633話 生き延びる方法
マサルが目立つ金属爆発で敵の隙をつくりだし、それを利用して、餅で音もなく敵の軍師を殺した頃……
その様子を、遠く離れたダンジョンの奥底で見つめるルノーブルもまた、現場にいる配下のゴースト達に指示を出していた。
『手が空いている奴。さり気なく奴等が通りそうなルートにローションとガラス片を撒け。軍師が死ねば、統制が効かなくなり特攻してくるはずだ』
『分かりました。ガラス片には、高音になるほど猛毒化する毒を塗っておきます』
火属性モンスターは、一度型にハマると止まらず無双するが、堪え性がない特攻隊気質が多い。
先程までは、それを軍師が押さえこんでいたので部隊として機能していたが、肝だった司令塔を失えば後はどうなるか……火を見るよりも明らかだろう。
「もうすぐ、モンティートが派遣した援軍本体も合流する。この状況からマサルが失態をおかして殺される可能性は、低いはずだ」
モンティートほど露骨ではなくても、歳若き<小鬼>同盟の5人を孫のような目で見ているルノーブルは、マサルの勝利を確信してホッと一息つく。
そしてモニターの映像を、<汚物変態のダンジョン>周辺から襲撃の主犯格のダンジョンへ切り替え、そちらにいる部下に指示を出しはじめた。
「この前のミッションで嫌われ者として晒され、我等を逆恨みしていたホイッスネルとガブリは当然として……ルチルッカとハラスメントも裏切っていたか」
ホイッスネルとガブリが黒幕なのは、<農民>の面々も予想していたが、ミッションの時はモンティートと手を組んだ、ルチルッカとハラスメントも……
中立を装いつつ、水面下で今回の襲撃に加わっていたのだ。
アスタリアの占いとルノーブルの裏取りによって、その事を把握したモンティートは、すぐさま報復へと動き……
ルチルッカとハラスメントのダンジョンに、氾濫した川の水を流れこませて、排水が間に合わない状況に追いこみ入り口を水没させてしまった。
「こちらには、元巫女のアスタリアがいるからな。聖属性アイテムは腐るほど揃っている」
彼等も上位の魔王ゆえ、普通の水なら流し込まれてもしばらくは持つのだが……
モンティートの指示でアスタリアがおこなったのは、「排出コストが鬼かかる聖属性を帯びた水を混ぜて、川を特定方向へ氾濫させる」鬼畜行為。
その結果、1時間もしないうちに負けを悟った二人はモンティートに詫びを入れ、桁違いの賠償金を払うことで示談成立。
加えて、自ら聖剣で利き手の指を落とすことになり、ここ半日で世界一落差の激しい没落を経験するハメに。
「"自ら聖剣で"っていうのがタチ悪いよなぁ。あの傷を治す難易度は高い。奴等……しばらくは、痛みと恐怖で眠れない日々をおくるだろう」
それでも、数時間程度の報復で済みダンジョンを残せた二人は、まだ運がいい。
襲撃の主犯であり、アンチ<農民><小鬼>同盟なのを隠しもしないホイッスネルとガブリは、これから時間をかけてじっくり料理される。
"挨拶"とばかりに、モンティートは世界各地に散っていた、彼等と彼等の派閥メンバーの諜報員を始末し始めた。
まだ動いてから2時間足らずなので、全員……とまではいかないが、すでに主要都市の掃除は終えている。
あと一週間も経てば、生きている敵の諜報員はいなくなり、彼等は目と耳を失って文字通り"孤立する"だろう。
「案の定、掲示板で被害者面してコチラを批判してきたが……意味ないよな。襲撃という形で、奴等の方から手を出したのは皆が見ている」
ウグリスの暴露生配信は、魔王掲示板で"飯うまネタ"として拡散された結果、襲撃発生時点で150人以上の魔王が視聴していたのだ。
そんな所へ、露骨に暴露を妨害しようと襲撃をかけたのだから、犯人バレした後で何を言っても魔王からの支持は得られない。
そんな事をするくらいなら、まだ「自分は何もしていないのに一方的に疑われた」とシラをきり通し、可哀想な被害者ムーブをかます方が……
襲撃した真犯人である証拠がない分、信じてもらえただろう。
「序列トップでもないのにモンティートさんよりもアンチが多い、嫌われ者のホイッスネルとガブリじゃ、真偽に関わらず助けは得られないだろうけど」
すでに殆どの魔王が票を入れ終え、あとは結果発表を待つだけの状態なので、票の融通を盾に助命を求めることもできない。
だからと言って嘆くだけじゃ、自治制になり次第、彼等のダンジョンは内外から締め付けられ……
塩を振って水分を出すように、じっくりと搾取されて、カラッカラに干からびた状態で逝く悲惨な結末を迎えるだろう。
「ここから大逆転する方法なんてあるはずが……あっ、一つだけあったわ。ウグリスを殺して邪神になり、魔王界から逃げればいいんだ」
一枠しかないから二人共助かるのは無理だし、生き延びても神々からのパワハラで心身ズタボロにされること確定だが、死ぬよりはマシ……なのか?
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)