393話 両手を回収されし者
〜80期魔王<ミズチ>side〜
最初に目的地につき、ロルカナ先輩の評価点を稼ぐのには失敗したが、僕より先に着いていた奴がガロンで助かった。
アイツは高等学舎時代から体育会系の脳筋バカで、物事を10秒以上考えられないタイプだから、いないも同然だし実質僕が一番手だ。
「しかし、事前調査では存在しなかった沼地ができているとは。<水城のダンジョン>も、それなりにメグミの手を借りていると見るべきだな」
だが所詮"守り特化"のメグミじゃ、ダンジョン外の干渉には無力だろうし……スティーブも雑魚なので、きちんと理詰めでいけば落とせるはず。
「ロルカナ先輩も同意見で、僕に"川の位置をズラす"ミッションをお与えになった。<水城のダンジョン>が水属性なのを考えれば、最善の処置である」
この辺りに、川の水を丸ごと流せる大河や海はないので、土魔法を駆使して軌道をズラすのが精々だけど……
それでもやらないよりはマシだし、前提条件が崩れて<水城のダンジョン>が赤字になれば、僕の実績としては"上出来"だ。
「治水工事なんて普通は大勢でやるものだけど、僕には<MPサブスク型>という天の恵みがある。限界ギリギリの魔法を連発すれば、一人で完遂できるだろう」
掘った土や岩なんかは、ゴーレムと力の強いモンスターに運ばせればいいし、最悪そこら辺に捨てても大丈夫。
この場所は、あくまでも<水城のダンジョン>のテリトリーであって、僕等が気を遣ってキレイにする必要などない。
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〜MPサブスク型〜
魔法を使用するたびに対価として支払うMPを、常に一定割合取られ続ける代わりに、魔法を使い放題できるようになる能力。
「自分がマスターした魔法に限り」という制限はあるが、実力的に発動可能な範囲なら何発でも連射できるので、圧倒的な魔法砲台力を持つ。
その代わりオプションを盛り過ぎると、常時MP枯渇気味になりクオリティー・オブ・ライフが低下するため、ワーク・ライフ・バランスを考える必要がある。
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「ふぅ〜。とは言っても、炎天下で魔法を連発するのは疲れるな。治水工事も重要な部分は済んだし、ちょっと休憩してから仕上げに入るか」
敵の側で気を抜くのはあまり良くないが、ここはダンジョン外だし……ガロンの部隊が内部へ突撃した以上、スティーブも奴の防衛で手一杯だろう。
そう思ってパラソルと机を取り出し、好物のローストオークを食べていると、山頂の方から不吉な音が聞こえてきた。
しかもその音はどんどん大きくなり、「気のせい」では済まない程のインパクトを与えてくる。
<−−− ドドドドドドドドドッ…… −−−>
「ん、ちょっと待て。この音、もしかしてヤバイんじゃないか? だってコレ、上から降ってくる水音だよな!?」
気付いたときには既に鉄砲水が見える位置まで来ており、はるか格上の龍が、その水の軌道を少しだけズラしてコチラへ向けたのが見えた。
「「「「「「「「「「マスター!!!?」」」」」」」」」」
僕を守ろうと反射的にコチラを向いたモンスターは、もれなく鉄砲水に足を取られて呑まれてしまい……
助かったのは、自力で結界を張れた高ランクモンスターと、僕だけという惨状に。
そのうえ、どう考えてもSSランクモンスターの"龍"が、頭上から結界をカチ割って、生き残りを一体一体シバいていくのだから……
まだ魔王になったばかりで、Sランクモンスターまでしか揃えられていない僕に、太刀打ちできるわけがない。
<−−− ボカッ、ボキバキッ、グシャッ! ズパン! −−−>
そしてアッと言う間に、"その天災"は僕のところまで迫ってきて……容赦なく結界を壊され、MPの体内回路を意図的に破壊されたうえ……
「マスター達とメグミ坊ちゃんの分」などと言いながら、両手を手首から乱雑に切り取られた。
「(うっ、ヤバイ! ここまで経絡系をズタズタにされたら、高級ポーションを飲んで丁寧に治さなきゃ、魔法なんて撃てないぞ)」
いくらサブスク契約をしていると言っても、自分のコンディションが「魔法を使える状態」にないと、低級魔法すら繰り出せないので……
運動音痴な僕は、何一つできない足手まといになってしまう!
「(早くこの場を離れて良いポーションを飲み、この状況を打開しないと!)」
でもマジックバッグはあの龍が盗んで行ったし、アイテムボックスは金と契約書で容量を使い切っていたから、手持ちのポーションが無いんだ!
だからといって回復魔法で治そうにも、その魔法が撃てず困っている状況なので、客観的に見て詰んでいる。
いや……僕はロルカナ先輩の傘下なんだから、きっと先輩や同期が助けに来てくれ……
『ターゲットを発見しました。戦闘不能ゆえ応援は要りません。両手首とも傷口は焼かれていて、止血処理が施されております』
『分かりました。急いでメグミ様の元へ連れて行きましょう。我等の働きは、マスターの評価にも繋がるので』
『そうですね』
クソッ、なんで味方じゃなくて「スティーブの配下」が来るんだよ!
僕は優等生なのに……たった、たった一度の敗北で死にたくない!
読んでくださり、ありがとうございます!
この小説を読んで面白いと思ってくれた、そこの貴方(≧∀≦)
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






