624話 勇者の狂気
〜マサルside〜
水龍の素材剥ぎと残党処理、ドライアイストラップの効果を最大化するための地形操作と、休む間もなく働いていると……
ダンジョンの中から、すごく明るい表情をしたメグミが出てきて、俺の前で大きく伸びをした。
「ふぅ〜。ギリギリだったけど、なんとか準備完了! 必要な軍事物資は、全て自販機で買えるようになっているから、あとはよろしくね!」
仲間の表情が明るいのはいいことだが、こうも清々しい顔をしていると、「どんな裏があるのか」と勘繰ってしまう。
これがスティーブやカルマなら、「予定どおりの品を準備できたので喜んでいる」と、素直に解釈できるのだが……なんせ、目の前にいるのはメグミだ。
この鬼畜魔王が、ただ言われたことをこなしただけで満足して、こんな充実した笑みを浮かべるはずないから、絶対に何かある。
だけど深くは聞かねぇぜ、それが男の友情ってもんだ!
メグミには、ロックドラゴンに乗って拠点に帰ったあと、「賢者モード3日間」でチートした禊を済ませるという、キツイ仕事が待っている訳だし……
それを喰らったら嫌でも数日凹むから、その前に笑顔を奪うなんてまね出来ねぇよ。
「ちなみにだけど、軍事物資だけあって最低価格にしても高価になっちゃったから、鬼出費は覚悟しておいてね」
「了解! お前も、ロックドラゴンに乗っての帰路(と賢者タイム)大変だと思うが、潰れるんじゃねぇぞ〜」
そうだ、帰る前にもう一仕事やってもらわなきゃいけないんだった。
「メグミ。アイテムボックスの空きを増やしておきたいから、要らない素材を<遠隔商談ギフト>で拠点に送ってくれないか?」
「OK! 送るから、この場で全部出しちゃってよ!」
「サンキュー! 売却用の素材はコッチの箱に入れてある。あと、帰ったら皆で食う予定の水龍肉がコレ!」
「うわ、臭っ! えっ、この……消化しかけのグロい液が、盛大にかかったゲテモノ肉を食うの? アリの餌にするんじゃなくて?」
「トリミングすれば食えるだろう。大丈夫! 肉屋で売るときは綺麗になっているけど、冒険者が狩って納品する肉なんて大抵こういう物だから」
「……………………」
あの、メグミ先輩?
なんか「ヤバイ奴発見」みたいな目で俺を見るの、止めてもらえませんかね?
自ら<汚物ダンジョン>を作り出して世に広めた、サイコパスの代表格として有名なアンタに、そういう評価をされると困るんだが。
「ゴホン! まぁいいや。とりあえず箱には入っているし、マサルのダンジョンへ届けておくよ。(食べるかどうかはともかく……)」
「サンキュー! 爪とか骨とか食えない臓物とか、売却で小遣い稼ぎできる物もたくさんあるから、そういうのは先に処理しておいてくれ」
「分かった」
含みのある声色だったものの、敵の気配が近付いていることを伝えると、メグミはささっと仕事を終わらせて、ロックドラゴンと共に帰っていった。
俺と配下のモンスターだけが残った状況を、誰かに見られたら、「男のくせに敵前逃亡かよ」と笑われるかもしれねぇが……適材適所。
回復&サポート担当のアイツが、前線にいて死にかける方がはるかに困るし、立ち去る前に回復魔法の応用技で、自らのHPとMPを分けてくれたのだ。
帰る途中に襲われる可能性だってあるのに、俺の勝率を少しでも上げようとしてくれた時点で、感謝しかねぇよ。
「嫌がっても、水龍ステーキは食わせるがな。見た目は多少汚れているが、SSランクモンスターの中でも一番美味いと言われている肉! 食わなきゃ勿体ない」
そういえば、以前アイツも「敵魔王の配下にいた水龍を殺した」とか言っていたな。
水龍の肉なんてそう食えるものでもないのに……運のいい奴だ。
「さてと……敵が来る前に、自販機のラインナップを確認しておきますかね。アイツの笑顔の正体……知りたくねぇけど、戦闘中に知るよりはマシだし」
俺がいる場所とウグリスのダンジョン内は、すでにドライアイスが気化した二酸化炭素で満たされているが、俺の健康に影響はない。
こう見えて、俺は「毒ガス対策の結界」くらい朝飯前に作れる元勇者……ただの二酸化炭素ごときで困るほど、腕は鈍っちゃいねぇよ。
<−−− ビチャッ、ビチャッ、ビチャッ、ビチャッ、ビチャッ…… −−−>
「(だからこそ、それを知っているアイツが笑顔になる程ヤバイ企み、っていうのが怖いんだけど。鬼が出るか蛇が出るか……って、えぇ〜マジか!!)」
メグミが残していってくれた自販機のメニューには、俺が所望した軍事物資の他に、幾つかの「水に触れただけで爆発するタイプの金属塊」が並んでいた。
俺も日本にいた頃、実験動画を見たことがあるが……僅かな金属片でバスタブを破壊する威力は圧巻だった。
「(何より、手榴弾と違って金属塊は"この世界にも存在する物"だから、俺の戦闘を監視している奴が見ても、武器チートだと気付かれにくい)」
そしてマナを使うことなく、「油で包む」か「水をかける」かで容易くON・OFFを切り替えられるのだから、便利なのは確かだろう。
「そのメリットが霞むくらい怖いけどな」
買った瞬間ゴロンと落ちてきて、空気中の湿気に触れて大爆発とかなったら、爆発に巻き込まれたウグリスが死に、俺が邪神昇格……とかなりかねないし。
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)