627話 参謀の悲哀
〜敵参謀side〜
主人に命じられて出向いた<汚物変態のダンジョン>で、ターゲットの元勇者<マサル>を見つけたので、さっそく火炙りにしようと試みたが……
Sランクモンスター10体による、上級魔法一斉攻撃で広範囲を焼いたにもかかわらず、なぜかターゲットの元へ火は届かずダメージも与えられなかった。
結界を張られたなら、まだ納得がいくが……霧こそ出ているものの、この程度の霧なら上級魔法の威力が勝ち、吹き飛ばせるはず!
多少の威力減衰ならともかく、ノーダメージなんてありえないのに!
「おぃ。上級魔法を使ってほぼ被害ナシとは、どうなっているんだ?」
「これじゃあ、いくら我々が動いたところで脅威にならんぞ」
「はっ! 申し訳ございません。すぐに原因を探り対策を整えますゆえ、少々お待ちくださいませ」
味方部隊の2大エースである火龍様と炎龍様も、予想外の結果に驚き訝しんでいらっしゃる。
私に聞かれても、同じ情報量しか得られていない以上、答えようがないのだが……歯向かって火炙りにされても困るしな。
もっと細かく調べて原因をあぶり出し、我等の炎が敵に通るよう、状況をつくり変えねばならない。
「誰か、もう一発さっきの魔法を撃て。攻撃目的じゃない調査目的だ。どの辺りで炎の威力がかき消えるのか、調べる」
「かしこまりました!」
先制攻撃で使った魔法と同じのを、若手のSランクモンスターに一発撃たせて注意深く観察したところ……霧の層で威力が減衰。
そして、その下にある別の霧の層で炎がほぼ消えてしまったのが分かった。
しかも、これだけの威力で攻撃をぶち当てれば普通は飛散するはずの霧とナニカの層は、窪地になっている地形のせいで攻撃後も場に留まったまま。
多少揺れたり混ざったりしたものの、すぐ分離して元の状態に戻り、鉄壁のガードが復活した。
「下の層のモヤは、たぶん空気より重いですね。衝撃を受けて揺らいでも、自然と沈み元の状態に戻っている。だが、霧が留まっているのは故意だ」
極寒地帯や山頂付近ならともかく、こんな温度・湿度の窪地に霧など発生しない。
おそらくアレは、敵が我々の火魔法を防ぐために、水魔法で空気を冷やして霧を生み出し、それを強引に留めた結果なのだろう。
「同格の火と水が戦えば、属性の優劣により火が負ける。しかし、あの霧は無理に留めている状態。当然、負荷もかかっているはず」
ならば、まずは現場を熱して霧を維持している水魔法師に負荷をかけ、戦線離脱へ追い込むのが得策だ。
「Sランク以下の者、全員に告ぐ。ここら一帯の気温を上げ、灼熱の大地をつくりだせ! 直接攻撃するな。まず環境を制し、その上で敵を追いこむ!」
「「「「「「「「「「オォ〜〜〜〜〜!!!!」」」」」」」」」」
周辺の大地と空気を熱すれば、水を冷やして生み出す霧の維持は困難になり、それを制御している魔法師の気力とマナをゴッソリ削る。
敵魔法師が諦めて霧を解除すれば、それで良し。
解除せず足掻いても、マナが尽きて気絶し戦線離脱となり、魔法師不在で霧が晴れるのは時間の問題だ。
「そうなれば、味方の放つ火魔法の威力は減衰せずに済むし、敵の守りは"あの正体不明のモヤ"だけになる」
だが、その正体不明のモヤ……一体何なんだ?
正体を探るべく、鑑定スキル持ちに詳しく調べさせたのだが、何度調査しても出てくる結果は「水蒸気」ばかり。
鑑定結果を誤魔化す結界でも張ってあるのか?
だが……敵陣にある結界の効果を調べても、それらしきものは見当たらない。
もし鑑定結果が正しくアレが水蒸気だとすると、霧と同じだから、周辺一帯を熱すれば勝手に飛散するだろう。
「(しかし、ただの水蒸気があんな動き方……しないと思うのだが)」
「おぃ、まだあのモヤをどうにかできんのか?」
「我等が力尽くで吹き飛ばし、全てを焼き尽くした方が早いぞ」
「火龍様・炎龍様、どうか落ち着いてください! 仰ることはごもっともですが、全てを焼かれてしまうと、ご主人様に"殺すな"と命じられたウグリスまで炭になってしまいますゆえ」
「「チッ!」」
そんな目で睨まないでくれ、私だって敵の陣中に「殺してはいけない存在」がいなければ、脳筋万歳で全てを焼き払いとっとと帰りたいんだ。
だがそれをすると、(名義貸しをはさんでいるとはいえ)主人が邪神に昇格してしまう可能性があり、我等の生死にも関わってくる。
神にとって、魔王ですらないモンスターの気持ちなど「考慮に値しないどころか、存在すら気付かぬもの」ゆえ……
主人が邪神になってしまうと、ダンジョンの管理者がいなくなり、残った我等も「全員まとめて消し去り無かった事に」みたいな扱いを受けかねないのだ。
読んでくださり、ありがとうございます!
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)