606話 嫌な仕事は下へと流れ
〜闇神<スティグマ>side〜
「一旦落ち着いて考えよう。勇み足で飛びついてミスったら、今度こそ私がババを引くハメになる」
強靭なはずなのに、ここ最近のストレスで荒れてしまった胃腸を、瞑想による回復で強引に致した闇神は……
<サルトー区・ポルカト界>の魔王自治化について、真剣に考え始めた。
「まず現状……座るだけ損をするハズレ管理者の座を拒否して、派閥の神は全員引きこもってしまった。オファーを出しても、帰ってくるのは仮病報告だけ」
治した胃がまたズキズキ痛むが仕方ない……元邪神<ウグリス>程ではないにしろ、闇神<スティグマ>も恐怖政治がたたって人望がないのだ。
「このまま強引なオファーをし続けると、神々の離反が相次いで派閥が弱体化。私の地位まで低下してしまう。つまり、神に押し付けるのは諦めた方がよい」
かといって、<状態異常:正直者>のせいで己の過ちを暴露しまくり、派閥全員のヘイトを買ったウグリスを邪神の地位に戻して、仕切り直すのも不可能。
ウグリスを嫌う神々が離反してしまうから、派閥にとってマイナスなのは同じだし、なにより彼は現場の魔王達から嫌われている。
そして今回の件の恨みもあるので、ほとぼりが冷めたらより悪質な恐怖政治をおこない、<サルトー区・ポルカト界>の闇勢力は破滅に向かうだろう。
「その点……現地の魔王に自治を任せれば、誰も犠牲になることなく今回の件を片付けることができる。最悪、現場が混乱して自滅しても損切りすればいい」
闇神にとって世界とは、幾つもあって栄枯盛衰を繰り返し、自分のリソース源になる「株式」のようなもの。
その中の一つが失われたとて、痛くはあるものの致命傷ではなく、割り切って前へ進める程度のダメージしか受けないのだ。
なのに現在、その一つの世界のために多大なる労力をかけており、手足同然の派閥員も失いかねない状況。
それならスパッと割り切って、現場に丸投げし好きにさせる方がマシだろう。
「デメリットとして、権限を持たせすぎると魔王共が力をつけて、いずれ俺に反旗を翻す可能性が考えられる。が……その確率はわずか。無視してもいい範囲だ」
要するに、闇神としては「自分の立場が危うくならなければ何でもいい」のである。
仕事として最低限の意見は聞くが、格が違いすぎる雑魚共の気持ちや考えなど、まったく興味がない。
「一方的に押し付けるのは悪手だな。問題が起きたとき、"お前が自治制にしたからだろう"と言われ、俺の立場が悪くなる。一応、二択にしておこう」
と言っても、闇神の中で「自治制にして全て現場に押し付ける案」は決定事項であり、もう一つの選択肢はあってないようなものだ。
なので、自治制に移行する前提でルールを定め、現場へ送る文書の内容を詰めていく。
「これまで邪神経由で徴収していたリソース税は、当分9割カット……だな。完全になくすと、復活させる時の反発が大きくなるから、形だけ残す」
闇神の考えでは、<サルトー区・ポルカト界>のゴタつきが収まり危機を脱したら、また生かさず殺さずの課税を再開する気だが……
独立されたり別派閥へ移られる可能性もあるため、実際の落としどころがどうなるかは、その時になってみないと分からない。
ただ一つ言えるのは、魔王界に苛政を敷いたウグリスは神の座を終われ、身も心も穢れ果てた汚物になってしまった。
そして闇神は、「同じような目に遭うくらいなら、税制を完全廃止して逃げる」程度の覚悟しか、持っていない……ということである。
「強さこそチカラ! という大前提を示すために、投票の効力は保有ポイントと比例させて……よしっ、こんな感じでいいだろう」
「もしダメでも、現場の虫ケラが自滅するだけで自分には関係ない」と、他人事で即断即決した闇神は……
1秒でも早く襲いくる胃痛から逃れるために、最低限のルールだけ定めた自治制の提案を、現場の魔王達へ送った。
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ごきげんよう、魔王諸君。
管理者不在の日々が続いているが、上手くやれているかね?
さて、今日は君達に提案がある。
コチラでも後任を探したのだが、君達の上司になりたがる者がいなくてね……私も困っているんだ。
そこで、君達に2つの選択肢を用意した。
魔王による投票制の自治をおこない、しばらく管理者を置かない状態で世界を運営するか。
それとも、君達のところでお仕置きされているウグリスを再び邪神に戻し、今まで通りの統治体制を維持するか。
24時間後までに決めて、各自投票してくれ。
君達の幸せを祈っている。
by闇神<スティグマ>
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「この選択肢を見て、ウグリスだけは"邪神に返り咲けるかも"と喜ぶだろうな。24時間後には、再び落選で地獄継続が確定するのだが」
というか、戻ってこられても困る。
クソまみれにされた居城の掃除と除菌で、どれだけ精神的ダメージを受けたか……あんな汚物の面倒をみるなんて、二度とゴメンだ!!
読んでくださり、ありがとうございます!
この小説を読んで面白いと思ってくれた、そこの貴方(≧∀≦)
モチベーションUPの為の燃料……ブクマ・評価・感想・レビュー、待ってます!!
作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)