407話 出世競争
〜とある80期side〜
降り注ぐハッカ油に心身をやられ、ギャースカ文句ばかりたれる同期連中に怒鳴り返していたら、今度は油ではなく「臭いナニカ」が降ってきた。
よく見ると「ビッシリとカビが生えた魚の残骸」であり、腐敗した脂身のトリメチルアミン臭で、俺たちの立っている場所は地獄に。
ひとまずテントを立ててその中へ避難したものの、髪の毛も服もカビだらけだし、腐敗臭がこびりついていて消えるまでにしばらくかかりそうだ。
「(どうする!? このままじゃリーダーとしての働きを認められず、資質に不信感をもたれて、ロルカナ先輩に再登用してもらえないぞ)」
目的は彼女とのゴールインであって、出世はあくまでも「目的を達成するための手段」だから、他にルートがあるならそれでもいいけど……
まだロクな実績を残せていない段階でロルカナ先輩に見放されたら、俺も下品に騒いでいるこの雑魚共と同じになってしまうから、ここでミスはできない。
かくなる上は、できれば避けたかった「便利なギフト持ちで出世争いのライバルでもある、同期のホシュー」に再度依頼し……
<天国と地獄フロア>のなかで最も鬼畜と言われている、<大地獄ルーレット>を回避した時にように、俺の能力にゲタを履かせてもらおう。
「ホシュー。すまんが、もう一度頼む」
「ふふふっ。だからあれほど、お前じゃなくて僕がリーダーを務めた方がいいと言ったのに。無力なもんだね」
「ぬぐぐぅ……!!」
このホシューという男は、ミズチと同じくインテリ派のいけ好かない男だが、コイツが持つ<ブラッド・バフ>ギフトは非常に有用だ。
そのせいでロルカナ先輩も、コイツを何度も寝所に呼びつけて<ハニー・カード>で能力をコピーしており、俺が食うはずだったパイまで削られている。
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〜ブラッド・バフ〜
血を捧げることで、対象のスキルやギフト……果ては自然現象にも、バフをかけることができる能力。
バフの強さは、捧げた血の格およびバフをかける対象の状態・相性によって決まるため、猛者の血を使うほど効果もハッキリと表れる。
ただし己の血は使えないため、儀式を執りおこなう際は、必ず"他者の血"を準備しておかねばならない。
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<天国と地獄フロア>では、改造阻害ギフトにこれを組み合わせて、ギフトの適用範囲を広くすることで、(俺たち魔王は)地獄を見ることなく乗り切れた。
それと同じく、今回は俺のギフトを強化してもらうことで……ガラス片によるケガを減らして歩けるようにし、このカビ脂地獄から抜け出すのだ!
こういう形をとると、上手くいっても手柄は俺達二人のものになり……出世争いでも、俺が頭ひとつ抜けて評価される事はなくなるから……
できればホシューはずっと干しておきたかったんだけど、便利かつ効果範囲の広いギフトを、コイツが持っているんだから仕方ない。
利用するだけ利用して、要らなくなったら上手いことダンジョンに殺してもらう形で、合法的に排除してやる!
「テングン。人にモノを頼むときは、それなりの態度ってものがあるだろう? ほら、はやく言えよ。"ホシューさん、お願いですから助けてください"って」
「ぐぐぅ……!! ホシューさん、お願いですから助けてください。(ふざけんな! スティーブ討伐チームのメンバーなんだから、協力して当然だろうが)」
怒りで頭の血管がはち切れそうだったが……プライドの高いモラ男候補のコイツは、俺に頭を下げさせたことで気をよくしたのか……
この前殺した79期魔王の血を、アイテムボックスから取り出して儀式をおこない、俺の<ゼリー化>ギフトを強化した。
「どうだテングン。俺のギフトのおかげで、未熟なお前でも存分に力をふるえるぞ。感謝しろよ」
「…………ありがとうございます。(死ね! いますぐメグミの毒牙にかかって、恥を晒しながら惨めな最期を迎えろ!!)」
というか……どうしてコイツ、高等学舎時代からハブられていたのに、バッファーなんて「支える相手がいなきゃ意味ないギフト」を選んだのだろう?
たまたまロルカナ先輩に目をかけられて、集団で動くことが多くなったから、日の目を見ているだけで……
バフをかけても自分を守ってくれる人など、殆どいない魔王業界で、そんなリスキーなギフトをとるなんて、頭狂っているぞ!
あぁ、もしかして……魔王転生時に、内心「環境が変わればボッチ生活ともおさらばだ」とか、思ったのかなぁ?
「(くくくっ! そう考えると笑えてくるぜ)」
どこへ行っても、性格クソ野郎であるお前が周りに好かれる未来なんて、やってこねーっつーの!
読んでくださり、ありがとうございます!
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






