811話 暴走する営業マン
マサルが地獄からの生還を果たし、そのマサルに面倒事を押しつけて旅立った<ビミョウ>が、「搾取され放題生活」に突入した頃……
手が空いた<ガッツ>と<ゲンキ>は、他の眷属達と協力して神殿の場所を突き止め、マサルが仕入れた推薦状を持って中級神を訪問。
その気合いと根性でゴリゴリにセールスをかけ、引っ越しの直契約をとりまくっていた。
これには、<ガッツ>と<ゲンキ>の営業力が高いことの他にも……闇神が「地方で暮らす優秀な中級神達」を闇神城に呼びつけた、という要因がある。
その勅令を受けて、名指しで呼び出された優秀な中級神達は、罠だった場合に備えて保険を張りつつ、出世話である可能性に賭けて中央へ向かった。
ファーストペンギンになると、もしこの勅命が罠だった場合に逃れ切れず殺されてしまうため、「誰が一番遅く着けるか」レースが開催されたが……
それでも地方の神殿からは離れて中央へ向かっているため、現在地方には優秀な中級神が誰もいないことになる。
そして呼び出し対象から外れて地方に残された神々は、最初こそ「相対的に結界に近い位置で暮らせるし、安全じゃん」と感じていたものの……
"生き汚い神"として有名だった<ベテランス>が、神殿を空っぽにして逃げ、その噂が伝わったことで、「やっぱり逃げるべきかも」と不安にかられたのだ。
そこに"残留組"の一神だった<ビミョウ>から、「俺逃げる。移籍先で幸せに暮らすわ」という、微妙にマウントが入った連絡が届き……
彼の引っ越しを成功させた業者が紹介状を持ってきたことで、「なら自分も!」と後に続く者が多数現れた。
冷静に考えると当たり前の話で……自分の意思をもって行動できる地方暮らしの中級神は、優秀なので闇神に呼び出されており……
選考から外れて残された連中は、「右に倣え」してしまうタイプが多い。
つまり……その状況で地方の神殿を巡って、知人の成功例付きでセールスしたら、「じゃあ俺も〜」勢が続出して「逃げるのが当然」という雰囲気になる。
またそんな神々なので、去り際は<ビミョウ>以上に汚く、目下の「引越し業者」を見下す態度も堂に入っていた。
しかし体育会系の<ガッツ>と<ゲンキ>に、そんなパワハラが通じるわけもなく、成果が得られた喜びで全てが吹き飛び……
大はしゃぎでサーシャが持つ「メグミのスマホ」に報告メールを送り、次から次へと神殿をまわって、新たな契約をとりつけていく。
もちろん契約を結んだらソレをこなさなければならないので、帰還して一休みしようとしていたマサルは、すぐ闇神領に再召喚される事となり……
彼を<コマンダー>で送り返したカルマも、片付けても片付けても仕事が終わらないデスマーチコース確定。
<ブラック>との食事会を終えたメグミが戻ってきて、魔王4人体制になったものの……
あまりの速さで決まっていく契約に、余裕をもって対応できるわけもなく、「サボる奴は誰もいないのに仕事が増えていく」ヘルモードに突入した。
ちなみに……<小鬼>同盟メンバーで、唯一この恐怖空間から逃れられたスティーブが、悠々自適な幸せ生活をおくっているかというと、そんな事はない。
胃にチューブを差しこみ、漏斗で無理やりポーションを飲みながら、<水の職人>ギフトフル活用でレアアイテムを生産する、人権崩壊型デスマーチを……
他の4名がヘルモードに突入するずっと前から続けており、すでにカルマ以上のトリップも経験してしまった。
そして「属性悪めの客」が多数集まる状況では、様々な問題が起きてサービス提供側にストレスがかかる。
「おぃ、さっき聞いた話と違うぞ! 8割引で請け負うと言ったではないか!!」
まず直前になって「聞いていた話と違う」と騒ぎ出し、ゴネ得を狙おうとする姑息な客。
「えっ、そうなのですか? こちらは、契約時の音声を全て録音しておりまして〜」
それに対して、メグミの自販機で買った文明の利器を使い、淡々と証拠を突きつけ撃退していくマサル。
「テメェ、ふざけんなっ!!」
「では、他の神様のお引っ越しを優先させていただきます。お待ちの方が多数おりますので、ご了承ください」
「チッ! 分かった。払ってやるから、さっさと引っ越しさせろ!」
「かしこまりました」
「中級神達は、神殿にいながら連絡をとり合える」と知っており、「面倒だから」とゴネ得を許すと、その話を聞いた全員がゴネてくる……
と理解しているマサルは、心の中でゲロを吐きながら慇懃無礼な態度で応戦した。
もちろんこういう客なので、<ベテランス>や<ビミョウ>がやったような、大規模リストラと元配下の置き去りは"通常運転"であり……
彼等に対するフォローも粗雑極まりないので、マサルは"残業確定"の運命を背負わされることに。
また直依頼だけでなく、他派閥が契約を取りつけた「中心部で暮らす神々」からの引っ越し依頼も、続々と届いており……
そのクライアント達の民度も似たようなものなので、マサルが「望まざる残業」から解放される日は遠い。
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






