411話 抗えぬもの
〜メグミside〜
『お前ら、もう少しだから気合いを入れろ! ここはダンジョンの中だぞ。鎧を脱ぐんじゃねぇ!』
『だって延々とジメジメした環境が続いて、鎧の中ビチョビチョなんだもん。このままじゃ、俺たちまでカビだらけになっちまうぜ』
『気持ちは分かるが、命がかかっているダンジョンでそれは……』
ダンジョンの奥深くに入りこみ、緊張の糸が切れた80期連中の様子を見て、「坊ちゃん育ちだなぁ」と改めて思う。
素質だけなら、一流冒険者と変わらないキャパを与えられたはずだけど……本気で痛い目に遭ったことがないせいか、行動はその辺の盗賊よりも未熟だ。
「(ロルカナが配布しただろう、その鎧。一部とはいえオリハルコンコーティングが施された、新米には勿体ない高級品なんだぜ)」
それをわざわざ自分から脱ぐなんて、「殺してください」と言っているようなものだ。
徹底的に打ちのめさずジワジワと手駒を削り、敗北感を与えぬよう配慮して、僕が狩るまで逃げないよう努めたとはいえ……
リーダーのテングン以外、誰も「ほぼ詰んだ」ことに気付かぬ緩みっぷりだし。
「(それでも、モンスターより弱くて範囲攻撃を放つと死んじゃいそうな魔王を、生け取りにするのは一苦労なんだけど)」
ダンジョンの奥深くまで潜られて、スティーブも疲弊気味だし……そろそろモンスターではなく、魔王を剥がしにいかないとな。
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〜とある80期魔王side〜
もう一階層降りれば、オブジェクト破壊に最適な場所が見つかる!
その現実味の薄い可能性に縋って、疲労困憊で階段を降りた俺たちの目の前には、これまでの努力を嘲笑うかのように最悪の光景が広がっていた。
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〜カビフロア〜
ありとあらゆるカビが生息する、カビにとっての楽園。
歩くだけでカビが舞い、油断すると皮膚と呼吸器系をやられる。
アレルゲンになりやすいカビも多いため、無事に脱出したければマスク・手袋の着用必須!
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「もうダメだ。ずっと徹夜で頭がボーッとしているし、もう動けねぇよ」
「カビくらい、後で手洗いうがいをすれば平気だろう。糞じゃないぶんマシだ。諦めて、ここで一休みした後オブジェクト破壊も済ませようぜ」
ロルカナ先輩に選ばれし精鋭……というていで来ているんだから、少しは根性見せろよ……と思ったが…………
不眠が続いて脳が死んだのは事実だし、俺もこの先へ進む気力がわかねぇ。
もし明確なゴールが見えていれば、疲れていても根性を出して目的地まで進むと思うけど、今回はゴールがどこにあるか分からないのだ。
というか……スティーブの鬼畜さ次第では、「快適にオブジェクト破壊できるフロア」なんて存在しないのかもしれない。
そんな不透明な状態じゃ、前へ進もうという意思よりも不安感ばかりが大きくなり、自然と足取りも重くなる。
俺はリーダーだし、誰よりもヤバイ現状を理解しているから、自ら足を止めることはなかったけど……事ここに至っては、仕方ないな。
「テントの下に分厚い布を敷けば、カビの脅威をある程度は防げるはずだ。ここに作業拠点を立てて、一休みしたあとオブジェクト破壊に移る」
「「「「「了解」」」」」
正直、テント設営をするのすら辛いほど眠くて腕に力も入らないため、作業は同行しているゴーレムにやらせたが……
十分な数が揃っていたはずの手勢も、随分と減ったなぁ。
直接敵と戦ってボロ負けした事なんて、一度もなかった筈だけど……いつの間に、こんなショボい数しか手駒がいなくなったのだろう?
まぁいい、それよりも今は睡眠だ。
頭が働かなさすぎて、「とにかく横になって休みたい」という本能に支配されてしまい、他のことが何も考えられない。
随分減ったとはいえ、まだ護衛のモンスターはそれなりにいるし、80期全員で固まって寝れば、そこまでの危険はないだろう。
「(所詮、キモい環境を用意することしかできなかった相手だ。ここまで本腰を入れて攻めてきた事はないし、今回もきっと"様子見"とか言ってチキるはず)」
さすがに熟睡するのは危険だが、寝落ちしそうなこの状況でフラフラ働く方がよりヤバイ。
我等には天のご加護があるから、雑魚魔王ごときの襲撃なんか怖くないし、きっと襲われる事もないだろうから、ガッツリ寝よう。
読んでくださり、ありがとうございます!
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






