半数の中級神を移籍させて、ソイツ等を準搾取要員にできた」だけで充分なのだ。
闇神のすぐ側にいて逃げ遅れた者を、わざわざ助けてやる義理などないし……それで恨まれたとしても、どうせソイツはすぐに殺されるので構わない。
引っ越しの実務を引き受けたのはメグミ達だが、その背後にいた彼等も、サービス実施中ずっと「闇神から直接目をつけられるリスク」には晒されていて……
今後もそのリスクを冒してまで僅かな達成率を追い求めるほど、上司の命令に忠実な部下でもないため、プロジェクトを継続する理由がなかったのである。
「弱肉強食。判断を誤れば蔑ろにされ命を失うのは、神も……その下で働く下僕も……皆同じ。自分達だけは例外と、心の何処かで思っていた愚者の末路よ」
もっとも転移を成し遂げた神々も、転移先で「長く苦しい搾取神生」を手に入れただけなので、「逃亡成功者の方が幸せ」とは限らない。
今回の一件で明確になった事があるとすれば、「従う相手を間違えると自らの未来も潰れる」という事だけだ。
読んでくださり、ありがとうございます!
この小説を読んで面白いと思ってくれた、そこの貴方(≧∀≦)
モチベーションUPの為の燃料……ブクマ・評価・感想・レビュー、待ってます!!
作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






