682話 危ない扉をくぐると
〜マサルside〜
覚悟を決めた俺は、連れてきたモンスター達に帰るよう指示を出し、彼等に「メグミとモンティート先輩あての手紙」を託した。
メールが届く環境なら、即報告できたんだが……悠長に復旧作業する暇なんてないので仕方ない。
10秒で相手に報告が届くメール機能を失った現在、俺がとれる一番確実な手段は、手紙による「オフラインでの情報伝達」なのだ。
そして……常に主人の身を案じるモンスター達が去ったので、俺は取り出した能力玉を大食いし、バリバリと噛みながら茶で流しこんでいく。
「OK。想定される局面全てに対応した、スキル玉&ギフト玉の摂取完了! これで3時間は無敵モードだ。<スキル図鑑>の真髄を見せてやる!」
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〜スキル図鑑〜
相手の許可を得ることで、スキルおよびギフトが図鑑に登録され、登録された任意の能力を一時的に模倣できる、特殊な<能力玉>を生みだせるようになる。
ただし<能力玉>をつくる際は、己の血とHPを対価として捧げる必要があり、事前準備ナシでは役に立たない。
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まさか「記憶を対価に生み出した巻物」どころか、「毎日コツコツつくり貯めた能力玉」まで、ソロ狩り初日に大量消費させられるとは思わなかったけど……
メールが繋がらず迅速な救援は望めない状況である以上、念には念を入れて準備をおこない、チート無双する気で挑むべきだ。
かつて<恵のダンジョン>の鬼畜防御で、心身共に枯れ果ててマジ泣きしたときと、同じようなピンチに陥っても……
自力で解決して撤退しない限り命の保障はないし、たとえ助かったとしても、尻尾をまいて逃げると後々この"空間の歪み"が祟るのは分かりきっているから。
「よしっ! まずは、二つのダンジョンが重なり合ったせいで生まれた別空間の調査からだ。この空間の扉は、どこへ繋がっている?」
ただの虚無な別空間なら問題ないけど、<サルトー区・ポルカト界>以外の「知的生物が済む世界」と繋がっていると厄介だ。
「呪縛術! 摩訶不思議なる生まれたばかりの扉よ。我がその中にいる間、閉じることなく場を維持したまえ!」
魔法とは違うメカニズムで発動する魔術を使い、呪符による結界で「別空間への扉」を保全した俺は、大きく息を吸って中へ入る。
「(あぁうん、やっぱりそうだよね。酸素ナシ・圧力鍋の中に入ったみたいな感覚だ。結界でガードしていなきゃ、全身が潰れてそのまま死んでいたぜ)」
概算だが、俺たちが暮らしている<サルトー区・ポルカト界>と比べて、1000倍近い外圧がかかっている。
そのせいでこの空間は、マグマが流れているわけでもないのに灼熱地獄と化しており、間違っても生物が住める環境じゃない……はず。
「(でも、この空間に適応したトンデモ生物が住んでいても厄介だし……一応調査は必要だよな。ハァ〜、今回は何を対価として捧げよう)」
悩んだ末に「味覚を感じる権利」を3日分捧げた俺は、<拡張>ギフトで探知能力を引きあげて、全力で辺りを探った。
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〜拡張〜
己が持つ財産や権利を供物として捧げることで、一定時間、スキルおよびギフトの効果を増すことが可能。
供物は、本人の価値観ではなく「世間一般で価値が高い物=より価値がある」とされ、価値ある供物を捧げるほど能力の拡張度合いも大きくなる。
また供物は、複数捧げたり未来の事象に対する債券の提供……という形でも構わない。
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すると、生命エネルギーを持つ知的生物の気配こそないものの……微かにその残渣がある場所が、探知範囲の端の方で見つかる。
「(悠長に移動していたら、後の仕事がつっかえちまう! <拡張>で結界構築能力を爆上げして、その結界に乗るかたちで高速移動しよう)」
捧げる対価は、イケメンを構成する重大なパーツである眉毛。
「(ほら、両眉とも剃ったぞ! くれてやるから、とっとと結界構築能力を拡張してくれ!!)」
数週間経てば生えてくるとはいえ……両眉を失った現在の俺の姿は、モテ男には程遠い珍妙な感じになっているだろう。
でも、いいんだ。
以前<拡張>の対価で、「10年間、人間の女性と<ピー>をしない」という誓いを立ててしまった俺に、容姿の美醜なんて関係ないから!
<−−− ピュ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 −−−>
「(ふぅ、目的地到着。風に吹かれたわけでもねぇのに、心なしか……デコと目の辺りが寒かったぜ。それにしても、この場所は……ヤベェな)」
俺の目の前には、人間が造ったとは思えぬレベルで精巧な闇の神殿。
そして数日前に死亡したと思われる、異形の姿をした幾つもの亡骸が、神殿から逃げ出そうとして失敗したかのように転がっていた。
「(大雑把にだけど、エネルギーを吸い取られた痕跡がある。生きながらにして、体を構成するリソースを奪われたのか。間違いない! ここは……)」
闇神<スティグマ>が粛正した、神の神殿。
<拡張>した探知能力で調べても、他の痕跡は出てこなかったので、ウグリスの記憶にあったような中心部じゃないだろうけど……
堕とされた下僕魔王の誰かが以前住んでいた、神界の何処かである可能性が高い!
読んでくださり、ありがとうございます!
この小説を読んで面白いと思ってくれた、そこの貴方(≧∀≦)
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)