５３６話 ターゲットは
〜魔王＜ブブカ＞side〜
「チッ！ また厄介なミッションが出たもんだ。あの爺婆、邪神を刺激しやがって……コッチにまで、被害を飛ばすんじゃねぇよ」
「寄付」という体裁こそとっているが、実質「恐喝」な今回のミッションは、邪神が＜農民＞同盟にしてやられた件の報復みたいなものだ。
もちろんあの時、カラクリに気付いてすぐ俺も爺婆の手法をマネしたが、ルール改悪までの僅かな間しか稼げなかった。
しかも運の悪いことに、債務者の死に逃げで債権がゴミ化したり、強欲な連中が俺に「下僕の代理返済」を求めたりと……
山のようなトラブルまで付いてきて、現在もその処理に追われている。
「なのに報復ミッションは平等に降るとか……自分の不運に泣きたくなるぜ。ムカつく！」
今回のミッションは一見公平に見えるが、圧倒的に下位層有利だ！
普通に考えて、居ても居なくても変わらないレベルの雑魚を、課金してまで排除したい物好きなんていねぇしな。
もちろんその雑魚以外が一致団結して、生贄として其奴に票を集めれば、其奴は抵抗一つできずに殺されるが……
俺達の辞書に、「協調」なんて文字は載ってねぇ。
生贄を出して凌ごうとしても、口約束だけして土壇場で裏切る奴が必ず出る……ってか、そんな奴ばかりだろう。
先日の雑魚抹殺で枠が空いたからか、邪神は今回、下位層から死者を出す気はないようだ。
その証拠に、投じた票は匿名で処理されるし……譲渡・売却もできない。
「できたら楽だったんだけどなぁ。雑魚狩りして票をタダ同然で買い取り、その票をモンティートへ全ブッパすればいいだけ」
しかし現実は非情であり、雑魚を脅しても票は奪えないし、投票先を指定しても強制力は限定的。
というか……かえって恨みを買い俺に票が入っちまうから、恐喝は絶対NGだ！
だからと言って、正攻法で票を買ってモンティートを殺す訳にもいかん。
奴等は、＜農民＞&＜小鬼＞の9人でチームを組んでいて、協力体制もバッチリだから、既に確定で900票持っている。
それに加えて財力もエグいので、俺が正攻法で奴等の票に勝つのは無理だ。
「そもそもの話……俺は現在、奴等に嫌がらせされているせいで余裕がない。何故このタイミングで、鬼畜ミッションが来るんだよ！」
＜風炎のダンジョン＞上空には、未だに分厚い雨雲が鎮座し、「乾いた大地」として有名なこの渓谷が水没しそうなほど、激しい雨が降っている。
いや……抗っていなければ、もうとうの昔に水没していたか。
現在は、ダンジョン内に雨水の流れ道を作って、新設したプールに雨を貯め、それをゴーレムに捨てさせる方法で、危機をいなしている。
しかし雨が止む気配は一向になく、雲ごと燃やそうとしても、周囲の雲を集めてさらに凶悪化したので、対処療法が精一杯の状況だ。
「しかも延々とジメジメするもんだから、周囲の地表分にカビが生えて、雨水とともにカビの胞子まで流れ込んでくる」
加えて、溺れ死んだ虫の腐った水死体も雨水で流れてくるため、精神的にも参ってしまった。
「それにしても、奴等の900票を投じられる魔王は気の毒だな。その時点で、半分人生終了じゃねぇか」
今回のミッションでは、途中経過は公表されず結果のみ知らされるカタチなので、まだ当事者に自覚はないだろうけど……
奴等の猛攻を自衛しようと思ったら、「3000万ポイント×900票＝270億ポイント」寄付しなければならず、現実的じゃない。
また、他者に覆い被せるパターンを狙うにしても、900票分だと90億ポイントの課金が必要なので、金満魔王以外ムリゲーだ。
「えっ？ まさか俺がターゲット……じゃないよな？」
報復なら、現在進行形でダンジョンを水没させようとしている、鬼畜雨雲だけで十分なはずだ。
それに奴等は、普段から魔王掲示板で陰口を叩かれまくっているから、その加害者の誰かを狙うだろう。
さすがに俺じゃない……と、信じさせてくれ！
「ゴホン！ まぁ何にせよ自衛するだけ無意味だし、俺に入る票は無視して、モンティートを葬り去るよう、水面下で動くぞ」
モンティートさえ消してしまえば、＜農民＞同盟は著しく弱体化するし、後ろ盾に頼れなくなった＜小鬼＞同盟も没落する。
奴に恨みを持つ魔王や、目の上のタンコブ扱いしている魔王は多いから、談合などせずとも自然と奴には票が集まるはずだ！
「俺にできる働きかけと言ったら、アスタリア達に入れる票をモンティートに集めるよう、誘導するくらいか？」
＜農民＞同盟メンバーやメグミ達を消したい連中も、「モンティートを消せば連鎖的に……」と説明すれば、諸々理解して合わせてくれる可能性がある。
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)
