729話 常識がインプットされていない
〜メグミside〜
「くくくっ、一旦<ヒッキー>のことは置いておこうか。他の5体……<ノルマ><タスク><カロウ><ガッツ><キアイ>は、どうしているの?」
「5体とも、元気に地獄世界でマッピング作業をしていますよ。現在のところ、敵との遭遇はありません」
そう……本当に、"元気"に活動しているのだ。
社畜体質だからか報・連・相を欠かさず、さらに5体バラバラに動いているため、僕のスマホにはそれぞれから10分おきに簡易報告がくる。
5体それぞれが10分おき……つまり僕のスマホには、2分に1件の報告メールが届いている状況であり……
先輩達が来るまでトイレに籠っていた間も、鳴りまくる通知音のせいでスマホを手放せない状態が続いた。
「(たぶん5体共、<駒つくりの筆>で下僕を動かしているだけで司令塔となる自分は動けないから、退屈なんだろうなぁ〜)」
いくら「気合いと根性で無限に下僕を生み出す」といっても、この筆はマナを消費しないと下僕をつくれないから、実質的には限りがある。
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〜駒つくりの筆〜
この筆にマナを込めて生物を描くと、その生物が実体となり、描き手の指示に従って動いてくれる。
かなり細かい指示も与えられるが、衝撃を受けると実体を維持できなくなり、崩れてその場で滅びてしまうので、何でもかんでも任せるのは難しい。
なお"衝撃"と認識されるボーダーラインは、描くとき込めたマナに比例するため、用途によってマナの量を変える必要あり。
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ギフト使用中のスティーブみたく、胃に排水チューブを刺しこんで「腎臓の負担なく水を抜ける状態」にして、無限マナポーション戦法をとれるのは……
安全が保証された環境で、自分自身がベッドの上から一歩も動かずとも、周りが全てお世話してくれる場合だけ。
いつ敵と遭遇して命懸けの戦闘に突入するかも分からない状況で、腹から排水チューブを垂らしたり、腹が膨れるまでポーションを飲むわけにはいかない。
結果として眷属達は、あり余る気合いと社畜根性で「戦えるギリギリ」まで下僕を生み出したはいいものの、其奴等を解き放って調査しているあいだ暇に。
そして生まれたばかりゆえ「暇を潰す方法」を知らず、自分が担当しているマッピングデータの整理業務を、ダラダラこなすことなく最速でやり……
話し相手すらいない地獄空間で、ポツンと一人時間を余らせてしまって、「余裕があるなら報・連・相」の精神で、僕に報告メール攻撃してきたのだ。
無視するのも可哀想だから、メールが届いたら適宜チェックして、返信の必要があれば返しているけど……
社畜体質が時間とエネルギーを持て余して、空回ったときの威力をナメていた。
次からは、彼等に余計な暇を与えぬよう「時間に余裕があるときやる副業」も渡して、僕への報・連・相に割くエネルギーを減らすことにする。
<−−− ピロリロリーン♪ −−−>
「あっ、また来た」
「なるほど。たしかに報・連・相を徹底して、サボることなく真面目に働いているみたいだね。(メグミ君自身も、やや報・連・相が多いタイプだからなぁ〜)」
事情を察した先輩方は苦笑いだが、ここで「ウザい。メールすんな」と怒って、現場で命の危険に晒されている彼等のモチベーションを下げる訳にもいかない。
それで凹んでいるところ、運悪く敵と遭遇して殺されてしまったら、ほぼ僕のせいだし寝覚めが悪いもん。
「たぶん、ちゃんとしたミッションは初めてだから不安なのもあるでしょう。大好きなご主人様に、頑張りを認めてほしいんだと思うよ」
「はい。なので、メールで"ありがとう"とか"頑張って"を連発しています」
僕とサーシャのモンスターで一番強い砂龍・風龍も、生まれた時は幼い感じだった(現在も、まだ子供っぽいが)し……
身動きがとれない赤ちゃんではなく、大きな身体で生まれてくる配下であっても、高知能な者ほど精神の成長はゆっくり……みたいな特性があるのかも。
<−−− コンコンコンッ! −−−>
『お忙しいところ失礼します。マスター。ヒッキー様より、地獄世界にいる眷属様方が集めた最新データを取り寄せてほしいと、ご要望が入りました』
「了解デス。すぐに取り寄せるので、そこで待っていてクダサイ」
2分に1回くる報・連・相メールも大概だが、ヒッキーの「最新データ寄越せ」攻撃もヤバイ。
特にさっきの暴言祭りの後だと、ストレスが再燃して胃に穴が開きそうだ。
「というか、もう<ヒッキー>は手持ちのデータ処理を終えたの? 現場班も全力で集めているから、相当な分量あったよね?」
『はい。すでに終えられており、現在は"休憩"とおっしゃって、メグミ様が冷蔵庫で保管なさっていた、サーシャ様の愛妻弁当を食べておられます』
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!?」
『冷めていてマズイけど、なぜか落ち着く。もっと食べたい……とのことで』
おぃ、サーシャの手作り弁当をレンジでチンすらせずに食って、「マズイ」はないだろう。
テメェ、張り倒すぞ!!!!
読んでくださり、ありがとうございます!
この小説を読んで面白いと思ってくれた、そこの貴方(≧∀≦)
モチベーションUPの為の燃料……ブクマ・評価・感想・レビュー、待ってます!!
作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






