509話 特別身体が頑丈なボス
〜とある侵入者side〜
渋る部下共に「仕事しろ」と言い聞かせて、糞便臭ただようフロアを進み下の階へ降りたのだが、また"同じようなフロア"が広がっていた。
そして再び燃やすとウンコの雨が降り、避け切れなかった連中の身体はどんどん臭くなる。
「もう嫌です! 戻りましょうよぉ〜」
「そうっスよ。俺達の役目はあくまでも偵察であって、カルマの討伐は義務じゃないんスから!」
「うるさい、黙れ! 逃げたくなる環境なのは理解できるが、落ち着いて考えてみろ。失敗した部下に厳しいブブカ様が、醜態を晒して帰った我等をどう扱うか」
「「「「「「「「「「……………………」」」」」」」」」」
属性的に相性が悪くて負けた……とかなら、まだ良いんだ。
ブブカ様は聡明な方ゆえ、「相性によっては格下でも厳しい戦いを強いられる」と理解していらっしゃる。
だが、「ウンコの雨が降ってくるのに耐えられず逃げ出しました」などと報告した日には、我等の棲家を「厠の中」に設置されてしまうわ!
<森のダンジョン>は土属性ゆえ、<風>と<火>を操る我等と相性がいいのは知られているし、ここで逃げ帰っても言い訳できずに詰むだけだ!
「じゃあせめて、フロア全体を燃やすのを止めて普通に進みましょう。それなら、上から糞の雨が降ってくることもないし」
「それが出来るなら、とっくにそうしている。天井は相変わらず低いままゆえ、木の上を飛ぶことはできん。そして、普通に歩いてみろ。より惨事になるぞ!」
そもそも、不意打ちをくらった最初の封鎖トラップで、偵察を得意とする小柄なBランク以下のモンスターが、軒並みやられた。
それゆえ現在の我々に、精度の高い探知をおこなう余裕はなく……普通に森の中を進むと、途中にあるトラップに引っかかる可能性が高い。
「水滴サイズの糞ではなく、そのまま肥溜めに落ちて、腹いっぱい糞を食うハメになるやもしれん。それでもいいのか?」
「うっ! それは……」
嫌だろう?
だから俺も、苦肉の策で木々を燃やして進んでいるんだ。
最初こそ不意打ちをくらって死者&戦線離脱者を出したが、きちんと用心しておけば、燃焼による有害物質はある程度結界で防げるからな。
「(それに、歩みが遅くなればなるほどダンジョン攻略に必要な日数も増えて、後遺症が残った連中の足手まとい度合いが増す)」
上手いこと初見のトラップで死んでくれるまで、致命的な足手まといにならぬよう配慮して、奴等がいても進める状況を維持し続けなければ!
「ですが……さっきから、何故か涙と鼻水が止まらないんスよ。ちゃんと燃焼時の有害物質はガードしている筈なのに、どうしても我慢できなくて!」
「ん? 涙と鼻水?」
そういえば、コイツだけでなく後ろの連中もしきりに目を擦っているな。
「お前等。目が痒いからと擦るのは構わんが、熟成された糞便で汚染されている状況でそれをやると、目が潰れるかもしれんぞ」
「「「「「「「「「「〜〜〜〜〜〜〜!!!?」」」」」」」」」」
当たり前だろう、目は粘膜が出ている部位なのだから。
清潔に保たなきゃ腫れたり熱をもったりするし、場合によってはそこから菌が入って死に至る。
「(だが……汚物が目に入ったからといって、クシャミが止まらなくなる症状なんてあったか? う〜む、俺じゃ分からんな。ブブカ様に聞いてみよう)」
成功報告以外はしたくないところだが、致命的な判断ミスに繋がると俺の首が飛ぶので……
仕方なくギフト持ちの部下を介してブブカ様に連絡を入れ、適切な判断をあおぐ。
あくまでも「現在、部下が患っている症状」についてのみの報告であり、恥でしかない「ウンコとの激闘」については伝えていないが……
ブブカ様も、小童魔王のダンジョンがこんな地獄になっているとは思わないだろうし、突っ込まれたりはしないはずだ!
と思っていたのだが……ブブカ様から届いたのは、有無を言わせぬ語調での「即時撤退命令」。
最初見たときは驚いたが、「SSランクの不死鳥であるお前だけ元気で、Sランクモンスターが症状を訴えている現状を、冷静に鑑みろ!」と言われると……
不本意だが、撤退に応じるしかなくなった。
俺自身、自覚はないのだが……不死鳥ゆえ他者より丈夫であり、疫病の感染地帯に住んでいても不調を感じぬ……程度の強度は持っているのだ。
ブブカ様いわく、「異常なのは"俺"の方であり、部下に合わせるのが将の務め」だという。
この程度の災難で潰れるような軟弱者なら、ここで朽ちてダンジョンに喰われてしまえ、と思わなくもないが……
主命は絶対なので、悔しいがここは一旦引いて態勢を立て直す!
「(そういえば、俺も少し目が乾燥しているような……。だがまぁ痒くはないし、気のせいだろう)」
そもそも……下っ端どころかドラゴンまで「目が痒い」と弱音を吐く状況がおかしいのだ、弛んでいる!
帰ったら、二度とそんなバカなことを言えぬよう徹底的にシゴかなければ!
読んでくださり、ありがとうございます!
この小説を読んで面白いと思ってくれた、そこの貴方(≧∀≦)
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)