336話 カルマ
逃げ出した一部の有識者にとっては必然、その他大勢の人々にとっては天災のごとき、元勇者<マサル>の教会本部襲撃。
感知タイプの兵士から彼の襲来報告を受けた現場責任者は、ふりつける豪雨のなか茫然と立ち尽くし「終わった」と呟いた。
マサルが都市<ガロパ>に侵入した原因は明らかであり、「勇者をクビになったとき色々あって、教会勢力を恨んでいるから」に決まっている。
詳しい事情を知らない彼でも、そのくらいは簡単に想像がついたし……だからこそ、一世を風靡した勇者の牙が自分達に向いたと思い、恐怖を感じたのだ。
「いっ、いますぐ上層部へ連絡しろ! それから街門をきつく閉めるんだ! なぜ、こうもアッサリ突破された!? 見張りは何をしている!?」
部下を叱責しながらも、「そりゃあ俺たち凡人が元勇者に抗えるわけねぇもんな。突破されて当然だわ」などと、思ってしまった現場責任者は……
せめてマサルの復讐対象が「教会本部に詰めているスタッフ」だけであり、自分や家族が巻き込まれないことを切に祈った。
他の見張りも、普段は敬虔な使徒だがこの時ばかりは「俺は教会とは無関係なんで。見逃してください!」と願い、その祈りを神に捧げるという……
もし神が見ていたらブチ切れるであろう、カオスな行動をとっている。
仮にマサルがすぐ捕まり、教会本部がダメージを受ける事なく明日を迎えたところで、彼等は「勇者を通した責任」を問われて処罰される運命なので……
我が身が可愛いなら今夜中に逃げるしかなく、それを薄々理解しているからこそ、「潜在的な意識が"教会"を拒絶した」とも言えるだろう。
五体満足なものの社会的には終わりそうな、見張り当番の兵士達も気の毒だが……マサルが見据える先には、更に悲惨な運命を辿りそうな人がいた。
教会幹部と癒着し、賄賂をもらう代わりにプロパガンダに協力していた、清貧新聞の社長兼編集長を務める男である。
「おっ、落ち着くんだ元勇者! いや、マサル様! どうか落ち着いて、はっ話をですねぇ……」
彼はマサルのゴシップ記事原案を作った人物であり、その証拠も既にメグミが掴んでいるため、この襲撃における抹殺対象に入っていた。
「嘘しかつけねぇ口なんて要らんよな? 諸悪の根源である、その"嘘記事しか書けないペンを握る手"も、来世では悪さをしないように封じておかねぇと」
普段の優しい表情とは全く違う、マサルの氷のように冷たい眼差しが編集長を射抜き、彼は腰を抜かして崩れ落ち命乞いを始めた。
「お願いです! どうか命だけは……!!」
実際のところマサルは彼を恨んでおらず、むしろ「虚しい人間」と哀れんでいるだけなのだが、修羅場を潜ってきた勇者の殺気を素人が受けたらこうなる。
「<業>によって、お前は来世"口下手かつ不器用なゴブリン"に転生することが決まった。積み重ねた悪行が大きすぎたな」
「ヒイィィィィィッッ!!!?」
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〜業〜
ターゲットが自分より悪人であり、自分がその人から理不尽かつ甚大な被害を受けた場合、ターゲットを<業>で縛り、来世での序列を下げることができる。
ただしターゲットが自分より善い人だったり、第三者視点で見た被害度が足りないと、術者自身に<業>が降り注ぎ魂を焼かれる。
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報復のためにマサルが能力玉を食べて準備していた、<業>ギフトの縛りによって、来世の運命が決定付けられた編集長は……
まさか自分がこんな目に遭うなんて思ってもみなかったため、見苦しく泣き喚き現実逃避し始める。
しかしマサルがその程度で矛を収めるはずもなく、彼はアッサリと両手両足を切られ、ダルマ状態になったところで……
最後に残った突起物の"首"もスパンとはねられて、五体泣き別れの最期を迎えた。
群れの役に立てるか・群れに馴染めるかで序列が決まる、ゴブリンの世界において、"口下手&不器用"というハンデは致命的なものであり……
彼は下等モンスター<ゴブリン>の中でも、ヒエラルキー最底辺のサンドバッグとして、来世を歩むことだろう。
だがそれも、彼自身の<業>がまねいた結果であり……普段から善良な行いをしていれば情けをかけてもらえたのだから、自業自得と諦めるしかない。
嘘をついて他者を貶めてもいいのは、自分が理不尽に貶められ全てを奪われても納得する、覚悟のある者だけである。
「さて、前菜はコレで終わりにして次へ行こう。この類の新聞社は、印刷機と版画板を破壊すれば活動休止に追い込まれるから、それでいいよな」
そして……冷めた表情で、ゴシップばら撒きの主犯格を誅殺したマサルは、次なる報復対象の元へ向かうのだった。
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






