780話 財布道を極めた先に
僕の心配など"どこ吹く風"でスルーして、自己アピールが入った事後報告を終えた<ボッチ>は……
話し終えて満足したのか、「また働きに出る」と宣言した。
「ふぅ〜。ご主人様とお話しできて、疲れが吹き飛びました。もう一働きしてくるので、これにて失礼いたします」
「えっ? もう少しゆっくり休まないと、過労で頭イっちゃうよ?」
「経験者からのご忠告、ありがたくは思いますが……他の眷属達も動いている以上、私だけ働かず爆睡なんてあり得ないので! 最後までやり切ります!!」
それを言われると、配下の眷属達が命懸けで戦い、先輩や同盟仲間も<器移し>で己のステータスを賭けているなか……
サーシャとのピンクイベントでエロ沼に沈んで、何も知らずベッドの住人になっていた僕は、もっと立場がないのデスが。
とはいえ……<ボッチ>は頑丈かつ若いため、僅かな休息でも「問題なく動けるライン」までは回復したらしく、見たところ状態異常はないし……
彼に待機命令を下したところで、どうせまた新たな手段を考えて<恵のダンジョン>を抜け出し働いてしまうだけなので、コチラも快く送り出してやろう。
僕の社畜成分を引き継ぎ、かつソレが濃縮されているとなると、おおよそ察せてしまうんだ。
だって濃縮前の僕ですら、<ボッチ>の立場なら、「とりあえず眠気で意識が飛ぶまで働こう。リカバリーなんて、後からいくらでも出来る」となるから。
「行ってらっしゃい。気をつけてね!」
「はい。先輩方に負けない成果を持ち帰り、またご主人様のヘソクリで"自販機大人買い"をさせていただきます」
最後に「お前の金を使って、無許可で高級飯食ったぞ〜」という爆弾を投げ、<ボッチ>は新たな現場へ旅立っていった。
そして同じタイミングで、彼のサポートをしてくれた……だけどサーシャの基礎ステータスをまだ返していない、アスタリア先輩からメールが届く。
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メグミ君〜。
地獄世界で<ボッチ>から受けた暴言の慰謝料代わりに、<恵のダンジョン>の自販機から、君のお金で高級食材を抜いておきました♪
この食材で贅沢飯を作って食べれば、私のコンディションも順調に回復して、サーシャにも早くステータスを返却できるかも?
という事で、支払いヨロシク〜
by鬼婆
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「ノォ〜〜〜〜〜〜!!!! アスタリア先輩にも、ウチの自販機で売っている高級食材、ゴッソリ持ち逃げされた〜!?」
というか、執事達の許可がないと無料にできないはずなのに……セキュリティーが崩壊しているじゃないか!
「(そういえば、眷属だけでなくモンスター達も"僕をハブった件"には賛同したんだったな。そりゃあ、お礼も兼ねて"素通り"させるわ)」
つまり<恵のダンジョン>にある自販機は、今後も「僕から強制的に"奢り飯"をかっ攫えるスポット」と化したわけだ。
「あれ? メグミ君……そんなに世を儚んだ目をして、どうしたの?」
「サーシャ。悪いんだけど、ドラックストアカタログに載っている"毛生え薬"を出すから、自販機で買ってくれない? ストレスでハゲそうだし、対策しておく」
「いや、まだそんな歳じゃないでしょう」
胃に続いて毛根にもダメージが降り注いだが、「アスタリア先輩に奢り飯を食われたこと」自体は嫌じゃないので、諦めて「財布の空洞化」には目を瞑った。
そして現実逃避も兼ねて思考を"別件"へ移し、頭の中だけとはいえ魔王業を再開する。
「サーシャ。今回は先輩達も、基礎ステータスを差し出して弱体化したんだよね? 魔王界での治世に不都合は出なかった?」
「うん。幸いなことに、弱体化を知られる出来事はなかった。ミッション未達のペナルティーでもくらわない限り、基礎ステータス値は公開されないから」
「あ〜、そうだよね」
そのミッションを投票制で決めて、魔王界を回しているのが<農民>同盟な訳だし、そりゃあ「自分達の弱みを晒しかねないミッション」なんて出ないわ。
「与党への反発は?」
「怖いくらいに減った。これまでは上を妬むので忙しかった層が、堕とされた元下級神を餌として搾取するうちに、競合した魔王達を憎むようになったし」
「ふむ。搾取され尽くした元下級神達も、ジワジワ"餌"として機能する人数が減ってくる。搾取組の未来は、新たな搾取相手が堕ちてこない限り暗いな」
「だね〜。もし元中級神が同じように堕とされて、補充が間に合ったとしても、蠱毒化するのは時間の問題だし……関わらない方がいいよ」
「あぁ。関わったところで損しかないし、魔王掲示板で見かけても"幽霊"と思って全スルーする」
それなりに力を持っており、<農民><小鬼>同盟を嫌っている魔王も、全滅した訳じゃないから、「100%安心」とまではいかないけど……
直近でそこまで問題にならないなら、一旦「大丈夫」なものとして割り切り、地獄世界関連に割くリソースを増やす方がいいかもしれない。
読んでくださり、ありがとうございます!
私が以前なろうで連載していてた「落ちこぼれ国を出る」のコミック第9巻が、3月12日に出版となりました。
我ながら面白いと思うので、興味ある方はぜひ読んでくださいm(_ _)m
下のイラストから詳細ページへ飛べます(^_^)