750話 いきなり要求された側は
〜カルマside〜
過労地獄に囚われた者同士、スティーブ君と愚痴メールで互いを慰めていたところ、それがまさかの転送設定になっており……
愚痴の内容が、先輩方に筒抜けてしまっていた。
「オエェェェ〜〜〜〜ッ!!!!」
終わった、僕の魔王人生……先輩方を本気で嫌っているような悪口は書いていないけど、先輩方のアダ名についてはボロボロと出しちゃったし……
特にメグミ先輩に対して、特大の墓穴を掘りまくりだ!
「(胃にガツンとくる霜降り肉を食べた直後に、これはダメだ。全部出た……。というか、明日の朝には僕の肉体が"焼肉サイズ"にカットされていたりして)」
メグミ先輩は身内には優しいけど、敵の尊厳を徹底的に破壊したり、拷問し尽くして殺した事もある修羅なので、この失態はシャレにならない。
<−−− ヴーーンッ −−−>
「カルマ、とりあえず僕は土下座行脚に行ってくる。お前はこのモニターを繋いで、僕が謝ったら画面越しに動きを合わせ、そのあと機を見て命乞いしてくれ」
「了解! ありがとう」
僕に指摘されて己の失態に気づいたスティーブ君は、命の危険を感じて、顔色がさらに悪くなってしまった。
とはいえ執事家系出身の彼は正義感が強く、加えて「自分のダンジョンから出ても支障ないポジション」にいるので、「逃げる」という選択肢などとれない。
結果としてスティーブ君は、<ボッチ>のアシストで動けない僕の代わりに、怒りの矢面に立つ土下座行脚を引き受けてくれた。
僕もモニター越しに処されなきゃいけないわけだが、直接先輩達に会ってダイレクトに〆られる彼よりは、遥かにマシだ。
そう考えて自分を慰め、勇気あるスティーブ君の成仏を願って香を焚きつつ、彼がモニターを先輩達へ向けるたびにジャンピング土下座していたところ……
一番ヤバイ相手であるメグミ先輩のダンジョンへ、スティーブ君が命乞いしに行ったタイミングで、僕のスマホが鳴り<ボッチ>からのメールが届いた。
「(えぇ〜、今コレを言うの!? 僕、即死ぬじゃん! ダンジョンに乗り込まれて全身の肉を薄切りにされ、生きたまま焼肉にされちゃうやつじゃん!)」
<ボッチ>のメールに記されていたのは、「ご主人様に、<遠隔商談>でメチャクチャよく効くスプレータイプの媚薬を送るよう、伝えて」という要求。
平常時であれば「タチの悪い冗談」と思って無視するところだが、「現在、神見習いと戦闘中。大至急!」と追記されている。
『カルマ〜、お前に選択肢をやるよ。僕を"狂人"だの"マゾ"だの言えないくらい、エグい過労地獄をくらって生まれ変わるか……100日連続徹夜するか……』
「(それ、"廃人化して再起できない"って意味では同じ〜! でも、なんとか伝えないと<ボッチ>が……。)先輩、お怒りのところ申し訳ないのですが……」
『なに?』
「<ボッチ>が、再び神見習いとの戦闘になっているようでして。緊急のメールを転送してもよろしいでしょうか?」
『チッ! 早く送れよ』
話の腰を折られたメグミ先輩はイライラなさっていたものの、<ボッチ>から届いたメールの転送データを見て、驚きのあまりスマホを放り投げてしまう。
<−−− ガッ……カラカランッ −−−>
「(あっ、先輩のスマホの画面がバキバキに逝った。くくくっ、意外と純情で……ってダメダメ! ここで笑ったら殺される。マジで拷問死させられる!!)」
絶賛"土下座行脚中"の僕とスティーブ君に、「リアクションをとる」なんて選択肢は与えられていない。
僕等ができるのは、メグミ先輩に顔を見られないよう深々と頭を下げ、腕や足の肉をつねって笑いを堪えることだけだ。
完全に不意を突かれたタイミングで、「媚薬よこせ」の文字を目にしてキョドり、それを僕等とサーシャさんに見られている事に気づいたメグミ先輩は……
羞恥心で顔を赤く染め、画面の割れたスマホを拾うこともなく、ただボーッと突っ立つ"置き物"になってしまった。
気持ちは痛いほど理解できるし、可能であれば僕とスティーブ君も記憶を飛ばして、全部「無かったこと」にしたいんだけど……
命懸けで戦っているボッチから「至急」と言われている状況ゆえ、自分達の事情を優先する余裕はない。
『メグミ君、はいコレ。<ボッチ>が所望したドンピシャの媚薬、どうぞ〜』
そして……攻めっ気が強いからか、当然のように「要求を100%満たしている媚薬」を持っていたサーシャさんが、メグミ先輩にそれをポンと渡した。
『あぁうん。ありがとう』
それによって強制的に現実と向き合わされたメグミ先輩も、サーシャさんに文句を言うことはないため、素直にお礼を言い……
穴があく程ジーッとその媚薬を見て、「ウガーッ!」と叫びながら髪を掻きむしり、要望どおりソレを<遠隔商談>で<ボッチ>のもとへ送る。
それにしても……なぜ<ボッチ>は、命懸けの戦闘をしている最中に媚薬なんて要求したのだろう?
って、あっ……しまった…………メグミ先輩が、能面のような表情でモニター越しにコチラを見ている。
先輩に謝罪行脚している最中であり、しかも「本人にとって黒歴史確定の現場」をバッチリ覗いてしまったこと、忘れていた!!
読んでくださり、ありがとうございます!
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