392話 価値観の違い
〜スティーブside〜
優しいサイコパスなメグミ先輩から、恐る恐る「数十分前までインテリ君の胴体にくっついていた手」を受け取り、それと握手すると……
<直接合って握手を交わそうミッション>のカウントが「1→2」になり、ミッションの途中順位もガクンと上がった。
ちなみにこの「1」は、敵にダンジョンの改造を阻害されてやる事がなくなった後、メグミ先輩と握手を交わしたもので……
この前裏ルートで出回ったという、散った同期の「切り取られた手」と違って、ちゃんと温もりのある柔らかい手である。
そして僕が、チビりそうになるのを我慢しながら「インテリ君の手」と握手していると、メグミ先輩がブラックな笑みを浮かべて話しかけてきた。
「スティーブ君。悪いんだけど、もうすぐ運ばれてくる魔王<ミズチ>は僕が貰ってもいいかい? ちょっと事情があって、生きた魔王を欲しているんだ」
「はい。メグミ先輩のおかげで狩れた魔王ですし、先輩がお好きになさってください。もちろん、この"手"もお返しします」
「あぁソレ? ポーションで何度か生やしたり切ったりして"複製"した上で、ミッション達成用に売り捌けば、いいお小遣いになるよ?」
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!!? 遠慮します! 呪い殺されそうだし、いくらお金をもらえても精神病みますよ〜(泣」
たとえ今後どんな不利な状況に置かれようと、「メグミ先輩に歯向かうのだけは厳禁」だと分かった。
どれだけ修羅場を潜ったら、ナチュラルに「そう? じゃあ僕が貰おうかな」みたいな視線を向ける、先輩みたいな"悟り"を開けるんですか!!
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〜メグミside〜
<水城のダンジョン>で狩った獲物だから、スティーブに譲渡許可をとったのだが、押し付けるように「手」と魔王<ミズチ>を譲られた。
僕は高等学舎にいた頃から、回復魔法が上手いという理由で理不尽に「魔法の的」扱いされており、何度大ケガをしたかすら分からない有様なので……
肉体の欠損程度なら昔から平気だったんだけど、よく考えたら、それなりに恵まれた家庭で育ったスティーブには、キツかったかもしれない。
「ちなみに先輩。回収した魔王<ミズチ>は、どう処理するんですか? 奴隷化してダンジョンを乗っ取るとか?」
「いや、普通に殺すよ。<恵のダンジョン>の方が拷問しやすい環境だから、そこでちょっとお話しして、必要な情報を抜き次第トドメを刺す」
正確に言うと、僕自身がトドメを刺さなきゃ職業<勇者>の恩恵にありつけないから、それ目的だ。
僕に"勇者の血"が流れているのは、今じゃそれなりに知られた話だけど……能力までは公表していないし、わざわざスティーブに教える気もない。
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〜職業:勇者〜
異世界の血を引く「選ばれし者」がなれる職業。
聖職者としてのチカラを得るだけでなく、<才能の器>が拡張される事によりステータスの伸びが良くなる。
またその手で魔王を倒すと、相手のギフトおよびスキルの一部を貰い受ける事ができるため、魔王討伐経験のある勇者は隔絶した強さを持つ。
勇者の子孫が魔人族を倒すことにより、後天的に覚醒する場合アリ。
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もし彼がこの能力を知ったら、僕の側にいることすら怖くなり精神を病むだろう。
信頼関係を築けた後ならいざ知らず、まだスティーブはウチの傘下に入って間もない魔王だから、怯えて当然だ。
「あと、鉄砲水で死ななかった高ランクモンスターもコッチで貰っていい? 簡単に口を割らせる、とっておきの"アイテム"があってね」
「ヒィッ!!!? ぜっ、ぜひ先輩の糧にしてくださいませ!!!!」
スティーブ君、そこまで怯えなくてもいいんじゃない?
ちょっと怖い事を言った自覚はあるけど……そこまで涙目で震えられると、先輩悲しいなぁ〜。
「あっ、あの……モンスターも拷問して、情報を引き出す感じなんですか?」
「ん? う〜ん。一応話は聞くけど、彼等は魔王<ミズチ>を殺す前に処分してダンジョンポイント化しないと、消えちゃうからね。短時間で手早く済ませるよ」
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〜勇者の聖血〜
5体の魔王をほふった規格外の勇者<メグミ>が、「神聖なる儀式」の場で採取した血に聖魔法をかけたもの。
邪神の僕であるモンスターに、強い嫌悪感と苦痛を与える効果がある。
効果時間は相手の力量によって変わるが、成熟したSランクモンスターでも、丸一日は<異物感・嫌悪感・恐怖>等に苦しめられる。
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<恵のダンジョン>には、無制限に供給される超レアアイテムがあって、コイツを少し注射するだけで、モンスターは皆口を割ってくれるから……
魔王<ミズチ>のように拷問しなくても、情報は一通り揃うはずだ。
ちなみに……魔王<ミズチ>は、エンドレス拷問で情報を全抜きした後、スナッフビデオを撮ってサヨナラする予定。
脅しがてら<水城のダンジョン>で放映すると、侵入者の前にスティーブが泣きそうなので、ビデオの出番があるかは分からないけど。
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






