573話 モブの正論と過ち
〜とある魔王候補者side〜
オ○ニーマスターもとい元勇者<マサル>は、配下のミスリルゴーレム3体と共に、こちらへ矢撃を仕掛けたあと逃げていった。
「マスター、マサルが逃げたのはコッチです! ワキガ・汗・足・股間の臭いがコッチから漂っているので!! オエェェェ……ッ」
しかし何故か奴は汚臭を放っており、索敵能力がないモンスターでも簡単に追尾できてしまう状態。
それゆえ我々は容易くマサルの後を追え、ミッション成功に王手をかけた。
代償として……嗅覚がするどい犬系モンスターはあまりの苦痛に泣き喚き、「帰りたい」と懇願するように度々コチラを見つめてくるのだが……耐えろ。
奴を殺せば、上位魔王の後ろ盾を受けてデビューできる、幸せな未来が待っている。
だが、ミッションを達成できなければ待っているのは死だ。
臭すぎて逃げ出したい気持ちは理解できるが、死にたくなければ腹を据えて耐え忍べ!
<−−− ブウゥゥゥゥ…… −−−>
『『『『『『『『『『ギャウンッ!!!?』』』』』』』』』』
くそっ、このタイミングで放屁攻撃しやがった!
仮にもヒエラルキートップにいた元勇者が、屁を風魔法で撒き散らす変態だったなんて、聞いていないぞ!!
いや……ゴシップ誌には「ド変態」と記されていたし、風呂に入らない不潔人間だから、そういう性癖もあるのかもしれないけど……
魔王候補者としての勝敗以前に、それ……人間として負けていないか?
お前、そんな事をしなくても余裕で合格圏の猛者なのに、屁で勝つとか恥ずかしいぞ。
屁の次は、脇や股のニオイを鉄扇で外へ出し、風魔法でまき散らして、俺達の探知班を潰していく変態<マサル>。
挙げ句の果てには、ロクに洗っていなかったと思われるベットベトの髪を、走りながら剃って散布し、俺達の心に消えないトラウマを植え付けた。
だがそんな奴も、モンスターに乗って追いかける俺たちから、足の遅いゴーレムと共に逃げるのは難しいらしく……
徐々に距離が縮まり、同時に「吐き気をもよおすレベルの汚臭」攻撃も熾烈さを増していく。
「(臭いが目に沁みる! あの汚物に一時でも彼女がいたとか、マジかよ!? アイツとベッドインとか性病移りそうだし、売春婦でも嫌がる罰ゲームだろう)」
にも関わらず、「高スペック男と結ばれる」ために我慢していた、それなりに可愛い女が3人もいた事実……改めて、女の怖さを思い知ったぜ。
「って、あれ? マサルと一緒に逃げていた、ミスリルゴーレムは何処へ行った? 逃げ遅れて、誰かに殺されたのか?」
「いや、俺も見てねぇけど……」
何十分経っても慣れない汚臭は健在だから、あそこで逃げている男がマサルなのは、間違いないはず。
だが、取り巻きは一体何処へ消えた?
それに、いつの間にか"随分と暗くて狭い場所"へ来ちまったが……。
<−−− ガゴオォォォォンッ!! ドシャドシャドシャドシャドシャ…… −−−>
『『『『『ギャアァ〜〜〜〜〜〜〜〜!!!!』』』』』
ふと嫌な予感がして足を止めたとき、後ろの方から熱気と誰かの悲鳴が飛んできた。
まさか俺達……あの包茎チン○ス野郎にハメられたのか!?
予想外の出来事に一瞬硬直した俺達を、火矢の雨が襲う。
そうか、この谷底みたいな地形……上から一方的に火矢を射かけて、俺達を焼き殺す気なんだ!
<<<<<−−− ズドォーーンッ!! −−−>>>>>
「ぐふっ! (なんだ、今の攻撃は!? 火矢じゃない? クソッ! 心臓と頭部は無事だが、鎧を貫通して腹に当たった。ポーションを飲まないと!)」
慌ててその場に伏せ、注意深く辺りの様子を観察すると、敵はモンスターではなく、俺達"魔王候補者"を狙っていることが分かった。
それも散発的に……ではなく、集団で狙いをつけて……だ。
「(ヤバイ、この状況は助からない! なんとか逃げないと!! でも、退路は最初の攻撃で塞がれた。それに、逃げようにも場が混乱していて動けない)」
指揮をとる魔王候補者が殺されたうえ、バックアップ担当の後方部隊とも隔離されたことで、モンスター達は混乱。
まだ主人の息があるため、消滅こそ免れているものの……パニックを起こして、言うことを聞かない野生の猛獣と化している。
このまま暴れているうちに主人が息絶えて、ダンジョン滅亡判定を受けたら、ソイツ等も消えてしまい本格的に"盾役"がいなくなり……
命を落とさずに済んだ、俺のような"優秀な魔王"が目立ってしまい、集中砲火を受けて今度こそ殺されるだろう。
「(クソッ、勝てる筈だったのに! 汚臭攻撃にさえ耐えれば、護衛すら付いていないあんな包茎野郎……数で攻めてボコボコにできると思ったのに……)」
俺達は、どこで間違えた?
どう動けば良かったんだ!?
<−−− グシャッ! −−−>
「(あっ、踏まれた。脊髄が逝っちまって、ポーションを取り出すことすらできねぇ。これは……終わったな)」
まさか俺の最期が、パニックを起こした自分の配下に踏み付けられて、誰にも看取られずに死ぬ、ゴミみたいなものになるなんて。
あぁ……今度こそ強力な後ろ盾を得て、クソッタレな奴隷暮らしから抜け出し、酒と女に浸る極楽生活をおくれると思ったのに…………。
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)