732話 最初のターゲット
論理的思考を得意とし、部下からの人望も並以上にはあったものの、優柔不断で損をすることが嫌いな中級神<マヨイ>は、現在窮地に立たされていた。
ウグリスの件で派閥の神々から総スルーをくらい、それを恨んで派閥の下級神を全滅させた闇神が、彼のことも滅ぼそうと神殿に乗りこんできたのだ。
「クソッ! 他の中級神が狙われたなんて報告は、上がっていなかったはず。なのに何故っ!?」
「何故って、そりゃあ……テメェみたいな優柔不断野郎は、決断する前に滅ぼす方が楽だからな。"中級神狩り"は一筋縄じゃいかねぇから、省エネだ」
「クッ……やはり、下級神だけでなく我等も全滅させるつもりだったか!」
「当然だろう。裏切り者には"死"あるのみ」
<マヨイ>とて、頭では理解していたのだ。
数こそ多いものの、派閥替えしようが不正をはたらこうが、そこまで大きな影響は出ない下級神と違って……
中級神は管理している世界の数も多く、一神裏切るだけでも勢力図が変わる存在なので、派閥主は彼等の忠誠心を何よりも重視する。
それにも関わらず、ウグリスの件で闇神は中級神からも総スルーされており、ここぞという場面で、背中をあずけられる関係じゃなくなっていたので……
代わりなど幾らでもいる下級神と違い、本当にすげ替えたいのは自分達"中級神のポジション"であり、機会があれば動いてくる……と。
だが頭では理解していても、実際に派閥を替えて、新派閥主の信頼もゼロのなか一からやり直すのは……
損をすることが何よりも嫌いな<マヨイ>にとって、心臓を鷲掴みにされるような苦痛をともなう行為であり、まだ決断に踏み切れていなかったのだ。
そもそもの話……ウグリスの件で闇神派閥の神々が派閥主をスルーしたのには、「お前のパワハラと無茶なノルマ設定が原因でこうなったんだ」という……
闇神への呆れがあり、自分達に課せられた上納ノルマをこなすためにも、不採算世界の<サルトー区・ポルカト界>を受け入れられなかった、事情もある。
闇神にとっては「そんなの関係ねぇ」という話でしかなく、派閥の神々が自分を裏切った……この結果こそが全てであり……
怒りと今後の派閥運営を考えて、「今のうちに膿を出しきる」という結論になったわけだが、<マヨイ>にとってソレは心から納得できるものではなかった。
結果として、「闇神にも悪いところはあった」という思いから、「闇神の牙が自分に届くなんて理不尽」という考えが生まれてしまい……
実力差をわきまえず優柔不断に「損しない方法」を模索した結果、いの一番に乗りこまれて詰みかけているのだが、これを自業自得というのは気の毒すぎる。
いくら<マヨイ>が優柔不断な神でも、他の中級神が闇神に狩られ始めたら、さすがに命の危機を感じ、全てを捨てて逃げ出すし……
闇神派閥には中級神も50神いる以上、その中で<マヨイ>が最初に襲われる確率は2%しかなく、それを折り込んで行動するのは困難だからだ。
とはいえ……そんなハードモードすぎる状況でも、<マヨイ>が助かるためには目の前の闇神を倒すしかなく、もしそれが出来なければ滅ぼされる。
全てが自己責任であり、判断をミスると時と場合によっては命まで奪われるのが、神界で生きる者の定めだからだ。
殺される一歩手前まで追い詰められた<マヨイ>は、事ここに至って戦う決意をかためて、上司だった闇神<スティグマ>に牙をむく。
「かくなる上は仕方ない。この外道神めっ、己の所業をかえりみて破滅するがいい!」
彼は、生物の中に存在する<迷い>や<悩み>を司る悪神であり、「ターゲットの黒歴史を、脳内でエンドレスに想起させる」という……
絶対に関わりを持ちたくないタイプの、悍ましい神力を極めていた。
それに加えて、迷いや悩みを増幅させることで相手の判断力を鈍らせ、迅速な対応をできなくすることで……
自分自身が優柔不断で行動するまでに時間を要する、欠点を持つにも関わらず、相対的に「迅速さ」で勝ってここまで生き抜いてきたのだ。
「くらえっ、<恥想起><迷い増幅><悩み増幅>のトリプルコンボを!!」
<マヨイ>の目から見て闇神は「黒歴史のデパート」であり、ウグリスの件以外にも過去に色々とやらかしているため……
その黒歴史を掘り返して精神的ダメージを与え、弱った心につけ込んで、迷いと悩みを増幅させれば、勝利の目もゼロではない……と判断。
それに対して闇神は、<マヨイ>の狙いを潰し絶望感を与える言葉をはく。
「ふんっ! たしかに貴様の精神攻撃は、"きちんと通れば"私にもダメージを与えるだろう。だが、発動から効果が出るまでにタイムラグがある」
そして<マヨイ>の最大の弱点である、「即効性の攻撃手段がほとんどない」ところを突き、ダメージを受ける前に接近戦を仕掛けて彼の魂をえぐり出した。
いくら「黒歴史再生」や「優柔不断属性付与」が脅威でも、それが効果を発揮する前に殺してしまえば、受けるダメージは最小限で済むのだ。
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