447話 網にかかった獲物
〜メグミside〜
サーシャが作ってくれたオムレツを頬張りながら、現場からの報告を聞き素早く指示を飛ばす、モンティート先輩を眺める。
いつもは愉快なお爺さんだけど、配下の命がかかっている場面だけあって、こういう時の表情はキリッと引き締まり、序列一位の威厳がうかがえるよ。
「主様。ガルガロクの火属性モンスターが、別の入り口から外に出ていきました。向かっている方角的に、最寄りの街が目的かと」
「だろうね。ポイントの推移を見る限り、現金は底をついている可能性が高いし……"殺して奪え"を地でいくつもりじゃないかな?」
「どうなさいますか?」
「放置でいいよ。被害者が気の毒ではあるけど、弱者を守りながら戦えるほど、僕も多くの手勢は派遣していないからね」
「かしこまりました」
自分の手に余る者は、弱者であってもスパッと見捨てて手勢の安全を優先するのも、さすがだと思う。
誰でも助けたいお人好しって何処にでもいるけど、それで大事な配下を失うんじゃ本末転倒だし、優先順位を決めて行動できなきゃリーダー失格だもん。
「でも思ったんですけど……なぜガルガロクは、モンティート先輩に読まれまくる行動しかしないんですかね? それじゃあ負けますよ」
「ん? だって、すでに勝負はついているから。"しない"んじゃなくて"できない"んだよ。本当に追い込まれると、選択肢自体が少なくなるものだし」
「…………?」
「ガルガロクの立場で考えてごらん。僕相手に正面からぶつかっても負けるのは、これまでの野外戦で検証済み。そして、ウチの軍にはギフトも効かない」
「あぁ。精霊の力が強過ぎて、<呪毒の炎>を浴びても防御膜が勝ってしまい、本体に届かずダメージも通らないんでしたね」
「そうそう。モスキートみたいな最弱モンスターはともかく、主力は寝ていても呪いをくらわないし、それはガルガロクも認識しているんだよ」
正面からの戦いで勝てないとなると、ガルガロクがとれる手段は搦手のみとなるが……自分よりも遥かに上位の魔王相手に、トラップ攻撃なんて通じない。
よって"それなりに上位"の僕の軍勢と同士討ちさせて、自滅させるという、他力本願極まりない選択肢しか選べなくなるってことか。
「普通に考えて、メグミ君達は僕の軍勢を見つけ次第"クタバレ"って猪みたいに突進するほど、バカじゃないでしょ?」
「はい。たとえ先輩を恨んでいたとしても、自分の配下をむやみに全滅させたくはないので、速攻で撤退させます」
「だよね〜。だから同士討ちを狙う場合、キミ達と僕の軍勢をはち合わせたとき、双方に"相手はガルガロクの部隊。要するに敵!"と勘違いさせなきゃいけない」
「ふむ。だから僕等の属性のモンスターを使って、先輩の軍勢に奇襲をかけさせているんですよね? 視界不明瞭で判断力も鈍りそうな、サウナ環境の中で」
「うん。誤認させるなら、視覚での判断を狂わせるか洗脳をかけるかの二択になるんだけど……僕とガルガロクの実力差的に、洗脳は無理じゃん?」
「あぁ〜。だから視覚での対処しかなくなって、あのサウナ環境に落ち着いたと」
「そうそう。お金がもっと余っている状況なら、派手な仕掛けも組み合わせられただろうけど、そもそも金欠でダンジョンの改造が難しかった」
「なるほどデス」
つまりガルガロクは、これまでの多額の出資と先輩との野外戦で、手持ちの選択肢をほぼ失ってしまい、コレしかとれる道がなかったのか。
というか……そう誘導して、おまけに僕等の軍勢や手紙もアシスト要素とし、ガルガロクの背中を押した先輩の手腕が怖い。
今は味方だから「頼もしい爺」だけど、もし先輩が敵だったらと思うとゾッとするよ。
この人と削り合いをするなんて、僕は絶対に嫌だ!
「むぅ。いつかはメグミ君が、僕等を倒して一位の座をもぎ取り隠居に追いこむんだよ! そうじゃなきゃ、世代交代にならないでしょう!」
「その時は、双方が甚大な被害を受ける削り合いじゃなくて、仲間と楽しく隠居できるような機会を見つけてやりましょう。殴って退場させる気はありません」
「まぁいいけど。(たしかに、殴られて強制引退は心理的に辛くもあるんだよね〜。メグミ君達の権威性確保には、そっちの方が都合いいんだけど)」
ところで先輩……マッドサイエンティストに攻められて発狂し、全面降伏の嘆願状を送ってきたトキナの処遇はどうします?
放っておいても詰むのは時間の問題でしょうけど、今ならまだ「奴隷として生かし、極限まで搾りとる」って選択肢もありますよ。
僕としては、トドメを刺してギフトを奪うところさえ譲っていただければ満足なんで、あとは先輩のご判断に従います。
読んでくださり、ありがとうございます!
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






