486話 解せない状況
〜メグミside〜
なぜこうなったか、イマイチ思い出せないのだが……僕は、甘い果実の香りで目が覚めた。
体も頭もすこぶる元気で、今なら3日くらい徹夜で働けそうなコンディションだが、どういう訳かここ数日の記憶がボロッと抜けているのである。
「おはようございます。すみません先輩、なんか僕寝ちゃったみたいで」
「あぁうん、大丈夫! メグミ君は充分働いたから、もう休んでいていいよ〜。メールチェックも、スティーブ君と土龍に代行してもらっているし」
「えっ!? 本当にすみません。今すぐ全部やります!!」
「いや、マジで大丈夫だから。というか……これ以上メグミ君をこき使うと、サーシャちゃんと会ったとき僕が"パワハラ爺"扱いされるんで、ジッとしていて」
序列1位の先輩が働いているのに自分だけ爆睡するという、後輩にあるまじき糞ムーブをかましてしまった僕に対して、モンティート先輩はなぜか優しい。
そしてテーブルの上に数十種類の果実を乗せて、「好きに食べていいよ〜」と笑顔で勧めてくれたので、断るのも悪いしいただくことにした。
「はむ。このメロン、メチャクチャ甘くて美味しいですね! 正直、自販機で買ったスーパーのメロンより美味しい」
「はははっ。土精霊が愛情をこめて世話した、王侯貴族御用達の高級メロンだからね〜。グラム当たりの価値だって金とほぼ同じだから、美味しくて当然だよ」
うげっ、なに当たり前に超高級フルーツを並べているんですか!
そんな物を腹一杯食べたら、僕の財布に木枯らしが吹いて破産しちゃいますよ!!
「ふふふっ。"目的の種"を抜いた余りだから、いくら食べてもタダだよ。さっきスティーブ君も、お腹が瓢箪みたいになるまで食べていたから、君も食べな♪」
「えっ? それは、どういう……いや、ありがとうございます」
というか先輩、今日はいつにも増してカッコイイですね。
普段から「上品なお爺さん」って感じだけど、今日はイケ爺感が二段階くらい上がっています!
「そう? 君が起きたら、サーシャちゃんとの面会許可をとろうと思って、準備していたんだよ。ほら、女の子って不潔な男のこと嫌がるしさ」
「あぁ、なるほど。(先輩なら、いつもの格好でも余裕で合格ラインだと思うけど。サーシャは、どこぞのアバズレ婆共と違ってマトモな感性を持っているし)」
とはいえ……髪と服装をより整えた先輩は、「老執事」とか「貴族を引退した翁」って感じで、「歳をとるならこうなりたい」という姿をしている。
僕としても、こういう先輩を彼女に紹介できて誇らしいので、着飾ってくれるのは大歓迎だ!
「ところで、なぜフルーツを?」
「正確には、"フルーツの種"を集めていたんだよ。彼氏のプレゼント枠を阻害せず、邪魔にならない贈り物って、案外難しくてね〜」
なるほど。
たしかに先輩からアクセサリーを贈られたら、「先輩のダンジョンへ行くときは必ず身につけないと失礼にあたる」云々、気を遣いそうだし……
僕ならそういうプレゼントも歓迎だけど、サーシャの考えはまた違うかもなので、育てて食べて楽しめる「フルーツの種」の方がありがたいです。
「でさぁ〜、僕……<集金箱のダンジョン>にお邪魔していい? というか、サーシャちゃんに会ってもいい?」
「メールで聞いてみますね。僕は全然OKなので、サーシャの許可が出たら即行きましょう!」
「やったぁ!」
ところで先輩……サーシャと会うときはスティーブも連れて行く約束だったと思うんですけど、アイツ……大丈夫ですか?
僕が引き受けていた仕事をほぼ丸投げされ、<水城のダンジョン>の管理業務も加わったら、過労で死んでいるんじゃ?
「あぁ、それなら平気だよ。メグミ君が過労で倒れたから、僕等も反省して対策をとったんだ。だから、スティーブ君は生きている」
自信満々に言うモンティート先輩とは対照的に、彼の後ろに控える執事オートマタが一斉に視線を逸らしたので、たぶん"何かある"のだろう。
若手は多少無理しないと能力が伸びず、生存競争に負けて「狩られる側」にまわるハメになるので、生きているなら特に何も言わないが……。
「あっ、サーシャから"OK"の返事がきた。じゃあ、<水城のダンジョン>でスティーブを回収した後、<恵のダンジョン>で彼女と落ち合いましょうか」
「了解! スティーブ君は仕事モードだから、合流するまでしばらくかかるとサーシャちゃんに伝えておいて」
「分かりました」
やはり何かある……通常とは異なる方法で、膨大な仕事を押し付けても「過労死できないようにする仕掛け」が、施されているのだ。
被験者一号がスティーブで助かったけど、それ……放っておくと、次は僕にくるよね?
読んでくださり、ありがとうございます!
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






