795話 初契約者、現る
中級神<シュッセ>を殺した後、居城に引きこもっていた闇神から勅命が出たことで、中級神達はざわめいた。
「「「「「この勅令は、どういう意図なのだろう? 私はどう動けばいいのだ!?」」」」」
もし中級神全員が中央に呼びつけられたり、"権限召し上げ"の勅令が出た場合、「殺しにきている」と分かるし「逃げる」しかないため、彼等も迷わないのだ。
しかし辺境を治める中級神達……それも元々リストラ候補だった"干され神"ではなく、地方豪族的な立ち位置にいた有力者だけが呼ばれた。
こうなると、粛正ではなく「都会住みの中級神を何名か処分したので、彼等をその後釜に据える」パターンも出てくる。
つまり呼ばれた神々にとっては、命の危険があると同時に出世のチャンスでもあり……恐怖と欲に心を支配されて、冷静な判断など出来なくなってしまう。
とはいえ彼等は、闇神に「警戒に値する」と判断された優秀な中級神なので、狼狽えながらもキッチリ保険を張り、そのうえで出世の可能性に賭けた。
「とりあえず、亡命の密約を交わしたうえで闇神の元へ馳せ参じよう。だがタイミングは可能な限り遅く……他の神々より到着を遅らせて、様子を見るべきだ」
代償として、出世叶わず亡命するハメになった場合の条件は最悪で、「"一文無し"からのスタート」だが、賭けに敗れて命があるだけマシである。
「「「「「「「「「「もし最初に馳せ参じた奴が殺されたら、その時は即座に逃げるぞ! 不審がられない程度に、4番目くらいの到着を狙う!!」」」」」」」」」」
ただ……勅命で呼ばれた中級神全員が似たような結論に辿りつき、同じような保険を張ったうえで、ライバルを先に行かせようとしたので……
ファーストペンギンがいない状態となり、優秀な神同士の牽制大会が始まった。
あまりに遅いと闇神の逆鱗に触れ、到着次第ボコられて殺されてしまうのは、皆理解しているため……
最終的には誰かが諦めるか、交渉でカタがついて"生贄役"を引き受ける事になるのだが、彼等の動きがまとまるまで、まだ暫くかかりそうである。
また名指しで呼び出された神々と違って、地方暮らしなのに呼ばれなかった"干され神"も、ある意味「悩ましい立場」に立たされた。
当然、出世する見込みはないのだが……そんなもの元々なかったので、今さら失望感をおぼえる訳もなく……むしろ彼等はホッとしたのだ。
命懸けの出世レースを強制されたムカつく同僚達と違って、呼び出されずに済んだ彼等は、比較的安全な「結界の側」で暮らし続けることができる。
つまり闇神派閥に所属する中級神の中では、最も心地良いポジションにいるため、逆に「この状況で逃げる必要があるのか?」と悩んでしまうことに。
もちろんその安全は、彼等視点だとそう見える"かりそめのモノ"で、実際はガッツリ命を狙われており……
「無能だから放置しても倒しきれる」と闇神に判断され、"舐めプ"されただけなのだが、彼等がその考えを知ることはない。
そしてこの残念な神々は、「己の足元の不安定さ」に気付けなかっただけでなく、ムダに精神的余裕をもってしまい……
「とりあえず時間的余裕は出来たわけだし、亡命の交渉も強気に出ていいだろう。大手からの移籍だし、最低でも現在と同じ待遇にしてもらわないと!」
亡命時の待遇について交渉している「他派閥の担当者」に対しても、分不相応な待遇を要求して、呆れられることになった。
では中心部で暮らしており、今回の勅令に関わることのなかった神々は、「我関せず」で自分達の逃亡準備を進められたかというと……そうでもない。
勅命で名指し召喚された中級神の数が、すでに粛正された「都会暮らし神」の数よりも多かったからだ。
つまり彼等を「穴埋め要員」として使い、新たなポジションを与えるのであれば、あと2神ほど追加粛正される者が出ることとなり……
その枠に自分が選ばれないと、確信を持って言えるメンタル強者は、「自惚れ属性のあるナルシスト3神」以外いなかった。
だからと言って、わずか2神の追加粛正で済むなら、わざわざ没落承知で亡命する必要はなく、確率論を信じて現在のポジションに居座る方が得。
よって彼等は身動きが取りづらくなり、「動向を見守る」という名目で亡命交渉を長引かせ、より自分にとって都合がいい選択肢を選ぼうと足掻く。
だが中には、危機感を強く持っていて、「現在の地位」より「神としての存命」を選んだ者もおり……ついに、他派閥と亡命契約を結ぶ中級神が現れた!
その神の名は<ベテランス>。
すでに出世レースから外れて久しく、都会で悠々自適な余生を楽しんでいたベテラン中級神であり、かつて闇神のライバルだった男だ。
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






