768話 千載一遇のチャンス
アスタリアのストレスと、その発散で飛んでいくメグミのお金を、ガソリンとして、地獄世界探索班による「転移拠点開拓作戦」は進んでいく。
指示に従って、1時間に一度は「遭遇リスクのある強敵」を避け、恐怖を感じることもなく、淡々と己の役目を果たす<ボッチ>は……
すでに5回も「中級神の監視区域」を通り、その度に(アスタリアの小細工もあって)ザコ認定され、良くも悪くも開き直っていた。
「いいんだ。どうせ私をザコ扱いした奴等は、闇神に滅ぼされるか下級神のように下僕魔王堕ちさせられて、私以下の存在に成り下がる。もしくは……」
メグミが金儲けを企んだときそっくりの笑顔を浮かべた<ボッチ>は、自分のいる場所が監視区域に近いことを思い出し、すぐ"欲"を抑えて真顔に戻る。
<ボッチ>が先程思いついたアイデアが現実のものとなれば、彼をザコ扱いした中級神達は、"お客様"という名の"カモネギ"になり……
主人であるメグミの財布にザクザクとリソースを注いでくれる、「ありがたい存在」に変わるのだ。
メグミ大好き眷属である彼が、そのイメージを思い浮かべて、幸せな気持ちにならない訳がない!
とはいえ……今そんな妄想に花を咲かせて欲を垂れ流し、その感情を「卓越した探知能力を持つ規格外の存在」に気取られれば……
<ボッチ>は、夢のような光景を見ることもなく惨殺され、その尻拭いでメグミにも迷惑をかけてしまう。
ゆえに大声を張りあげながら作業して、アスタリアに防音結界を張らせた、<ノルマ><タスク><カロウ><ガッツ><キアイ>と違い……
彼は己を律して脳内妄想を止め、ただロボットのように役目をこなす状態に戻った。
そういう配慮を1ミリでも"対人関係"に向けられるタイプなら、ボッチになる事などなかったのだが、そういう性質なのだから仕方ない。
誘導用の式神に彼を監視させているアスタリアは、ため息を一つついて諦め、彼の任務成功率を上げるためにガイド役を続ける。
そして<ボッチ>が危険地帯に突入してから2日……遂に彼は、作戦開始前に目標としていたエリアを突破して……
3つ目の開拓地も赤外線カメラで撮影し、カルマの<コマンダー>による拠点化を果たす。
拠点化できてしまえば、帰りは「そこから<コマンダー>で安全地帯へ転移させてもらう」だけなので、ボッチは作戦遂行完了と同時に帰還し……
再度、アスタリアのいる「比較的安全な闇神派閥領域の外周部」へ飛び、彼女と今後のことについて話し合った。
「アスタリア様。相変わらず闇神は、粛正中の中級神と鬼ゴッコしているんですよね? まだ終わっていない感じですか?」
「探知圏内でピリついている中級神達の、監視の方向を見る限り……まだ続いているわね。よほど、その中級神の逃げ足が速いんでしょう」
アスタリアの予測どおり、闇神<スティグマ>は未だ中級神<シュッセ>を追って、支配領域内を走り回っていた。
スピードでは、「資産として貯めこんだリソースをジェット噴射しながら、命懸けで逃げている<シュッセ>」に軍配が上がるが……
影響を与えられる範囲は闇神の方が圧倒的に広く、<シュッセ>が派閥領域を抜けようと外周部に接近する度、その付近の結界を強めて妨害しているのだ。
また、"誰の犯行か"バレない程度に付近の神々が闇神の足を引っ張り<シュッセ>を助けているため、中々決着がつかず未だに鬼ゴッコは続いている。
ここで重要なのが、<シュッセ>は人望によって助けられたのではなく……
逃げ支度が間に合わず慌てた中級神達が、打算100%で時間稼ぎのために嫌々手を貸した、という点。
ゆえにジェット噴射中のリソースが底をつくか、中級神達の逃げ支度が終えたとき、人望皆無な<シュッセ>と闇神の鬼ゴッコも終わり……
全てを出し尽くして干からびた<シュッセ>は、闇神に捕縛されて破滅する。
これは現時点でほぼ確定的な事項であり、闇神も彼を追いつつリソースの枯渇を待っているのだ。
「リソースを無駄に失うのは惜しいが、ここまでやって<シュッセ>を取り逃がすのは我慢ならない! 必ず我が手で仕留めて、ゴミのように殺してやる!」
と……サンクコストに取り憑かれた闇神は、無意識のうちに子供のような事を考えている。
そのおかげで……<ボッチ>が自分の足で踏み入れて撮影し、皆で力を合わせて開拓した3ヶ所の拠点は、神々にバレる事なく整えられ……
闇神城の周囲も、闇神と<シュッセ>の鬼ゴッコがおこなわれていない方角に関しては、主人不在のため隙だらけ。
<コマンダー>で転移可能な拠点をつくり闇神戦に備えるなら、今が絶対のタイミングなのだ!
もちろん、その状況を直接目視したわけじゃないアスタリアや<ボッチ>は、ぼんやりとしか事態を把握できていないが……
二人共頭が回るタイプなので、「闇神が中央の城にいないなら、千載一遇のチャンスじゃね?」という認識は持っていた。
そして「チャンスタイムは永遠に続くわけではなく、いつ終わりをむかえてもおかしくない」事も、認識している。
読んでくださり、ありがとうございます!
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






