373話 紙一重
〜スティーブside〜
もうすぐ80期が合流すると聞いたとき、僕はライバルが増えることに怯えつつも、「これで一番後輩じゃなくなる」と内心喜んでいた。
魔王はそれぞれが"城の主人"みたいなものであり、直接対面することも殆どないため、先輩後輩関係で苦しめられたりはしない。
だがこの前まで学生として集団生活をおくっており、身分や年齢によるヒエラルキーに晒されていた僕にとって、"先輩になる"のは特別な事だったのだ。
「80期の魔王は歳上で、あまり先輩ぶるとロクな事にならないため、穏やかに接した方がいい」とメグミ先輩に忠告されたときは……
先輩風を吹かせて後輩イジメしたい訳じゃないから問題ないと、話半分で聞き流したりもしたが、そもそも80期合流まで生き残れるか怪しくなってきた。
合流の前夜祭と言わんばかりに発令された不定期ミッションは、若手魔王の生存競争を加速させるものであり……
一番後輩でカモりやすい79期は、ここぞとばかりに狩られて、次々と魔王ランキングの最下位に落ちていく。
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〜不定期ミッション〜
【同盟優遇】殺戮ポイントランキングで上位に入れ:上位者にはアイテムプレゼント
【70期〜79期限定】下剋上を目指せ!
【同盟優遇】魔王の手形を集めろ!:成功者にはアイテムプレゼント
〜【70期〜79期限定】下剋上を目指せ!〜
欲しいチカラを持つ魔王と戦い勝利をおさめよ!
ミッション開催中に魔王のダンジョンコアを奪い取れば、自分と相手のダンジョンを取り替えることができる
また、魔王の心臓を奪い取れば、自分と相手のギフトを交換することができる
*チカラを奪われた魔王は例外なく命を落とす
*倒したあと権利を行使しないことも可能
*<ギフト無し>が下剋上を果たした場合は、相手のギフトをタダ取りできる
〜【同盟優遇】魔王の手形を集めろ!〜
配布した装置に、魔王の手形を認証させろ
集めた手形の数に応じて、豪華アイテムをプレゼント
*ミッション開始時に生きている魔王すべてが対象。その後の生死は問わない
*同盟を組む魔王同士の手形交換も可
*死後に認証する場合、一定以上腐敗が進むと装置は作動しない
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幸いな事に、ユアン亡き後79期でトップだった僕のダンジョンは、多少の襲撃を受ける程度で済んでいたが……
近所にあった同期のダンジョンが落とされ、監視班の調査結果で「実は70期台以外の先輩魔王も絡んでいる」と判明して、心底震えあがった。
冷静に考えて……メグミ先輩・サーシャ先輩以外の70期台魔王に、"次々と後輩狩りをおこなう"実力などないため……
御二人がミッション報酬目当てに動いていない限り、「79期が次々と沈む」事態になるのはおかしい。
だが現実問題として、毎日のように生存競争からリタイアして"餌落ち"する79期が出ているのは、力ある先輩方が裏で介入しているからだろう。
「他の79期は、まだこの事実に気付いていないはず。だけど狩られる恐怖で震えあがって、魔王掲示板で先輩魔王のコメントに突撃しウザがられているな」
そりゃあ命がかかった問題だから、必死になる気持ちも理解できるけど……コチラが相応のメリットを提示できない限り、守ってはもらえないって!
というか、無闇に先輩を頼ると騙されて搾取される原因になるから、"数打って解決"的な思考も危険だぞ。
「マスター。同期のゼンザ魔王が治めていた<優等生のダンジョン>は、とっくに最下位落ちしたというのに、まだ"ベテラン魔王の勢力"が近くに……」
「この場所も知られているでしょうし、無事なまま残っている79期も数少ない。おそらく、"次のターゲット"として目をつけられたかと」
チッ、ウチにも来るか!
いくら丁寧に育てたダンジョンといっても、何十年もかけて勢力を伸ばしてきた先輩魔王に、本気で攻められたら一溜まりもない!
だが助けを求めても、他の79期連中と同じ状態になるだけだし……どうしたら、僕と育ててきたモンスター達の命を守れるのだろう?
「魔王のなかで裏切らなさそうなのは、<農民>同盟の方々とメグミ先輩達か? だけど<農民>同盟の方々は、序列が違いすぎて話しかけられない」
メグミ先輩も若手有望株なので、僕みたいな新米魔王が気軽に助けを求めていい相手じゃないけど、まだ話した事があるだけマシだ。
攻め込まれるのが確定して致命的な状況になる前に、なんとかメグミ先輩を味方につけて、存亡の危機を乗り切ろう。
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368 名前:スティーブ(79期)
メグミ先輩、お忙しいところスミマセン。
図々しいお願いなのは僕自身もよく理解しているのですが、しばらく御力をお借りできないでしょうか?
僕はまだ死にたくないし、せっかく創りあげたダンジョンと配下の命も絶やしたくないんです。
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「差し出せる対価なんて無いに等しいけど……誠意を見せるだけでも対応は変わるかもしれないから、"交渉"なんて気持ちは捨ててひたすら下手に出る」
足元を見られてタカられても、命以外なら譲り渡すぞ!
たとえこの危機を乗り越えたところで、先輩にデカすぎる借りを作る以上、ウチのダンジョンに"栄達の芽"はなくなる訳だが……そんな事どうだっていい。
僕はそれより、自分と配下が安心して暮らせる"家"を守り、「これからも笑って生きていける場所」を残したいんだ!
読んでくださり、ありがとうございます!
この小説を読んで面白いと思ってくれた、そこの貴方(≧∀≦)
モチベーションUPの為の燃料……ブクマ・評価・感想・レビュー、待ってます!!
作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






