784話 イッちゃってる
闇神が<シュッセ>狩りを終え、捕らえた<シュッセ>をこれでもかと言うほど拷問していた頃……
闇神領中央付近に作った拠点を開拓する作業を終え、手が空いた眷属達は、疲労で瀕死状態のカルマに「サポートの"お代わり"」を要求。
そして有り余る元気と、「後輩の<ボッチ>ばかり働かせる訳にはいかない」という熱い思いを胸に、闇神の支配領域外へ目を向けていた。
「この結界が、闇神の支配領域と外を仕切っている。ここから一歩でも外へ出たら、広がっているのは"果てのない虚無空間"だ!」
当たり前の話だが、もし誰の支配領域でもない空間にリソースが落ちていたり、軽く育てるだけで美味しい果実をつけるのであれば……
その空間には上級神達が群がり、アッと言う間に支配領域化して己の財布を潤すだろう。
なのに現在もなお、特に誰からも支配されることなく放置されている時点で、その空間の生産性はお察しだ。
特徴も何もなく、やや瘴気は漂っているもののソレも控えめで、ただただ「何もない虚無な空間」なのである。
実は闇神は、他の上級神から襲撃されるリスクを警戒して、この虚無空間にも一定数のトラップを仕掛け……
外から来る敵を殲滅しようとしていたので、虚無空間だからと言って、必ずしも「防御力皆無で、誰でも往来し放題」という訳ではない。
とはいえ……派閥領域の近く以外は、関心を割くリソースすら惜しいほど、何もなく無機質な空間が広がっているだけなので……
神界の住民達から忘れ去られた、「派閥移籍」「戦争時の行軍」「使いっ走り」以外で生物が通ることもない、哀れな空間……のはずである。
「というのが、"堕ちた元下級神"と"<ボッチ>が倒してくれた敵"から得た情報だ。派閥領域内で暮らしていた連中の話だから、多少勘違いもあるだろうけど」
「はい。つまり我々の仕事は、この結界を越えて闇神の支配領域外へ出た後、方々へ散り、何処かにある"闇神以外の上級神の支配領域"を探し出すこと!」
「ですね。結界外の地図なんて持っていないですし、とにかく行動量で稼いで情報不足を補い、"転移による引越し屋ビジネス"に繋げないと!」
僅かしかない手持ちの情報を共有した眷属達は、各自の所持品に不足がないことを確認した後、結界の突破を試みた。
と言っても、突破自体は簡単なのである。
「<ボッチ>が闇神城の結界を潜ったのと同じ手法……赤外線カメラによる撮影で結界外の地図データを収集し、<コマンダー>の拠点を置いてもらう」
「そして皆で其処へ飛び、後は各自決められた方角へ散って探索開始! ご主人様の自販機で買える、文明の利器は便利ですね〜」
もし元日本人のマサルに聞かれたら「いや。地球上に<コマンダー>持ちなんていねぇから。そんな使い方、想定されてねぇから!」と突っ込まれるだろう。
しかしこの場にマサルはいないため、誰かに突っ込まれることもなく話は進み、眷属達は意気揚々と結界外へ旅立った。
なお……「結界を越えるためには、<コマンダー>で外部に拠点を作る必要がある」という理由で、過労で瀕死状態になっていたにも関わらず……
強制的に、「このプロジェクトの主要メンバー」として残業させられたカルマは、遂に新たな扉を開きノルマ・トリップしてしまった。
『アハハハァ〜。仕事って素晴らしい! 僕は働くために存在している。死ぬまでノー休憩で働いて皆の役に立つことこそ、我が人生の意味! ノルマ〜!!』
あまりに狂人ぶりが過ぎるため……結界外へ眷属達を飛ばしてすぐ、カルマ配下のモンスター達が睡眠薬を飲ませて彼を落とし……
「修羅の世界」から生還させた結果、リアルタイムでその様子を見ていた側近以外はカルマの黒歴史を知らないが、扉はもう開かれてしまったのである。
一度「ノルマ・トリップの扉」を開いた者は、未経験者に比べて「修羅の世界」へ旅立つボーダーが下がり、そこの住人になりやすいので……
カルマはもう以前の彼とは違い、「何も知らなかった頃」には戻れない。
意識朦朧としていた本人は、扉を開けた自覚すらないので、目覚めてすぐ眷属達のことを「メグミ先輩そっくりのブラック超人」扱いしたが……
残念ながら、彼もすでに「ソッチ側の住人」なのだ。
だが他者をコキ使うことに何の躊躇いもない眷属達も、カルマに「闇神領域・結界部分の全方角に<コマンダー>の転移拠点を設置して」とは言わなかった。
これは、作業に時間と労力がかかり、「そんな事をしている間に闇神の動きが派手になって、見込み顧客の中級神が殺されてしまう」という理由に加えて……
転移拠点の設置には"相応の対価"が必要になるため、「この段階でカルマに無理を強いて彼がくたばってしまうと、後々支障が出る」という事情もある。
つまり……まだカルマは解放された訳ではなく、眷属達の誰かが「闇神以外の上級神の支配領域」を見つけた時点で、ハードワークが再開され……
拠点開拓でカラッカラに干からびる運命が、ほぼ確定しているのだ。
『ご主人様。お願いですから、それまでお休みください! (お労しい。ついにメグミ様と同じ、"仕事に取り憑かれた狂人"になってしまわれた)』
『お食事も、予算気にせず好きな物をお申し付けください。(ご主人様の死因も、"過労死"になってしまうのだろうか? せめて、栄養をつけさせなければ!)』
『うん。ありがとう。だけど、なんか君達……いつもより優しくない?』
メグミの価値観だと、「これくらい通常業務でしょう。拷問死のリスクがないなら、全て"軽作業"」となるが、ただひたすら哀れである。
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






