517話 余り物には福がある
〜スティーブside〜
ナチュラルに鬼畜を爆発させるメグミ先輩の厚意で、いくら使ってもなくならない程のスクロールを譲っていただけた僕達は……
二人でトイレに引きこもり、心安らげる環境で「スクロールをどう使う」か話し合った。
「メグミ先輩が<水>、サーシャ先輩が<火>を多く使ったから、四属性では<土>と<風>が多く残っている。他は、<アイテムボックス>が切れた程度だね」
サーシャ先輩が画期的な方法でゴッソリ取得したからこそ、この状況があるんだし……
メグミ先輩も、<農民>同盟から大量のスクロールを買い取る"成果"を残しているので、僕等に残されたスクロールが偏っていても文句はない。
だが先輩方より取れる選択肢が少ないのも、また事実なわけで……どう運用するのがいいか、悩みどころだよ。
「とりあえず、カルマ君は<風>をメインにするって事でいい? <森のダンジョン>が土属性だから、<土>のスクロール使えないだろうし」
「はい。スティーブ君には関係ないのに、すみません」
「全然いいよ〜。僕も、<風>より<土>の方が<水>との相性いいと思っていたし、良さそうなアイデアも一つ思いついたから!」
その名も、泥んこスライダー!
現在<水城のダンジョン>にあるウォータースライダーで、スピードが出てきたところに「コンクリート製のザラザラコース」を設置して……
侵入者の衣服を傷付けたり、生皮を剥ぐ嫌がらせをする。
そして終着地点のプールを、適度に肥やしも混ぜた泥沼にし、落ちた所で「通行料〇〇ロルです」と請求する、先輩方が好みそうな仕掛けだ。
「生傷が出来た状態で泥沼にハマって、出るまでに病気でももらってくれたら、万々歳! それが無理でも、敵にストレスは与えられるだろう」
他には、「道作りフロア」とかどうかな?
コチラが先へ進むルートを用意するのではなく、スタート地点とゴール地点までを、飛び越えられなそうな難所にして……
用意してある"土"や他の材料を使って、自力で道を作らないと、先へ進めないようにする……とか。
飛び越えられたら意味ないから、風魔法対策は必須になるけど、案外面白いんじゃない?
「カルマ君は、<風>のスクロールをどう活かすつもり?」
「そうですね……。シンプルに、有害物質が風と共に舞うフロアでも作ろうかな……と。あと市場で一度現金化して、欲しいスクロールを買う軍資金にする手も」
あぁ、たしかに。
多くの配下にスクロールを渡すのもありだけど、僕等の手元にきたのはほぼ全てFランクのスクロールだから、一度人間社会のマーケットへ流して……
即戦力として使える、Dランク以上のスクロールに買い替えるのも、戦略のうちかもしれない。
「あと、サーシャ様が先ほど仰っていたのですが……他の魔王と交渉して、別のアイテムと交換するのもアリだと」
「なるほど。たしかに、魔王ランキングの順位は微妙だけど歴だけは長いって魔王、結構いるからね〜。余ったスクロールは、彼等の持ち物と交換するか」
もちろん交換となれば「裏切られるリスク」は付きものだし、ツテのない僕達じゃ、そもそも話すら聞いてもらえない可能性もあるけど……
アイテムをアイテムに換えるなら、魔王との直取引がいいに決まっている!
だって、人間社会で流通している優れたアイテムはほぼダンジョン産だし、人間のマーケットで買うと手数料が高いもの。
なおかつ、数が少なく本当に優れた物は王侯貴族が掻っ攫っていくから、平民が客となる"一般的な市場"には出回らない状況だ。
「あとスティーブ先輩、こういう案ってどうです?」
「ん? どれどれ……」
いい事を思いついたという表情で、カルマ君がくれたアイデアは、プールの底に、ガラス張りの報酬ケースを置き、スクロールで侵入者を釣る……というもの。
人間社会では、たとえFランクのスクロールだろうと高値で取引されるから、侵入者は「お宝発見!」と思って食いつくに決まっている。
「ですけど、その報酬ケースは触れた瞬間砕け散り、指先をガラスで切るような構造に細工しておくんです。ガラスで切ったケガって、ちょい怖いので」
「たしかに。ガラスって、破片が細くなりやすいうえ見えづらいから、傷口から血管にガラス片が入って心臓へ……ってパターンもあるもんね」
「はい。確かめようにも、水中だとより確認しづらいですし、嫌がらせにはピッタリなんじゃ……と思って!」
「なるほど。それに加えて、プールの底に沈んだ状態で幽霊系モンスターに足を引っ張らせれば……悪くないな」
いや、敵にとっては災難かもしれないけど。
少なくとも<水城のダンジョン>にとっては、仕掛けの幅を広げる福音だ!
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)