75話 先手を取られた指揮官の対処法
〜とある指揮官side〜
先発部隊を率いる私が、砂漠の真ん中でボケッと突っ立っている訳にはいかないので、学んできた知識を総動員して事態を把握する。
目印となる”自動販売機”があるという事は、我々が道を間違えたのではなく、ダンジョンサイドに変化があったということ。
「ふむ。だとすると……我が軍の接近に気づいた魔王が、オアシスを別の階層と入れ替えたのかもしれんな」
「コンダック閣下。階層入れ替え……ですか?」
「あぁ。”汚物ダンジョン”の魔王は、特にズル賢いと聞いている。魔王学の仮説をふまえると、ありえる話だ」
この仮説はおぞましすぎて口外禁止となっているため、大学院を卒業しているエリートの中でも、極一部の者しか知らないが……
魔王という生き物は、人間のエネルギーを糧としており……「人を喰うことでダンジョンを成長させる」という、悪魔的な性質を持っているらしい。
そして奴らが喰らう”人間エネルギー”は、殺害時だけでなく……ダンジョン内に滞在させるだけでも得られるため、故意に人を留めおく事もあるそうだ。
以前その代表例として、”人間牧場”を作りあげた魔王の話を聞いたときは、恐怖のあまり何日も眠れなかったよ。
形態こそ「牢獄→オアシス」へ変えているが、「人間エネルギーを搾取している点」は一緒だし、おそらくここの魔王もアレの同類なのだろう。
「くそっ、鬼畜すぎて吐き気がするわ! 自分の無能を棚に上げて人間社会へ恨みを持ち、闇落ちした醜きゴミめっ!」
私の経歴……そしてヴィッチネント王国の国益を損なわぬためにも、必ずこの手でトドメを刺してやる!
とりあえず、指揮官として目下の指示を出さなくては。
「全軍へ伝えよ! 標的が逃げた以上、”オアシスの住民殲滅作戦”は中止だ! 聖女様が到着なさる前に神殿を建て、進める所までダンジョンを攻略せよ!」
「「「「「はっ!」」」」」
当初の方針では……オアシス住まいのゴミを一人残らず殲滅し、汚物の供給を止めるつもりだったが……仕方ない。
近くの街で待機している各軍へ、現在の状況を伝えるとともに、仮設テントと聖女様が使う神殿(仮)を準備。
ダンジョン入り口にあたる、ここら一帯を実効支配したのち、本格的に攻略を始めよう。
「フゥ……。出鼻を挫かれたとはいえ、銭ゲバ魔王が自販機を置きっぱなしにしている以上、まだ我らが有利!」
確保が大変な水を銅貨で買えるというのは、ギフト持ち30人に匹敵するほど、大きなアドバンテージだからな。
「クイズフロアは”念話ギフト”を使えば、容易に突破できるはずだし……汚物を片付けるための、スカベンジャースライムもすぐ合流する」
自らの過信・強欲さが仇となり、ジワリジワリと時間をかけ、ダンジョンを攻略されたときの魔王の顔。
“汚物フロア”などという愚劣なやり方で、人を見下し続けた輩が……命を奪われる側になったとき、浮かべるだろう絶望の表情を……
正しく生きる一人の人間として、拝みたいものだ。
「閣下、報告します! ご命令どおり、小隊で1階層へ潜ったのですが……事前情報とは100%異なる、<天国と地獄フロア>なるモノがありました」
「何っ?」
「また魔王の姑息な策か!?」と怒鳴りたくなるのを我慢し、現場を見てきた部下から、<天国と地獄フロア>の概要を聞く。
「〜〜〜〜〜〜。つまり運の悪い者は、罰金を取られるだけでなく……人前で尻を叩かれたり、<ウ◯コマン>にされるという事です!」
いや、運もなにも……確率論的に、大半の奴らがクソ塗れになるだろう。
実際に現場へ行ってみると、「ルール説明」と書かれた巨大パネルに、キチガイじみた詳細が記されており……
ルーレットの見本にデカデカと書かれた、<ウ◯コマン>の赤文字と、その隣にある汚物っぽい絵のリアルさが、ムカつき度を上げていた。
「しかも、こんな所まで金をせびるのか! 俗物にも程があるだろう!?」
人間社会で買い物する事などない”引きこもり”が、人の文化である貨幣制度にとらわれる様は、滑稽とも言えるが……それにしたって限度があるわ!
腐れ魔王のせいで軍の出費が増え、その責任が私にかかると思うと、怒りで脳の血管がはち切れそうだ!
「ハァ……ハァ……落ち着け。冷静になれ! 私は先発部隊を率いる准将。ヴィッチネント王国の上級貴族なのだ」
まずは兵士を”ルール通り”に動かしつつ、<天国と地獄フロア>の内部構造を把握する。
そのうえで最良の策を考え、我が軍の精鋭……または他国軍と協力して、魔王をブチ殺せばいい!
「ファルモンド准尉。今すぐ300名の兵士を突っ込み、<天国と地獄フロア>を実地調査せよ!」
「あの、閣下……。兵士たちが、ウ◯コを嫌がって動かないのですが……」
「はぁ!? 貴様らは全員、給料をもらっているんだ……やれ! 金欠でも、尻を差し出せば進めるようだし……文句がある奴は無一文で放り込むぞ!」
「ヒイィィッ!?」
特別予算の中から、“汚物慰労金”までもらっているくせに……今更なにを怯えているんだか。
平民の分際で高給を得ている貴様らは、我々上官のコマとして、命令どおり<ウ◯コマン>になれば良いのだ!
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






