569話 明暗どころか沼の底へ
同じ"臭い人"でも、メグミとマサルで明暗が分かれてしまい、それを悟ったマサルが膝から崩れ落ちた頃……
地獄の神殿でマサルの様子を見て、「ざまぁ〜!」と笑っていた邪神もまた、メグミとサーシャのイチャコラを覗いてしまい、一人でキレていた。
「あのクソガキ共めっ! ロクに貢献しないくせに、すぐ本能のまま繁殖行動に勤しみやがって! 私への上納も、それくらい熱心にこなせよ!!」
前回の上納不足で、コミュニティー内のヒエラルキーが地の底へ落ち、ボッチ生活を余儀なくされた邪神には、欲の発散口がない。
側仕え&慰め要員として囲っていた女悪魔まで、上納不足をおぎなう為に、全員殺してリソースに換えてしまったからだ。
もっとも……彼女達も仕事で邪神の世話をしていただけであって、サーシャのように心からパートナーを慈しむ女性は、誰一人彼の元へ来ないのだが……
それを認めたら、大切なナニカが壊れてしまう気がして、彼は現実から目を背けている。
またメグミと違って「孤独な臭い人」となり、絶望に打ちひしがれているマサルも、邪神とは似て非なる状況にある。
なんせ彼は、悪口を言われれば言われるほど稼げるため、ポイント収入で心と財布を慰められるが、邪神にそのインセンティブを得る手段はない。
にも関わらず、自分の部下であるはずの魔王達は、依然として掲示板で邪神を罵ってストレス発散。
世界各地に散った邪神像も、小便をかけられたり蹴られたり踏まれたりと、散々だ。
「クソッ! なぜ奴等は、愚か者のくせに神である私を崇めない!!」
実は邪神も、マサルの<嫌悪貯金>と似たような能力を持っており、管理下にある下等生物が彼に感情を向けるほど、より多くのリソースを得られる。
しかしその収入は、「嫌悪」という感情に特化したマサルに比べると微々たるものであり、到底「踏み躙られた承認欲求」を補うには至らなかった。
「まぁいい。不愉快極まりないのは事実だが、冷静に考えて、敵神勢力のリソースを押さえたまま勇者<マサル>がコチラへ来るのは、得だからな」
一応、邪神にも頭はついているため、損得勘定くらいはできる。
ただ……ここ最近、(本人視点では)理不尽な目に遭いすぎて感情が乱れており、理性の出番が減っているだけだ。
「試練は、特に妨害せず通過させよう。奴が81期魔王としてコチラの陣営に加わってからが、本番だ。徹底的に搾取して、パワハラの限界をぶっ壊す!!」
"平等"という概念を知らず、早くも「マサルを虐める宣言」をした邪神だったが、下働きすらいないボッチ生活ゆえ、その言葉を聞く者は誰もいなかった。
ただただ、マサルがメグミ達にすら知らせずコッソリ仕掛けた罠に抵触して、1アウト取られただけである。
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〜口は災いの元〜
この能力を保持している者が定めたターゲットが、その人を害する宣言を3回したとき、災いが自動で降りかかる。
災いの強さは、ターゲットが宣言した言葉の強さに応じて代わり、格上に対しても平等に効果を発揮するが……
3アウトで災いが発現しない限り、ターゲットを変えることも能力を解除することもできず、ひらすら保険料としてHPを徴収され続けるという、ハイリスクな副作用もある。
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メグミをサイコパス扱いしているくせに、自分も「敵を騙すにはまず味方から」を地で行くマサルの仕掛けは、モンティート達にしか気づかれておらず……
モンティート達も空気を読んで"知らんぷり"しているので、彼等をザックリ監視しているだけの邪神が気づくはずもなく、そのまま事は進んでいった。
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〜マサルside〜
「ハァ〜。モンティート先輩、ここだけの話……いいっスか?」
「ぅん? いいよ〜」
「コソッ(メグミを介さずに、高品質なオモチャを手にいれる方法ってありません? この状況でアイツに頼ると、なんか負けた気がして……)」
「コソッ(あるにはあるけど、諦めてメグミ君から買った方がいいと思うよ。この世界の文明より、君が元いた世界の文明の方が進んでいるもの)」
「了解っス。(ヒソヒソ話ですら腰が引けている、糸電話愛好家の先輩を見る辛さよ! まぁ口臭が便所臭より臭いんだから、気持ちは分かるが)」
メグミがサーシャちゃんと宜しくやっている間、俺は温厚な先輩にも引かれて一人ポイント稼ぎ……虚しいぜ。
「あっ、マサル君〜。邪神から、試練の詳細メールが届いているよ。良かったね。君を狙い撃ちした施策はないみたいだ」
「たしかに。この条件なら、俺は無双できますね。だけど、逆に気味が悪いな」
邪神が理性に振り切り、敵方の勇者召喚枠を潰した状態で魔王界入りする俺を、歓迎している……なんて事はあり得ない!
つい先ほど、内密に仕掛けた<口は災いの元>というトラップ型ギフトが作動して、俺に「1アウト」と「その経緯」を知らせてくれたからな。
自分がどれだけ邪神に嫌われているかなんて、よ〜く理解している。
「(メグミがサーシャちゃんと対戦している最中に、俺は邪神と命をかけたバトルとか……世知辛ぇ。せめて邪神が、ボン・キュッ・ボンの姉ちゃんだったらな)」
あまりの虚しさに、ついそんな事を考えてしまうが……見た目がどうあれ、中身がクソなのは決定事項なわけで…………現実は厳しい。
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)