698話 怖爺
アスタリアの愚痴チャットを見たモンティートの動きは早く、魔王掲示板と投票システムの対応を、ゴーブルとルノーブルに任せ……
<水城のダンジョン>で執事仕事に精を出している、スティーブの元へ向かった。
「うわっ、モンティート先輩!? 急にどうなさったんですか?」
多少驚いたものの、<農民><小鬼>同盟の下っ端であり、規格外過ぎるメンバー達に振り回されているスティーブは、すぐ冷静さを取り戻し……
眷属付きで飛んできたモンティートを出迎え、入荷したばかりの新茶を淹れて彼に差し出した。
<−−− ズズーッ −−−>
「ありがとう♪ あっ、スティーブ君。要件ね〜。諸事情あって、僕が君を鍛えあげることにしたから」
「えっ!!!?」
<−−− バシャッ! ゴトッ。パリーンッ! −−−>
「熱うぅっ!!!!」
残念。
努めて冷静に対処したスティーブだったが、モンティートの口から出た想定外過ぎる発言に、執事の仮面がヒビ割れてしまい……
セットで購入したばかりのティーセットと、熱湯入りのティーポットを落として、熱々のお茶を被りリアクションをとるハメに。
「あらら。スティーブ君、大丈夫? お爺が治してあげようか?」
「大丈夫です! ご心配をおかけしてスミマセン」
<−−− ズルッ! −−−>
そして火傷の治療そっちのけで、割れたティーセットとポットを片付けようとして、革靴でビショビショに濡れた床を踏み……
尊敬する大先輩の前で滑って転び、二次被害をくらう"失敗芸"を披露。
スティーブがそうなってしまうのも、無理はない。
彼は、カルマのように才能があるわけでも、メグミ&マサルのように伸び代があるわけでもなく、サーシャみたいな華もない。
<小鬼>同盟に入れてもらったはいいものの、「戦力としては計算されていない」と自覚せざるを得ない状態だったため……
まさか自分が、魔王ランキング1位のモンティートから直接指導してもらえるなんて、夢にも思わなかったのだ。
「えっ、ええと……っ、そのぉ〜〜…………」
「うん。まず火傷を治そう。そして正気に戻ろうね」
スティーブの気持ちを理解しつつも、のんびりスベリ芸を眺める暇などないモンティートは、回復魔法で強引に彼の火傷を癒やし……
バリバリに割れたティーセット&ポットを、土精霊に"新品同様の状態"まで修理させ、服とズボンに吸われた茶を風魔法で乾かす。
そしてスティーブと相性の良い水精霊に、彼の緊張を取り除くよう指示して、精霊魔法で無理やり落ち着かせた。
「……………………」
「おかえり〜」
根本的な原因(=モンティートの存在と発言)が消えていない以上、表面的に落ち着かせても、またすぐ再燃するのだが……
スティーブがリラックスした状態で話せる魔王など、<農民><小鬼>の中には絶賛シゴかれ中のカルマしかいないので、仕方ない。
モンティート的には、耳と脳さえ正常に稼働していて話を聞いてもらえる状態であれば、それでいいのだ。
「ゴホン! じゃあ、改めて話すね〜。諸事情あって、君が持つ<水の職人>ギフトを極めてもらう必要が出てきた。ここまでOK?」
「はい。心は全然受け入れてないけど、脳で意味は理解しました」
「素直でよろしい。あくまでも可能性の話なんだけど、今よりも事態が悪化する可能性があって……そうなった時、君にはメグミ君達の力になってほしいんだ」
「なるほど」
「水属性は、勇者でもある彼等が好んで使う聖属性と相性が良いし、君のギフトは汎用性が高いからね」
「分かりました。現場へは出られずとも、御二人の希望に添ったオーダーメイドのアイテムを提供することで、協力できる……という事ですね」
「うん。現時点ではまだBランクだから、ギフトで生み出せるアイテムもショボいけど、Sランクまで上げれば多分役に立つ」
「Sランク……。分かりました! 僕には<はい>か<Yes>の選択肢しかないですし、皆様のお役に立つためなら何だってやらせていただきます!!」
「良かった〜。そう言ってくれると嬉しいよ! スティーブ君、期待しているから!」
「はい。どんな事でも遠慮なくお命じください!」
もしカルマがこの場にいたら、「スティーブ! その発言は、処刑同意書に自らサインするのと同じだ。今すぐ撤回しろ!」と忠告しただろう。
しかし……絶賛シゴかれ中で、限界突破できずゾンビ化しているカルマはこの場におらず、スティーブが自らの危機に気付くことはなかった。
「(スティーブ君も迂闊なことを。"何でも"とか"どんな事でも"って言葉を吐くと、大概ロクなことにならないのに。まぁ僕にとっては好都合だからいいけど)」
現時点でそれに気付いているのは、三途の川が見えるくらい追い込まれているカルマ以上に、スティーブを追いこみ……
鬼畜レベリングで限界突破させようとしている、モンティートただ一人である。
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)