618話 勝利か素材効率か
〜マサルside〜
召喚魔法で、敵に刺さった針の中に無数の「ヤバ〜イ極小生物」を喚び出すと、彼等は躾けておいたとおりに仕事をしてくれた。
まず獲物の体内に入って、針を抜かれても排斥されないようにし、そこから種類別に悍ましい活動を始める。
ヒル系のモンスターは、ターゲットの血管内で存分に血を吸って大きくなり、血栓代わりに詰まって脳梗塞・心筋梗塞を引き起こす。
戦闘中ゆえ、どのモンスターも激しく動いており血の巡りも速いから、ヒル系モンスターが目的地にたどり着くまで、長くても数十秒。
たとえ高ランクモンスターでも、戦闘中に「己の重要な血管が詰まる可能性」など考えていないので、対策もできずバタバタと倒れていく。
そして倒れた敵は、品種改良された「脳みそモグモグ系モンスター」によって、頭の中が穴だらけになるまで捕食され、ものの数分で骸と化すのだ。
また体内に異空間をもつ、特殊な寄生虫モンスターが、あらかじめ貯めこませておいたアルコールを、直接敵の血管に吐き出し……
それをくらった敵は、アッと言う間に酩酊して敵と味方の区別がつかなくなり、操作系のモンスターによって容易く操られ、同士討ちを始める。
それでも立っていられる敵に対しては、アルコールではなく<恵のダンジョン・汚物フロア>産の汚汁を、直接血管に注入してやると……
敗血症から多臓器不全コースへ一直線して、そのまま冥界へ旅立っていく。
「(このパターンで殺すと、血が汚れすぎて肉を食うことが出来なくなるから、極力避けたいんだけどな。あまり長引かせる訳にもいかないし、仕方ねぇ)」
残念ながら、Sランクでも特に強く肉も美味いモンスター程、粘り強く生き残ってしまい、汚汁攻撃でトドメを刺すハメになるので……
本当に美味しい食肉は、今のところゲットできていない。
「このクソガキがぁ〜〜!!!!」
一番の難敵であり本命のターゲットである水龍の肉を、汚さずゲットできればお釣りがくるので、「小さな失敗を気にする暇があるなら戦え」って話だが。
で、その水龍だが……流水の盾でオリハルコンコーティングした針を流したものの……
地面に落ちた針が、俺の土魔法で「先端が上を向き踏んだら刺さる状態」になったのを見て、行動範囲を縛られたことを悟った。
そしてその縛りを解こうと、洪水級の流水を生み出して針を土ごと流そうとするが……俺が水の上流に大量の針をばら撒いた時点で、それを諦めた。
水龍はSSランクの猛者だが、肉体が大きすぎるため小細工含みの攻撃に弱いのだ。
たとえ自分が操る水だろうと、大量の針が混ざっていたらコントロールに意識をとられて、本体に隙が生じてしまう。
片や俺は、あらかじめ準備しておいた針を、断続的に風魔法で飛ばして上流にブチ込むだけであり、水龍の防衛策とは必要になるキャパが段違いに少ない。
ゆえに奴が隙を見せたら即攻勢に出て狩れるし、長期戦になっても俺が粘り勝ちする可能性が高いんだよ。
だからと言って、パワーごり押しで短期決戦に持ち込みたくても、すぐ近くに<汚物変態のダンジョン>がある以上、奴は主命で本気を出せない。
災害レベルの水で全部流してしまったら、中にいるメグミを殺すまではいいけど、ウグリスまで一緒に殺してしまって……
水龍の主人が邪神に昇格し、闇神達のパワハラで精神を病んでしまうもの。
「(いや、正確に言うと……昇格するのは、その主人がスケープゴートにした82期の魔王なのか。絶対避けなきゃいけない展開なのは、同じだけど)」
黒幕に利用されて恨みをもつ82期魔王が、パワハラ三昧で短い命とはいえ邪神に昇格すれば、その力を誰に向けるかは明白。
ウグリスが邪神に戻ると、真っ先に<農民>同盟の先輩達と俺達が狙われるのと同じく、その82期が邪神になれば黒幕は即殺されるだろう。
ゆえに……それを理解している水龍は、主人の命……というより、主人に縛られた己の命のために主命を守るし……
どれだけピンチに陥っても、<汚物変態のダンジョン>を水圧でぶっ壊すような愚行はおかさない。
「(でもな……水龍、お前……気付いているか? 俺がほとんどの針に聖属性を纏わせて、お前が感知しやすいようにしていることを)」
そして本命の針には隠蔽工作を施して、魔法を打ち合っているこの状況でも操作を切らず、お前の弱点を狙っている……ということに。
「(水龍。たとえお前が水魔法に長けていても、この液体の支配権だけは奪えねぇ。普段からコツコツ貯めた、俺自身の血……くらえや!)」
魔法師同士が液体の支配権を争う場合、地力や得意属性も重要になるが、その液体と魔法師の相性が、最も結果に影響をおよぼす。
そして"俺"と"俺の血液"の相性は良く、"聖属性の血液"と"闇がかった水龍"の相性はイマイチ。
いくら水属性魔法の実力に差があるとはいえ、俺は「自分の血」だけは好きに扱えるのだ。
「(だから赤く濁った血で目眩しを仕掛け、視界を塞いだところで"本命の針"を急所にぶち込めば……)」
この勝負、俺が一気に優勢になる!
読んでくださり、ありがとうございます!
この小説を読んで面白いと思ってくれた、そこの貴方(≧∀≦)
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)