809話 お友達紹介キャンペーン
カルマの頭がブッ壊れたことを悟りつつ、<ガッツ>と<ゲンキ>から仕事を引き継いだマサルは……
初の直顧客である、中級神<ビミョウ>の神殿へ向かった。
なぜ<ガッツ>と<ゲンキ>に最後まで任せず、マサルが実働役を引き継いだかというと、「転移時に"厄介な置き土産"をされる可能性があるから」だ。
初依頼の顧客だった中級神<ベテランス>が、引っ越しだけでなくリストラ組の殺処分も、ついでに押し付けて旅立ったように……
基本的に神様は傲慢であり、契約どおりに物事は進まないので、「何かしらのサビ残は付いてくる」という前提で動かないと、最悪死者が出てしまう。
そのため安全策をとって、<ガッツ>と<ゲンキ>には他所の営業に回ってもらい、実働役はマサルが引き受けたのだ。
なお……カルマとコミュニケーションをとりつつ、メグミの眷属達に指示を出す司令塔は、サーシャが引き継いだのだが……
カルマがいつ倒れても処置できるよう、「用法・容量・効果不明な薬」がたくさん入った薬箱を、隣に置いて作業しているため、カルマは生きた心地がしない。
「(マサル先輩・メグミ先輩、お願いです! パワハラでもモラハラでも何でも大歓迎なんで、どうか僕とサーシャ先輩を二人にしないでください!)」
薬箱から顔を覗かせた媚薬が、彼の精神をいたぶる拷問器具となり、ノルマ・トリップで記憶を飛ばして楽になりたい気持ちを削りとる。
もし本当にイッてしまうと……悪気なく勘投薬で媚薬をもられて、公開<ピー>からのメグミ・バレ。
そして理不尽に怒りを買い、「石臼でひかれてミンチになる」類のおぞましい最期を迎えるハメになるため、自殺志願者のマゾ以外には"禁忌"なのだ。
そんなカルマの悲哀を察しつつ、他に手がないので現場に来たマサルは、さっそく中級神<ビミョウ>に挨拶を入れ、契約内容の最終確認を済ませた。
「ビミョウ様にいただいた推薦状を使って、他の中級神様にも営業をかけることを、認めていただく代わりに、引っ越し代金は3割引させていただきます」
「うむ。儂との付き合いが比較的深く、目下の者にも優しい中級神の名簿じゃ。割引の対価としては十分じゃろう」
「はい。感謝してもし切れません。せめてものお礼として誠心誠意働かせていただきますので、引っ越し完了までどうぞよろしくお願いいたします!」
なんとも庶民的だが、これから確実に財布事情が厳しくなる中級神<ビミョウ>にとって、抑えられる経費は可能な限りケチりたいもの。
そして業者チームも、<ビミョウ>からボッタクリ価格で引っ越し業務を請け負い、単発で儲けて終わるよりも……
より多くのカモに「同格からの推薦状」付きで集客をかけられる、ビジネスチャンスの方が何倍も嬉しいので、この交渉はwin-winなのだ。
もちろんマサルだって、内心「ケチくさい」と思ってはいるが、プライドの塊みたいな顧客にそんな事を言うほど、バカじゃないので……
勇者時代を思い出しながら全力で"揉み手"して、<ガッツ>と<ゲンキ>が契約したとおり、「カモになりそうな顧客15神分」のリストを手に入れた。
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マサル先輩、転移準備OKです!
今すぐ引っ越しを済ませて、可能な限り早く引きあげてください。
じゃないと私は死にます!
byカルマ
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「ビミョウ様。<コマンダー>のギフト保持者から、転移準備完了の知らせが入りました。いつでも引っ越しできる状態です」
「分かった。移籍先との交渉も済んでおるし、闇神が暴れ出す前に旅立つとしよう。それに伴い……其方、活きの良いリソースは要らんか?」
「と、申しますと?」
「転移可能な100名に入れなかったゴミ共を、チップ代わりにくれてやる……と言っておるのじゃ。一応、名目上は"自力合流"だがのぉ」
「……………………」
移籍にかこつけた殺処分リストラ、再び。
闇神の下についていた中級神だけあって、<ビミョウ>もブラック度はピカイチであり、息を吸うように「役立たずな配下」は切り捨てる。
「コチラで回収いたしますと、割引分以上のリソースをいただく事になりますが……」
「うむ、問題なかろう。労働には対価が伴うもの。一匹残さず食い尽くすがいい」
だが建前だけは守り抜いた<ベテランス>と違い、<ビミョウ>は直接「全員殺せ。リソースはくれてやる」とマサルに命じた。
これは彼が<ベテランス>より若く、もしマサルが殺処分に失敗したりサボったりして、見捨てた配下が生き延びたときの"恨み"を甘く見ており……
「人員削減さえすれば、移籍先のクソ待遇でも何とかなる」と、「リストラ自体は成功する」前提で考えているからに他ならない。
「かしこまりました。引っ越し後のお掃除も、可能な限り善処させていただきます」
もちろんマサルは、「<ビミョウ>の欠点」を指摘したりせず笑顔で"残業命令"に応じた。
彼がこの先どうなろうと……もし「掃除し切れなかった配下」に復讐されたり、「辛うじて転移チームに入れた配下」に見捨てられても、無関係であり……
それをわざわざ指摘してやる義理もないため、"自分達の利益"のみを考えて立ち回ったのだ。
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






