692話 神経図太い奴といると
〜マサルside〜
限界を超えたパニック状態になり、同盟仲間の前で惨めな姿を晒してしまったカルマと、平常運転のメグミを見た俺は……
怖くて堪らなかったはずなのにスッと恐怖心が消え、次の行動を考える余裕が生まれた。
だけどまだ「冷静とは程遠い状態」である自覚はあるので、考えを口に出してメグミに伝え、一番落ち着いている彼の反応を見て、実際にどう動くか決める。
「メグミ。ついさっき、俺でも秒殺される気しかしない強敵が探知圏に入った」
「うん。大慌てで気配消し対策していたよね」
「あぁ。何か勘付かれたっぽいけど、敵がコッチに来ることはなかったな。だけど通り過ぎたところをUターンして、コッチをジロジロ見ている感じだった」
「うわぁ〜、よくそれで襲われなかったね。さすが、マサルの気配消し対策!」
そりゃあ命懸けで頑張ったし、勇者時代に<恵のダンジョン>で何度も死にかけたことで、極限状態に慣れていたからな。
人間としてはあまり積みたい経験じゃねぇが、今回ばかりは助かったよ。
「それも踏まえて、これからの動きを考えなきゃいけねぇ訳だが……まだ進むか? それとも引く?」
「敵は、どの方向へ行ったの?」
「俺達が進んでいた方向を、垂直に横切っていったよ。近付いてきたときのスピードを考えると、もう相当距離は離れている……と思う」
「ふむ。だったら進もう。敵が留まってコッチを見ている状況ならともかく、距離が離れたのなら、遭遇前と大してリスクは変わらないでしょ」
「そりゃあ、まぁ……確かにそうだな」
俺達がいる空間は、依然として「壊れた神殿跡」とか「悪魔の死骸」が散見されるだけであり、その敵以外に"生きている奴"の気配はとらえていない。
なのでメグミの言うとおり、ここはまだ神界の端の方であり……敵との遭遇率は低く……現状、探知圏に誰もいないチャンスタイムなので……
リスクは遭遇前と大差ないから、合理的に考えると前へ進むべきなのだ。
「分かった、もう少しだけ進んでみよう。だけど、さっきので俺は心身共に消耗しちまった。悪いけど、あと15分頑張ったら無理せず引きたい」
「了解! このチームで戦力になるのは実質マサルだけだし、マサルが無理なく動ける範囲で攻めるべきだ」
そう言うと、メグミは移動型結界を動かし始めた俺の邪魔にならぬよう、そっと回復魔法をかけ……心を癒し、自分のマナを分けてくれた。
冷静に考えると、「"実質的な戦力は俺一人"な訳だし、俺の心身が消耗したらスタミナを分け与えて回復させる」のは、有効な自己防衛策の一つだろう。
だが命がかかった状況で「己のスタミナを削り、"咄嗟のとき身を守る力"を落としてまでチームに貢献する」という選択を、ナチュラルにとれるのは凄い。
「メグミって、変なところ大人だよな〜」
「えっ、そう? あまり自覚はないんだけど」
「やっぱり勘違いだ。お前は、ただのシュゴーマン」
「酷いっ!」
ちょっとムカつく気がしなくもないが、メグミと喋っているうちに緊張が解れてきた俺は、12分でさっき敵がいた場所に到着。
するとそこには、「見たことない文字が書かれた高そうな封筒」が置かれており、鑑定すると「敵が用意した紹介状」であることが分かった。
「望むなら、次期下級神候補として我が神殿で育ててやらんこともない……ねぇ。そんなものになりたいなら、とっくの昔にウグリスを殺しているよ」
すでに変更で消えたとはいえ、「ウグリスを殺せば即邪神昇格で、<サルトー区・ポルカト界>を治める権利を与える」というルールがあったからな。
どう見ても面倒事を押し付けられるハズレポジションとはいえ、本気で出世したいと思うなら、確実に"下級神成り"できたあのタイミングを利用している。
「可燃ゴミだな。要らねぇし置いていくか」
「いや、コレ持ち帰らない? GPSみたいな機能がついていて、探知されると厄介だけど……格上の神に繋がる手がかりでもあるしさ」
「たしかに」
カルマの<コマンダー>ギフトがレベルアップして、俺達の望む方向へ強化されてくれれば、話は別だけど……
現状、俺達が得られるのは「下僕魔王に聞いた神界の情報」だけであり、中級神以上の神に繋がるデータはほとんどない。
「探知される可能性は……大丈夫。紹介状が本物であることを示す刻印は押されているけど、空間を越えてまで追跡できるほど強い痕跡じゃない……と思う」
「なら、一応上から封印をして持ち帰ろう。本当にヤバかったら、<コマンダー>で手紙をポイ捨てしに戻ればいいだけだし」
メグミの言うとおり、手掛かりになるかもしれない"お土産"は出来るだけ持ち帰った方がいいので、俺はその場で紹介状に封印式を貼り……
ガッチガチに封印したうえで、探知妨害機能付きの宝箱に入れてアイテムボックスで保管した。
さすがにコレなら、俺達が<サルトー区・ポルカト界>から紛れこんだネズミ」だと、勘付かれることはないだろう。
で……カルマ、そろそろ起きて仕事をしろ!
帰った後でいくらでも現実逃避していいから、あと1回だけ頑張って働いてくれ!
読んでくださり、ありがとうございます!
この小説を読んで面白いと思ってくれた、そこの貴方(≧∀≦)
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)