410話 ジワリジワリと
〜とある80期side〜
その後も、俺の<ゼリー化>ギフトを活かして、スティーブ討伐隊の連中を引き連れ、オブジェクト破壊に最適な場所を探したが……
進めど進めど「落ち着いて作業できる場所」は見つからず、気付けば随分と奥深くまで潜っていた。
しかも小賢しい仕掛けや不潔な環境のせいで、初めは充実していた手駒の数も、ジワリジワリと減っていき……
度重なる<天国と地獄フロア>攻撃により、余裕をもって用意していたはずの軍資金も底をついて、引き返すことすらできない状況に。
バカな連中はまだその事実に気付いていないが、疲労で自慢の頭脳が機能しなくなったホシューは、一息ついて回復したら勘付いてしまい……
俺を「無能なリーダー」と罵るに決まっているので、あと少し潜れば条件を満たす場所があると信じて進み、事態が露見する前にケリをつけるしかない。
「(うっ、クソッ! また汚水系フロアじゃねぇかよ! 水属性のダンジョンのくせに、全部汚物寄せしてんじゃねぇ!!)」
だが現実は、俺の願いを嘲笑うかのように糞フロアの連続であり……素通りするだけでも身体が痒く、気付けば皮膚も水疱だらけに。
ただ通り過ぎるだけでもコレなのだから、もしこんな所で作業をしたら、スティーブのダンジョンポイントを枯渇させる前に、俺等が病気になって……
看取る人すらいないこの糞ダンジョンで死に、ゴキブリの餌になってしまう。
「あぁ〜、頭が痒い! シャワーを浴びて、清潔な環境でゆっくり寝てぇよぉ〜」
「もう3日も風呂ナシだぜ。飯も食った気がしないし、やってらんねぇ!」
根性ナシの同期魔王は、口を開くたびに弱音を吐いて、討伐チームのモチベーションをさらに下げ、足をひっぱるばかり。
「こんな奴等さっさと死んでしまえ!」と思うが、コイツ等に死なれると配下のモンスターまで道連れで滅びて、肉壁が減ってしまうので言葉には出せない。
「(ハァ〜。なんで俺、こんなチームのリーダーなんて引き受けたんだろう? こんな事になるんだったら、出世なんか気にせず遠征拒否しておけば良かった)」
魔王転生したときみたいに、またいきなり状況が変わって、俺が活躍できる展開になる……とかないかな?
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〜スティーブside〜
<ブラッド・バフ>で魔王のギフトを強化され、手動で動かすダンジョンの仕掛けを潰されてもなお、汚水責めの脅威は健在で……
フロアを下るごとに80期共の目は死んでいき、配下のモンスターも一体また一体と脱落していった。
基本的には、弱ったり疲労で隙だらけになったタイミングを狙って、ウチの子達に集中砲火させ、ジワジワ引き剥がしていく方針だが……
その中でも、特に<ブラッド・バフ>持ちのホシューをマークしており、奴の配下は優先的に潰している。
ただメグミ先輩も苦笑いしていたけど……コチラとしても「そんなに奥深く潜らないで、浅い階層で作業して欲しい」と思っており……
すでに折り返し地点まで到達されてしまった現状は、嬉しいものじゃない。
本当にピンチになったら、メグミ先輩が秘術を使って対処してくださるとの事で、コアルームの安全は担保されているけど……
一度でも敵の前にダンジョンコアを晒せば終わりの業界だから、今の状況は体内をゴリゴリ抉られているようで、落ち着かないんだよ。
「う〜ん。これだけガードを削ってもなお、ホシューを引き剥がすのは難しいか。殺しすぎると寝返ってくれるモンスターも僅かになるし、困ったもんだ」
メグミ先輩も、ミッションとの兼ね合いで攻めあぐねている現状に、不満そうではある。
だが、実力不足でどうしようもないのではなく、「ミッションの糧にする」ために試行錯誤なさっているだけなので、頼もしいし側にいると安心するよ。
モンティート様ご来訪の予定も、僕が寝ている間に決まっており、朝イチで「楽しみにしているってさ〜。接待ガンバ」と告げられたので……
先輩達の中で今の状況は、「生死のかかった大一番」ではなく、勝ち確定で「どう料理すれば、収支良く終えられるか」という程度の認識なのだろう。
僕も冷静に考えれば味方優勢だと思うし、モンスター達の前で情けない姿を見せる訳にはいかないので、努めて冷静に振るまっているけど……
内心は戦々恐々でどうしても不安感が拭えないから、先輩方を見習って、はやく強靭なメンタルを身につけたい。
「ん。今いけそうだな。最後尾にいるオーガを狩ってくれ。10体がかりで襲撃すれば、犠牲なくいけるはずだ!」
「「「かしこまりました」」」
ちなみに……不潔極まりない現場へ出ているモンスター達は、襲撃後必ず全身洗浄して、ポーションも飲ませ病気にかからぬよう対策している。
ポーションは全て、メグミ先輩がカンパしてくれた"お高いやつ"だし、味方から感染者が出る心配はほとんどない。
読んでくださり、ありがとうございます!
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モチベーションUPの為の燃料……ブクマ・評価・感想・レビュー、待ってます!!
作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






