774話 地獄世界そのもの
スティーブの基礎ステータスを借りて体力回復した後、アスタリアに「ザコに見えるデバフ」を何種類か施してもらった<ボッチ>は……
先ほど映像を撮影して、<コマンダー>が使えるようになった闇神城内の転移拠点へ、一人で突入した。
「(ここからは、何があっても声出し厳禁だ! 内部を撮影しつつ、マッピングと要所への侵入を果たす!)」
ザコ・デバフがかかり過ぎて、城内を守る衛兵達は<ボッチ>のことを「迷い込んだドブネズミ」と勘違いしているため、現在のところ襲撃はくらっていない。
そもそも彼が降り立った場所は、普段から衛兵達が"とある理由"で監視を避けていた区画なので、真面目に見ていた者もいなかったのだ。
そして……なぜそんな区画があるかは、闇神の素行を考えるとお察しである。
「(何故だろう? この場所、死臭と香水が混ざったような酷いニオイがする。香水? あぁ、そういう事か。ここは、"囚われた女神達の墓場"なんだな)」
そう。
<ボッチ>が転移で降り立った場所は、陵辱され出産マシーンに変えられた女性下級神達が、集団生活させられている"飼育場"のすぐ側だった。
冷静に考えると自然な話で……アスタリアが利用した「女神達の怨念で歪んだ結界」の場所が、彼女達の生活空間に近いのは当たり前である。
母体として最低限必要な機能以外、何もかも奪われて生きるのも大変な女神達が、命懸けで絞り出したリソースを使って闇神に抗った結果なのだから……
「自分達が暮らす区画」に最も近い結界へ作用点を置き、最低限の消耗でより長く維持できるよう、取り計らわないはずがない!
そして城内にいる間は、毎晩のように彼女達を陵辱して己の欲を満たし、利用価値のある子をこさえていた闇神が……
飼育場を「城の端」に設置し、「最低限の警備しかさせない」ようにしていたのも、必然と言えるだろう。
城の真ん中に"ハッスル会場"を置く恥知らずなど滅多にいないし、部下にジロジロ監視されているところで、「さぁヤろう」となるわけない。
また女神達が妊娠していたときは、生まれてくる子供のために、「身の回りの世話をする下僕」も飼育場内に常駐していたが……
中級神狩りが始まって以降、忙し過ぎて闇神はハッスルタイムをとれず、女神達も全員出産し終えていたので、世話係はすでに引きあげていた。
結果として、飼育場周辺は「見張りが誰もいないうえに監視も緩いウィークポイント」になっており、<ボッチ>が見咎められる事もなかったのである。
闇神としては、結界でガチガチに囲っているため逃げられる心配皆無。
そして産後かつ弱体化させられた女神達が、自分の脚で逃亡を試みる可能性も低く、「もし万が一挑戦者が現れても、失敗する」とタカをくくっていたのだ。
実際、女神達は「今が最高の逃亡チャンス」である事に気付くことすらできず、飼育場内で泣き暮らしていたので、おおむね闇神の思惑どおりだが……
その隙を突かれて<コマンダー>の転移拠点を打ちこまれ、外敵の侵入を許してしまった時点でダメ。
もし他派閥の上級神がこの事実を知ったら、脚色して方々に広め「闇神の黒歴史」として語り継ぐレベルの、大失態である。
「(今、彼女達を救うのは悪手だ。性奴隷が全員消えたとなれば、闇神自身が調査に乗り出す可能性も高いし、そうなったら我々じゃ彼女達を護りきれない)」
もし突入したのが、「女性に優しい紳士」という名の「脳ミソ下半身野郎」だったら、後先考えずに女神達を救い出しただろう。
しかし現在この場にいるのは<ボッチ>であり、そんな考えはカケラも持ちあわせていないうえ、理性100%で動いているので……
「アスタリアへメール報告するだけ」に留めて、他の場所を探るため飼育場から離れた。
また女神と同じ女性のアスタリアも、「今彼女達を助けたら、脚を引っ張られて自分達まで道連れで"負け確定"になる」と考えており……
ベテラン魔王ゆえ、「敗者が屈辱的な目に遭うのは致し方なし」と冷酷な割り切りもできるため、<ボッチ>の判断に賛同。
そもそも女神達の願いは、「地獄から一瞬だけ救われる」ことではなく、「自分達をこんな目に遭わせた闇神に報復する」こと。
つまり、今すぐ飼育場から逃してもらい一瞬だけ"脱性奴隷"するより、このままアスタリア達が作戦を遂行して、闇神と戦ってくれる方がいいのだ。
そこまで考えると、「侵入時に助けとなった"怨念の源"」を救わず作戦を遂行し続けるのも、冷酷とは言えない。
理性100%でスパッと見捨てた<ボッチ>はともかく、サーシャが相談相手として信頼するほど情深いアスタリアは、その辺まできちんと考えている。
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






