502話 ランキング上位と下位の差
〜カルマside〜
先輩が用意してくださった十数案のテンプレートから、僕が選んだのは、「ひたすら地上と同じような森が広がっているダンジョン」だった。
見た目とか機能が気に入ったのではなく、恥ずかしながら「一番コスパ良く導入可能」という説明に惹かれてのことだ。
「このテンプレートのダンジョンは、1〜8階層まで、見た目は全て"地上とほぼ同じ森"が延々と広がった感じになっている。ただ微妙に仕掛けがあってね」
先輩いわく……木に印を刻んでマーキングしようにも、ダンジョンの自動修復機能で勝手に治るし、物を落とすパターンも自動で回収されるため……
侵入者は「自分が何処にいるのか」分からなくなり、進みづらい……とのこと。
また風属性モンスターに上空を飛ばせて、厄介な森をショートカットするのも、木のすぐ上に天井があるから不可。
見た目は森なんだけど、天井が近いせいで妙に圧迫感があり、ズルできない仕様になっているのだとか。
「あと特徴として、木の根っこが微妙に足に引っかかる作りにしてあったり、触れるとかぶれる植物が多数植わっていたりと、侵入者が困る環境にしてある」
「なるほど。たしかに森の中って、舗装された地面より遥かに歩きづらいですし、それがさらに強化されているとなると……嫌ですね」
「そして極めつきなんだけど……食人花とかトレントとか、加害性のある植物系モンスターが、さり気なく植っていて気が抜けない」
「おまけに、侵入者が休憩をとりたくなる"一見安全そうな場所"は、そこ全体が巨大落とし穴になっていたりするから、全然休めない造りなの♪」
実装されたフロアを指差し、嬉しそうに説明してくださるメグミ先輩の話を聞いていると、横からサーシャ先輩が補足を入れてくださった。
サーシャ先輩もすごく楽しそうだし……もしかしてこのお二人、根本的に、こういう「何かを創る作業」が好きなのかな?
「あと森だとさぁ〜。意地の悪い魔王は、全部燃やして視界明瞭にしてから進みたがるかもしれない」
「そっちの方が、自動修復で森を治す費用がかかって、カルマ君のお財布にダメージを与えられるしね」
「そうそう。サーシャが言ったことは、ある程度上位の魔王なら皆理解している事だから、意地が悪い奴はそれくらいする。オブジェクト破壊は基本だ!」
「だからメグミ君は、一定以上の火災を探知した時点でそのフロアの扉を閉じ、換気口も全て閉めて侵入者を中に閉じ込める仕掛けを用意したの」
「特定の条件を満たした場合の扉封鎖なら、ダンジョン運営規約にも引っかからないから、合法的に"森を燃やそうとした奴等"を一酸化炭素中毒にできる!」
「焼かれた森の修復で、カルマ君のお財布にダメージが入っちゃうのは一緒だけど、その場で加害者に報復できるんだし……これならOKでしょう♪」
「あと、焼かれた木は炭にして売れるからね! そういうのに向いた種類の木を、メインに植えてあるから」
「そうそう。売れない灰も、回収してモンティート先輩に売れば、小銭くらいにはなるから。灰は、肥料として活用できるんでね」
子供のように目を輝かせて、組み込んだ仕掛けの説明をしてくださるメグミ先輩とサーシャ先輩は、やはりとても楽しそうで……
息ピッタリだし、見ているコチラも幸せな気分になってくる。
僕は説明していただいている立場なのだから、ちゃんとしなきゃいけないんだけど、御二人を見ているとつい笑みが溢れてしまうよ。
「メグミ君。侵入者に対するアレコレはいいけど、他の機能の説明が抜けているよ。養殖ビジネスの話とか」
「あっ、そうでした。失礼!」
先輩方が実装してくださったダンジョンには、まだ他にも機能があるようで、モンティート先輩の指摘を受けたメグミ先輩が、続けて説明してくださった。
「カルマ君は初耳だと思うけど、基本的に魔王ランキングの上位陣は何かしらの不労所得を持っている。僕の場合は、アリの養殖ビジネスから始めたんだ」
「えっ!?」
「私は、シルクスパイダーを利用した絹糸の生産を好んでやっているの。でも、効率的には"アリ"の方がいいかな」
完全な初耳だし衝撃的すぎて、また石化しそうになったが、サーシャ先輩もやってらっしゃるようだし、他の先輩方も当たり前のように頷いている。
つまり上位陣にとってこの話は当たり前のことであり、この「養殖ビジネス」による収益差が、上位と下位を分ける決定打になっていたのかもしれない。
「ふふっ。カルマ君が真面目な表情になった。やっぱり君も魔王だね〜。OK。じゃあ一から説明していく。難しかったら、その都度質問して理解してくれ」
「はい。よろしくお願いします!」
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)