384話 誠意には誠意で
スティーブに事態を知らせた後、サーシャの合意を得たうえで、手持ちのお金を<水城のダンジョン>に幾ら振るか、悩んでいたところ……
<水城のダンジョン>改造担当者のティアが、80期襲来報告を終えて帰還した。
「マスター、ただいま戻りました!」
「お疲れさま。ありがとね。スティーブはどんな感じだった?」
「青褪めた顔でしばらく放心なさった後、震えながら"メグミ先輩によろしくお伝えください"と言い、ダンジョンの管理モニターと向き合われました」
「なるほど。恐怖心は表に出ちゃっているけど、他責にしないだけ立派かな。理不尽極まりない状況とはいえ、他者のせいにして動かなきゃ殺されるだけだし」
人間誰しも、追い詰められて視野が狭くなると、他人や環境のせいにして自分の心を守り、これ以上苦しまずに済むよう立ち回ろうとする。
だけど、もしここで彼が「メグミと組んだせいで僕が狙われた云々」言ったところで、僕の機嫌を損ねて「じゃあ、そのまま死ね」となるだけだし……
運に恵まれない自分を憐れんで泣いていても、やってきた80期にバカにされながら殺される、最悪の末路を迎えるだけ。
それゆえ打算的に考えたら、内心どう思っていようと僕とサーシャに気を使い、ムダな努力だろうと足掻くのが最善手と分かる。
だからといって、極限の精神状態で感情より理性を優先するのは難しいので、それができたスティーブは「若手にしてはメチャ優秀」だと思うよ。
「マスター、どうされます? 大まかな方針さえ命じていただければ、私が再び<水城のダンジョン>へ行って……」
「いや、僕が行くよ。危険なのは重々承知しているけど、ティアだけじゃスティーブの精神が保たない」
僕は、「<水城のダンジョン>に自分が閉じ込められて殺される展開」を防ぐために、アチラへ直接出向いたことはないし……
やり取りも全てメールか執事経由でおこなっていたので、スティーブの声も直接聞いたことがない。
だけど足掻いても勝てない戦力差の敵に狙われている状況で、派閥のボスから執事ばかり派遣されたら、どう思うか。
きっと「ボスにとって自分の優先度は低いんだ」と絶望するし、それキッカケで心が折れてしまい、競り負けた訳でもないのに降参してしまう可能性もある。
ぶっちゃけスティーブを失ったところで、僕等が受ける影響なんて軽微なものだけど、追い込まれた状況下でこの対応を見せられちゃあね〜。
僕もサーシャも元は貧乏人で、現在のスティーブの気持ちも痛いほど理解できるからこそ、誠意には誠意で返したくなった。
「でもマスター、<恵のダンジョン>の外へ出るのは危険ですよ?」
「うん。もちろん分かっている。だけど……上の立場になった途端、損得勘定しか考えなくなるのは嫌なんでね。護衛も付けるし大丈夫だよ」
ティアはまだ心配そうだが、ちゃんと説明すればサーシャは僕の気持ちを理解してくれる筈だし、本当に平気だから!
護衛として砂龍を連れて行けば、スティーブの戦力じゃ僕に指一本触れられなくなるし、そもそも彼は"裏切らない"と思う。
良くも悪くもスティーブはユアンより貴族力が弱く、不器用で実直なタイプなんじゃないかな?
まだ100%彼を信用している訳じゃないけど、それでも「本気で守ろう」と思うくらいには、内側に入ってきた。
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〜スティーブside〜
<−−− カタカタカタカタ……カタカタカタカタカタカタ………… −−−>
「ダメだ。生活用品まで削って手持ちの私財をポイント化したけど、それでも全然足りない。このまま80期に囲まれたら、<水城のダンジョン>は終わる」
情けなくも、数分おきに「メグミ先輩達を責める気持ち」が浮かびあがるが、そもそも僕が彼等に何かしてあげたのかって話で……。
自分が"ギブ"した訳でもないのに、浅ましく縋ったり「お前のせいで狙われた」と責めるなんて、論外にも程がある!
だけど僕一人のチカラだと、近いうちに<水城のダンジョン>は滅びて、ウチで働いてくれているモンスター達も、殺されるか酷い待遇で奪われてしまう。
それを防ぐためには、もうメグミ先輩達のチカラを借りるしかないのだが……まだ何一つ貢献していない分際で、うるさく主張すると……
逆に見放されるリスクだってあるから、身動きがとれず、こうやって自分で出来ることばかりやり、「決断をくだす」という肝心な仕事から逃げているのだ。
「ハァ〜。僕はどうすれば、皆と笑って過ごせるのだろう? もうダメなのかな……」
<−−− ヴーーーン −−−>
ん、転移陣が発動した……ティアさんが、サポートに来てくれたのかな?
失礼な振る舞いをして怒らせぬよう、慎重に立ち回らないと……って、あの男の人……………………誰?
まさか…………
「スティーブ君、初めまして。僕はメグミ。よろしくね!」
メグミ先輩!!!?
読んでくださり、ありがとうございます!
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






