709話 攻撃力を持つ自販機
〜メグミside〜
「他に目ぼしい変更点と言ったら、自販機の不壊特性がランクアップしたことくらいかな? "壊れない"だけじゃなくて"反撃してくれる"のは、助かるかも」
Sランクの時点で不壊特性が付いており、「神様に蹴られても壊れない金属の塊」になっていた、僕の自販機。
それがSSランクに昇格したことで、不壊特性はそのままに、「破壊しようとした相手から罰金を自動徴収するシステム」が追加され……
サポート一辺倒で攻撃力皆無だった自販機に、(自衛限定とはいえ)敵にダメージを与えられる能力が加わったのだ。
「現金や貴金属を持っている相手からは、まずソレ等を徴収。金欠だったり、奪えない場所に資産をしまってある相手の場合、資産の代替としてMPを徴収する」
ここまでは、取られたところで若干ムカつく程度のダメージだが……自販機の自衛能力が恐ろしいのは、ここから。
マサルをはじめ戦い慣れている猛者は、敵のバキューム能力で戦闘不能に陥らぬよう、普段から「己のHP・MPを保護するアイテム」を身につけている。
だけどこの自販機……MPもガードされて奪えなかったら、次はHPを……HPもダメなら、次は魂から直接リソースを徴収しにかかるんだよ。
つまり下手に罰金徴収をさまたげると、貴金属やMPより何倍もヤバイ、「才能の器」とか「存在」そのものを奪われてしまうわけで……
強者であっても、初見で「ムカつくから蹴った。この箱の調査? 必要あるの?」みたいなポカをやらかすと、取り返しのつかない代償を支払うハメになる。
「そもそも、その罰金徴収能力……どう見ても"自衛限定"なんて甘い代物じゃねぇしな。敵の上に自販機を出現させて、落とせば罰金取り放題じゃん」
「あっ、そうか。たとえ敵が"身を守るために自販機を蹴り飛ばした"パターンであっても、自販機視点で"攻撃された"なら、罰金徴収機能は発動しちゃうんだ」
となると、"サポート特化"ゆえ攻撃に加わることができなかった僕でも、「自販機飛ばし専門の後衛」として参戦できるってことだよね?
敵に避けられて味方に被弾すると、フレンドリーファイアで味方から罰金を強制徴収してしまい、足を引っ張る結果になるけど……
徴収の仕組みが最初から分かっている以上、味方には念のため「失っても困らない金貨」を数枚、奪える所に持たせておけばいいだけ。
そしてリスクを抑えつつ、敵には「絶対に壊れない超絶重たい金属塊」が頭上から幾つも降りそそぎ、「うっかりガードしようものなら即罰金」という……
初見殺しかつ地味に強力な攻撃を、在庫の消耗ナシでぶつけられるのだ。
「マサル。後で<自販機流星群>の試し打ちをしたいから、敵の役をやって何発かガードしてよ。バイト代は払うからさ〜」
「構わないけど、経費は絶対にお前持ちな。幾ら奪われるのか、徴収された罰金が何処へ行くのか分からん以上、経費自腹なんて御免だぜ」
了解です!
実用化に向けたテストは、マサルに有償でやってもらうとして……使い方を学ぶための訓練なら、カルマとスティーブを生贄にするのもアリかも。
彼等にとっても「物理攻撃を避ける修行」になるし、たとえ自販機を避けきれず弾き飛ばしてしたところで、MPを枯渇するまで絞られる程度で済むでしょう。
「他にも……自販機のラインナップに<両替機>が追加されたり、細々とした機能拡張はあるけど、目立つ変更点はないな」
自販機は、どこまでいっても自販機なのだ。
SSランクにランクアップしたからといって、自販機に手足が生えて眷属化したり、自動で戦闘をこなす部下にはなってくれない。
「もし誰も到達者がいないだけで、SSランクの上にSSSランクが存在するのであれば、ランクアップした暁には"自動で判断する機能"くらい付きそうだけど」
「えっ、本当!?」
「俺が暮らしていた頃の日本では、まだそういう機能は装備されていなかったものの、AI……人工知能の研究は、盛んにおこなわれていたからな」
「…………?」
「実際に触れてみないと、概念を掴むのは難しいか。とにかく、お前の代わりに色々察して商品を提供してくれる、"秘書的な自販機"ができるかもって事だよ」
まったくイメージがつかないけど、「マサルが元いた世界はファンタジー」って事だけは理解できたよ。
たぶん自販機にオートマタを組み合わせたようなモノが生まれて、その子がオススメ商品を勝手に買って提供してくれる……みたいな感じだよね?
本当に僕や仲間の気持ちを汲んで、スティーブ並みの執事力を発揮してくれるなら、メチャクチャ助かるけど……
役に立たないのに、なぜか課金力とやる気だけは一級品みたいな、「ポンコツ秘書自販機」が誕生したら、特急呪物に憑かれた状態になっちゃいそう。
読んでくださり、ありがとうございます!
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






