391話 「手」ゲット!
〜スティーブside〜
敵が「ダンジョン周辺の地形を変える」という荒技に出ても、慌てず「手は打ってあるから」と言い放ったメグミ先輩に、僕は畏敬の念をおぼえた。
そりゃあ、この場で一番偉いメグミ先輩がアタフタしたら、皆のモチベーションがダダ下がるから、どういう状況であれ格好はつけると思うけど……
これだけ予想外の動きをされても、眉一つ動かさず司令塔の役割を全うできる人は、早々いないだろう。
「ちなみに、どんな方法でアレを防ぐんですか?」
「防ぐというより、川の上流から鉄砲水を打って工事現場ごと流しちゃう方針。アスタリア先輩傘下の水龍さんに場所を報告し終えたから、そのうち来るよ」
なるほど!
治水工事と言えば聞こえはいいけど……長い年月をかけて固まった地面を掘り、川の軌道をねじ曲げたのだから、川の防衛力は弱まって当然。
そこへ上流から鉄砲水が流れてきたら、位置エネルギーが重力エネルギーに変換されて、あの現場に着く頃には猛威を振るうだろう。
「でも、どうして"痛み分け"なんです? 敵を丸々溺死させられるんだから、完勝じゃないんですか?」
「ん? だってさぁ〜。あのチームを潰したところで、工事されちゃった川は修理しないと元に戻らないし、辺り一体水浸しになるからねぇ〜」
たしかに、"周辺環境が悪化する"という意味ではダメージが残りますもんね。
正直、頭の中が「勝つか負けるか」「生か死か」になっていて、冷静に今後のことを考える余裕がありませんでした。
メグミ先輩が、「後のことは水龍さんに任せておけば、丁度いいタイミングで処理してくれるよ」と言うので……
地上で川を<水城のダンジョン>から遠ざけている、インテリ一派は無視して、ダンジョン内に入りこんだ80期生の相手をする。
彼等は、1階層にある<流れる汚泥プール>でオブジェクト破壊を試みるも、<恵のダンジョン>産の排泄物を含んだ汚泥は色々とヤバくて……
嗅覚の鋭いモンスターと魔王が、その場で吐いてしまい実質リタイア。
ニオイの概念がないゴーレムだけは、流れるプールの壁にツルハシをぶつけて、オブジェクト破壊していたけど……
腰まで汚泥に使った状態かつ流れているため、足をとられて何度も汚泥にダイブし、水飛沫で魔王の髪や顔面を汚泥まみれにした。
「くくくっ。あのマスター、もしかしてモンスターに恨まれているのか? なんか今の巻き込み事故、わざとやったニオイがするんだけど」
メグミ先輩はそう言って笑っているが、半泣きで吐き気と戦っているさなか、自分の部下に汚泥をぶっかけられた魔王の心境を考えると恐ろしい。
しかも地上の沼地同様、いくらツルハシを振るったところで、大してオブジェクトを破壊できずダンジョンポイントも削れない訳で……
もし僕が彼の立場だったら、情けなくて、その場でギャン泣きする自信があるよ。
<−−− ピロリロリーン♪ −−−>
「おっ、アスタリア先輩から"処理報告"が来た。じゃあコチラも、地上の残骸回収に行きますかね〜」
「えっ? あっ、ハイ!!」
ダンジョン内に入った敵を監視していると、魔王<アスタリア様>の眷属様から、メール報告が入ったらしく……
メグミ先輩が、ウチのオートマタとゴーレム達に、「死体の処理と息がある者の回収」を命じた。
息があるモンスターは生かす訳じゃなく、ダンジョンの支配領域内で殺してポイント化するために、持ち帰るため……
これによって、<配下を奪い合おうミッション>が達成できるわけではない。
メグミ先輩いわく、川をいじっていた魔王は上手く配下を統率しており、彼からモンスターを奪っても、そのモンスターに恨まれて後々遺恨を残すので……
現在ダンジョン内部にいるような、「モンスターに嫌われている魔王」に目をつけて、そこ所属の子をターゲットにする方が楽だという。
「うん、ありがとう。スティーブ君! 川のところで悪さをした魔王の"手"が届いたから、君もはやく<直接会って握手を交わそうミッション>を処理しなよ」
「はっ、ハイ! (オエェェェ〜〜〜ッ! ダメだ。手首が乱雑に千切られた"手"を持って、コッチを向き笑っているメグミ先輩のサイコ味がヤバすぎる!)」
アスタリア先輩とメグミ先輩の手柄なのに、僕にもミッション達成の恩恵を与えてくれるのは嬉しいが、指先を摘んでプラプラと"手"を動かすその仕草……
怖すぎて夢に出てきそうなので、お願いですから控えてください!
読んでくださり、ありがとうございます!
この小説を読んで面白いと思ってくれた、そこの貴方(≧∀≦)
モチベーションUPの為の燃料……ブクマ・評価・感想・レビュー、待ってます!!
作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






