510話 武装農民
〜メグミside〜
「あれ? ダブル・フェニックスが、配下を引き連れて戻っていく? どういう事だ?」
「ちょっと前に、ブブカと手紙のやり取りをしていたっぽいから、退却命令を出されたんじゃない? いくらSSランクモンスターでも、魔王命令は絶対だから」
アスタリア先輩の言う通りかもしれないけど……じゃあどうして魔王<ブブカ>は、このタイミングで退却命令を出したのだろう?
まだSランク以上のモンスターは1体も死んでいないし、糞便攻撃で心折れるなら、もうとっくに帰っているタイミングだ。
「そりゃあ、あれだけ花粉症の症状が出ていたらね〜。ブブカが花粉症を知っているかは分からないけど、流石の奴も違和感を覚えると思うよ」
「そうですか? 指揮を執っていたダブル・フェニックスは、まだ症状が出ないラインで留まっているので、全然気にしてなさそうでしたけど」
「うん。だってブブカは、己の勇足が原因で一度滅びた魔王だもん。それなりに痛い思いしているから、"怪しいと感じたら引く"程度の慎重さは持っている」
「なるほど」
特に恩恵があるわけでもないダンジョン攻略を、私情で試みるあたり、魔王<ブブカ>は脳筋ゴリラ系の魔王だと思っていたけど……
モンティート先輩の発言に、アスタリア先輩・ナーティー先輩も頷いているし、意外と「慎重派のやり手」なのかもしれない。
「まぁでも、五体満足で撤退させる気はないけどね」
「そうそう。魂だけ逃げ帰る分には自由だけど、殺戮ポイントでカルマ君を稼がせるためにも、首は置いていってもらわないと!」
「胴体も、丁寧に素材を剥げば相当な値段で売れるし、魂以外は全て要るぞ! SSランクの素材は、血液や唾液だって金になるからな」
先輩方、殺る気がみなぎっているようで何よりです。
たとえ違和感に気付いて撤退を指示しても、1本しかない帰り道で彼等の眷属が舌舐めずりしているんだから、ブブカの配下の末路は決まったも同然。
脳筋ゴリ押しで「不調など知らん。先へ進め!」と指示する魔王よりは、はるかに優秀だったと思うけど……ブブカさんドンマイ!
恨むなら、「若手魔王のダンジョンだから」と軽い気持ちでチョッカイをかけた、数日前の自分を恨んでね♪
その後、「目と鼻を真っ赤にしながら鼻水ズルズルで引き返した、ダブル・フェニックスとその部下達がどうなったか」については、語るまでもない。
フロアを焼き払ったとき自滅して後遺症が残った、Aランク以下のモンスターだけでなく、Sランクモンスターまで足手まといになってしまったのだから……
花粉をたっぷりと内包した植物だけ復活しているフロアを、進行のために焼き払うだけでもケンカが起き、彼等のモチベーションは地に落ちた。
さすがに途中で、見える程に舞う花粉が原因なんだと気付いてからは、結界で花粉をガードしようとしたけど……
すでに目や鼻の粘膜に大量に付着しているし、彼等は飛行系モンスターだから、羽の内側も花粉で汚染されちゃって、対策が後手に回っている。
そのうえ指揮を執っているダブル・フェニックスだけは、花粉症を発症せず部下の心情を理解できないため、統率は乱れるばかりだ。
そんな状態で「理由が分かったから再度進軍」という訳にもいかず、かといって1階まで引き返したところで、<農民>同盟部隊に勝てるはずもなく……
見事に全員"素材"として狩られ、生きながらにして皮や臓器を剥ぎ取られる、悲惨な最期を遂げた。
「痛みが大きいから、ちょっと可哀想な気もするけどね〜。モンスターの素材を剥ぐときは、殺してからより生のまま剥ぐ方が高品質なんだよ」
「ある程度は回復魔法やポーションで再生するので、皮膚なんかは魔法で再生させつつ剥ぎ取って、1体から数十体分確保できますしね」
「特に、頑丈で再生力の優れたダブル・フェニックスは、"素材生産マシーン"として優秀だ。眼球でも心臓でも勝手に再生して、取り放題できるからな」
わーお……事実だけど、この先輩方……<農民>を自称しているとは思えないほど、容赦ない。
絶対に農耕系じゃなくて武装した農民だし、副業でイノシシとか狩って自分達でさばく、「肉まで完全自給自足」の強強さんだ!
「そりゃあ、ケンカを売られた相手に情けをかけるほど僕等は優しくないもん。森を焼かれたダンジョンの修復費用だってバカにならないし、稼がないと!」
「ですね。目の前に"素材生成マシーン"があれば、活用して収支状況を改善するのは当然! メグミ君達も、同じ状況になったら容赦なくやるのよ」
「うむ。ついでに素材を何回剥ぎ取ったかカウントして、ブブカにお礼の手紙でも書いてやると、楽しいことになるぞ! 今回は、カウントし忘れたが……」
先輩方……TUEEEするのは結構ですが、普段とのギャップが激し過ぎて、カルマ君だけじゃなくスティーブまで石化しちゃったので、程々に。
だけど、もし僕等が次殺ることになったら参考にさせてもらいます!
読んでくださり、ありがとうございます!
この小説を読んで面白いと思ってくれた、そこの貴方(≧∀≦)
モチベーションUPの為の燃料……ブクマ・評価・感想・レビュー、待ってます!!
作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)