635話 メグミと爺のほのぼのしない話
〜メグミside〜
足手まといにならぬよう<汚物変態のダンジョン>を去り、ロックドラゴンの背中に乗って、肉体崩壊しながら帰還を目指していると……
緊急連絡を告げるスマホのアラームが鳴り、モンティート先輩から電話がかかってきた。
<−−− ガチャッ −−−>
「はい、メグミです。オロロロロォ〜〜〜〜〜」
ロックドラゴンの背中から降りて電話に出ると同時に、吐いてしまったのは仕方ない。
マサルのいない道中ゆえ、ロックドラゴンが走る衝撃がダイレクトに身体に伝わり、尻と内臓がぶっ壊れているのだ。
ゲロをかけてスマホをぶっ壊し、緊急連絡しなきゃいけない状況なのに、情報共有できなくなる……という展開を防げただけでも儲けものである。
『あらら。メグミ君、お疲れさま〜。緊急っちゃ緊急だけど、君に危機がせまっている訳じゃないから、楽な体制でゆっくり聞いてくれていいよ』
「了解デス。(先輩優しい! その優しさを移動中の配慮に1%でも向けてくれたら、遠出する度に下半身ぶっ壊れで逝くこともなくなるのに……)」
先輩の声色は想像していたよりも明るく、それだけで「悪い話じゃない」と分かり、肩の力を抜けた。
僕をここまで運んでくれたロックドラゴンも、防衛戦の後の休憩ナシ移動だったので、電話休憩とはいえ一休みできて嬉しそうだ。
「それで、何があったんですか?」
『君達を襲撃してきたモンスターいるじゃん? そのモンスター達が、マサル君と戦うのを止めて同士討ちを始めたの』
「えっ!?」
『別に驚くことじゃないよ。あの襲撃部隊は、アンチ<農民><小鬼>同盟の魔王達がモンスターを派遣した、諸軍混成部隊だった』
「はい、そうですね」
一応モンスターの所属は、82期魔王のダンジョンになっていたけど、誰がどう見ても名義貸しの捨て石要員であり、背後に大物がいたのは明白。
そして先輩の言い回し的に、背後にいた大物魔王は複数人であり、各自が負担にならない範囲でモンスターを送り出し、それを合体させて大所帯にした……
という事だろう。
『襲撃部隊の黒幕のうち、僕に協力する風を装いつつ影で参加していたルチルッカとハラスメントは、コチラで潰した。奴等の配下は、もう戦わないよ』
先輩、声のトーンが怖いっス。
魔王ランキングを見る限り、ルチルッカもハラスメントも死んではいないけど、ランキングがほぼ最下位まで落ちている。
つまり先輩方に本気で搾り取られ、裏切ったケジメとして何もかも奪われたのだろう。
『アハハ、怯えないの! お財布と利き手の指を軽く飛ばしただけだし、ハイドン達を惨殺したメグミ君よりは甘い対処だから♪ 落ち着いて〜』
いや……こういう場合、生かしておく方が本人にとっては辛いんですよ。
かつての栄光を忘れられず、それを思うほど現在の惨めな自分が嫌になり、身も心もすり減るという……。
敵なんで全然やってくれて構わないですけど、僕等がミスしたときにそのモードになるのだけは、止めてくださいね。
『で、話を戻すと……黒幕の中でも、生かしておくと後々祟りそうなホイッスネルとガブリは、この機会に息の根を止めることにした』
「あぁ、あの嫌われ者選手権の上位者達っスか」
『そうそう。投票が終わる前に殺すと、敵キルによる票操作を疑われかねないから、まだ首は絞めていないけど……これからじっくりと料理するつもり』
「なるほど。それを察して、奴等は"神界へ逃げたくなった"と」
ウグリスを殺せば邪神昇格ってルールはまだ有効だから、それを利用して神回へ逃げれば、モンティート先輩の毒牙からは逃れられる。
その代わり、闇神を始めとした性悪神様達からパワハラ三昧される日々が待っている訳だけど……
切羽詰まっていて冷静な思考ができず、「伝聞ベースである神界の恐ろしさなんて大したことない」と思ってしまったのだろう。
そして邪神の座は一枠だけで、ウグリスを殺した一人にしか与えられないから、一番近くにいる己の部下を使ってライバルより先に殺そう……と。
「<汚物変態のダンジョン>付近にいる敵モンスターって、全員82期魔王のダンジョン所属ですよね? ソイツ等を使うと、82期が邪神になっちゃいますよ」
ワンチャン、"本当の主人"ってことで奴等が邪神昇格できるかもしれないけど、一か八か賭けるには外れた場合のペナルティーが重すぎるって!
下僕として扱ってきた82期魔王が、己に命令できる立場……なんなら、命を握るも同然の上司になるのだ。
僕等がウグリスの邪神復活を阻止するために、動かざるをえなかった事からも分かるとおり、もし自分を恨んでいる奴が邪神になったら「実質詰み」である。
『メグミ君、知っている? 人間って、追い詰められると冷静な判断が出来なくなるから、平常時に諸々の場合に備えて動き方を考えておくべきなんだよ』
「はい。知識としては知っていましたが、今回の実例を見て本当の意味で理解できました。背水の陣でなんとかなる奴なんて、殆どいないのが現実っスね」
読んでくださり、ありがとうございます!
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)