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647話 とある貧者の救済


〜とあるオアシスフロア民side〜




 俺はスラム街出身の元スリで、<恵のダンジョン>にオアシスフロアが誕生したことを知り、命懸けで砂漠を渡ってここに移り住んだ。


 スラム街暮らしだった頃は、戸籍がないせいで仕事にありつけず、悪さばかりやっていたが……そんなの、見つかって捕まれば即犯罪奴隷落ち。


 好きで物盗り稼業なんざしていた訳じゃねぇし、きちんと働けば衣食住が保障されるオアシスフロアに来てからは、真面目に働いているよ。



 そんな俺だが、生活が安定して心にゆとりができ、同じようにスラム街から移り住んだ女と結婚して以降……なぜか、周りとの生活格差が気になり始めた。


 当然だが、俺も妻も学がなく手に職もついていないので、オアシスフロアでできる仕事は最低賃金の下っ端労働のみ。



 また、自業自得だが……夢にまで見た結婚を果たした俺は、ふかふかベッドの心地良さも相待って、暇ができれば妻とハッスルしてしまい……


 結婚3ヵ月なのにもう妻が妊娠して、無理をさせられない状況になってしまった。



 ゆえに酒やギャンブル等の贅沢はせずとも、日々の暮らしはカツカツで、自販機の前で買った熱々の唐揚げを食っている奴等を見ると、羨ましくなる。


「(おかしな話だ。スラム街暮らしだったときは、店持ちや職持ち連中に対する嫉妬より、仲間意識の方がはるかに強かったっていうのに!)」



 たぶん貧困の極みすぎて、その日の事しか考えられないから、周りと経済状況を見比べる余裕などなく、気付かなかったんだと思う。


 守るべき家族がいればまた別だったんだろうが、俺は借金のカタとして親に売られかけたところを逃げ出した、天涯孤独の底辺男だったからなぁ。






 だが……せっかく安定した暮らしを手に入れたのに、それを提供してくれたダンジョンを悪く言うなんて失礼過ぎるし、ここで罪を犯す気もないので……


 ダメ元で、ダンジョンの目安箱にモヤモヤした感情を投書した後、俺は妻と生まれてくる子供の為に働き続けた。



「それでも、子供用品を買うとなると金が足りねぇ。というか、出産の病院費用って幾らくらいかかるんだ? あぁくそっ、もっと貯金しておけばよかったぜ」


 美味いものを食え、フカフカのベッドで寝られる環境が幸せ過ぎて、オアシスフロアで給料を貰えるようになってからも、収入を全額使っていた俺は……


 今さら貯金の大切さに気づき後悔するも、すでに時遅し。



 ここにはダンジョンから金を借りられる制度もあるのだが、もし返せなかった時は過酷な体払いが待っているため……


 子供が生まれてくるって状況で、そんな選択はとれねぇよ。



「ダブルワークで頑張ってもなぜか金は貯まらず、貯金はたったの15万ロル。こんなんじゃ、妻の出産入院費すら払えるか怪しいぞ」


 くそっ、俺はどうすればいいんだ!?






「えっ、出産時の入院費無料化とご祝儀50万ロル配布!?」


「そうなのよ〜。美味しいご飯を食べたり個室で休もうとすると、ご祝儀分くらいの入院費がかかっちゃうんだけどね。最低限でいいならタダなんだって」


「マジかよ……」



 漠然とした不安を胸に、惨めさを噛み締めながら働いていた俺の耳に飛び込んできたのは、衝撃の事実だった。


 俺も妻も文字が読めないので知らなかったが、つい先日、ここのダンジョンマスターであるメグミ様が、「福祉の向上」を目的として無償化してくれたらしい。



「定期検診でオートマタ医に教えてもらって、ビックリしちゃったわ。最低限って言っても、バランスのとれたご飯と清潔な出産環境は得られるんだって〜」


「そうか。なら50万ロルは、生まれてくる子供の養育費として残しておくか」


「えぇ。家族が一人増えるし、私も身体が回復するまでは内職すらできないから、どうしたってお金がかかるもの」



 感謝の気持ちを伝えようと、オアシスフロアの目安箱に投書しに行くと、道中……人気のない場所に、なぜか自販機が増えていた。


「ん? こんな所に置いたって、買う奴なんざほとんどいないだろう」



 だが、俺としては助かる。


 働いて得た正当な報酬で買っていると理解していても、買い出しに行くたびに、目の前で美味そうに肉を食われたら嫉妬心が湧いちまうんだ。


 だから利用者が少なそうな場所で、コソッと買い物ができるのはありがたい。






「もしかして、メグミ様は俺等みたいな貧乏人のために自販機の設置場所を工夫してくれたのか? いや、まさかな」


 だが助かったことを伝えれば、俺の言葉が届いてメグミ様の政策に活かされ、今後似たような奴が助かる……みたいな可能性も僅かにあるので……


 とりあえず、思ったことをそのまま目安箱に投書した。



 ちなみに……字が書けない俺は、思ったことを文字化することすらできないため、目安箱の隣にいるゴーレムさんに代筆してもらっている。


 人間の街で暮らしていたときは、読めない奴の事なんて誰も考えてくれず、「代筆屋に金を払う」か「騙されて地獄を見る」かの2択だったから……


 つくづく、幸せ環境に身を置かせてもらっていると思うぜ。

読んでくださり、ありがとうございます!


この小説を読んで面白いと思ってくれた、そこの貴方(≧∀≦)

モチベーションUPの為の燃料……ブクマ・評価・感想・レビュー、待ってます!!

作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)

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― 新着の感想 ―
ヘブンズフロアにも、意見箱はあるのかな? オアシスフロアとの交流機会とか作らないの?
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