764話 安心してください。墓穴、掘っていますよ。
メグミが送りつけたカンペを丸読みして、自分の意思を入れることなくアスタリアとの会話を終えた<ボッチ>は……
武器と赤外線カメラをいつでも取り出せる状態にして、アスタリアと共に<コマンダー>で地獄世界へ旅立った。
そして早速式神を放ち、「生きて目的地まで辿り着けそうなルート」を探るアスタリアを護衛しながら、その本領を発揮する。
「ねぇアスタリア様。なぜご主人様は、わざわざ"コレを読め"と命じてきたんだと思いますか? バッテリーのムダ遣い甚だしいのに」
「そうね〜。きっとメグミ君は、心配性を拗らせちゃったのよ。<タイダ>や<シキヨク>みたいに、主人に完全放置されるよりはマシでしょう?」
「たしかに。ご主人様の不足を補うのも眷属の仕事ですし、感情で動いてしまう"脳足りん"な部分は、私が秀でることで支えます!」
メグミが心配したのは、「<ボッチ>が余計な毒舌でアスタリアの怒りを買ってしまう事」なのだが、主人の心を解するような眷属なら、こうはなっていない。
電話&チャットによる「カンペの首輪」から解き放たれた<ボッチ>は、悪気なく素直な心で毒を吐き続け、しっかりアスタリアの前で墓穴を掘った。
「(まぁ落とし前は後々メグミ君にとらせるとして、このルートならいけそうね。途中で神見習いとぶつかる可能性があるけど、そこさえ避けさせれば大丈夫)」
もちろんアスタリアは、危険な地獄世界でムダにキレ散らかす事などなく、打ち合わせどおり淡々と事前調査を終わらせて、その結果を<ボッチ>に共有。
彼が無事に目的地まで辿り着けるよう、必要な情報を与えて送り出した。
そして……<ボッチ>の姿が見えなくなると同時に、飼い主のメグミへ一通のメールを送信。
コッソリ録音していた彼の毒舌砲をネタに、「私のダンジョンにも、高級焼肉と新鮮なお魚がタダで食べられる自販機欲しいな〜」と"タカり遊び"を始める。
「それにしても、あの子……速いわね。さすがは、高スペックにマサル君の基礎ステータスを乗せたチート個体。コミュ力以外、最強だわ」
ルートさえ決まってしまえば、<ボッチ>がやることは単純なのだ。
アスタリアの式神がぼんやり光を放って誘導してくれるので、それを追って先へと進み、かつ「スマホにいつでも反応できる状態」を維持すればいいだけ。
スマホはバイブレーション設定にしておけば、自動で震えて通知を届けてくれるので、それを無視しない限りメールを読み逃す心配はない。
また<ボッチ>の誘導係を務めている式神も、リアルタイムでアスタリアの指示を受けているため……
「式神が止まったら自分も止まる」を徹底すれば、アスタリアからの情報が伝わらず、敵と遭遇してしまう展開は避けられる。
「救出不可能な超危険地帯で悪目立ちするバトルとか、自殺行為と大差ないもの。ん……そろそろ、ボッチちゃんが最初の難所に入るわね。大丈夫かしら?」
アスタリアは極力安全なルートを選んだが、中級神のテリトリーには"警戒域が被っている場所"もあり、誰の目にも触れず100%安全に行ける道などない。
ゆえに何ヶ所か「中級神に気配を察知されるであろう場所」を通るしかなく、もしそこで<ボッチ>が目をつけられた場合……
中級神相手だと実力差が大きすぎるため、選択肢が「自刃による魂の救済」一択になってしまうのだ。
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〜血道の刃〜
この刀を使って自刃すると、魂は輪廻に戻るのではなく主人の元へ行き、「主人が創った器」に入ることで、記憶を引き継いだまま転生できる。
ただし転生前のスペックは引き継げず、能力値は「新しい器のスペック」となるため、記憶を引き継げるからといって、必ずしも恵まれた来世を歩めるわけではない。
なおこの刀は、「記憶の媒介役」として自刃者の魂と共にその主人の元へ向かい、役目を終えたあと"刃こぼれした状態"で顕在化する。
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そこでアスタリアは、元巫女の能力を使って「<ボッチ>に付けていた式神」を起こし、呪いをかける形で彼をサポート。
肉体的には何の変化も起こらず違和感もないが、第三者視点から見たとき、本人の実力に関わらず「その存在がザコに見えるデバフ」をかけた。
「中級神が通常モードだったら、私が身を張って囮役をこなし、その隙に<ボッチ>を……って方が、成功確率も高かっただろうけど。この状況じゃね〜」
粛正を恐れて闇神<スティグマ>の動向を随時追わなければならず、逃げ支度でも忙しいなか、彼等は「ザコが監視域に入った」程度で動くだろうか?
まず動かないし……もし仮に動いたとしても、足手まといな配下を放逐する名目として、「ちょっと行って確かめてこい」と様子を見させるだけだろう。
「うん、大丈夫そうね。一瞬、中級神のオーラが<ボッチ>の方へ向いたけど、1秒も経たず元の状態に戻った」
アスタリアの予想どおり、「ザコに見える気配をまとった<ボッチ>」は、中級神のテリトリーを通っても秒速でザコ認定され……
「時間をかけて狩る価値などない」と、監視対象から外された。
もちろん「気配はザコなのに、やたら速く移動する奴」だと怪しまれてしまうため、<ボッチ>にはアスタリアから「走る速度を落とせ」と指示が出ている。
相手視点で物事を考えサラリと罠にはめるタイプのアスタリアに、死角はない。
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






