332話 気付いた者はいた
清々しい朝の空気を台無しにするかのように、教会本部へ押しかけて部下を威圧し、汚職の証拠隠滅を図ろうとする幹部一同。
前回は、ミョルリアン元聖者長一人だけがスキャンダルで炎上したため、彼等はライバルを蹴落とそうと、ここぞとばかりに棒で叩いたが……
今回は全員が泥舟状態で、このままだとライバルと共に自分まで沈んでしまうので、ソレに気付いた彼等が結託するまでに時間はかからなかった。
「ラッター大司教もそう思われますよね?」
「うむ。このように卑怯な手段で、我等を貶めようとする輩……。其奴の素性を洗い出し、動機を白状させて不敬罪で見せしめ処刑する方が先だろう!」
「ごもっともです。不正の証拠が偽造された可能性もあるし、"疑わしきは罰せず"が原則。なのに我等が時間をとられ、不敬罪を犯した輩が野放しなのは……」
もしマサルが聞いていたら、「ブーメランにも程があるだろ! ふざけんな!」と激昂しそうな言い草だが、彼等は本心から「そうするべき」と思っている。
エリートコースを歩んできた教会幹部にとって、「不敬罪を犯した者のせいで自分の立場が危うくなり、其奴は野放しのまま」という状況は、あり得ないのだ。
「そう仰られましても……。騒ぎが大きくなる前でしたら、内々で処理できたかもしれませんが、外部の大物から次々とクレームが寄せられていますので……」
彼等の相手をするスタッフは、巻き込まれ不敬罪で処刑されたら堪らないので、「心情的には理解できます」という立場をとっているが……
内心では「幹部のポストが幾つも空くチャンス! 連座で"派閥の奴等"も消えるから、俺が昇格する確率高いよね」と、ウッキウキ状態。
八つ当たり相手を探していた幹部に杖で殴られてもなお、「厳正な調査をおこなう」という姿勢は崩さず、不正の証拠となる書類の原本を守った。
教会本部は大炎上しており、平民・貧民区画も噂話で騒がしいとはいえ……街の全員が、「ゴシップ好きなオバチャン」ムーブをかましている訳ではなく……
中には、周りに流されず冷静に状況を把握して、「なぜこのタイミングで盛大な炎上劇が起こったのか」分析する知識人もいた。
「この前起こった、魔王<サーシャ>の報復事件とパターンが同じ。つまりスキャンダルだけでなく、"実害をともなう何か"も併せて起こる可能性が高い」
「そうだな。もし仕掛けた輩が小物なら、"噂を振り撒くだけで精一杯だった"と捉えることもできるが、魔王<メグミ>はそんな輩とは格が違う!」
「あぁ。勇者<マサル>との戦いで消耗したと言われているが、ペアを組む魔王<サーシャ>がこれだけ動ける以上、メグミの方も回復済みと考えるべきだ」
「魔王<メグミ>は魔王<サーシャ>より、格2つ分高い……と資料に載っていたぞ。其奴がこの街に、実害のある報復を仕掛けてくる可能性を考えると……」
「逃げた方がいいかもな」
「うむ。関係各所には一応報告するが、これだけ取り乱している状況だ。我等の言葉に耳を貸す者は、誰一人おるまい。諦めて、自分達の身だけ守ろう」
しかし彼等は冷静ゆえに、自分達の考えが「異端」である事を理解しており……
上に報告しても取り合ってもらえないどころか、下手すると自分達まで何らかの冤罪を着せられて「巻き込み処刑」されてしまう、と判断した。
「隣町まで逃げればいいかな?」
「あぁ。幸か不幸か、魔王<メグミ>はケンカを売った相手に対しては熾烈だが、そうじゃない一般人を襲うタイプではない。軽く避難するだけで大丈夫だ」
「我等の話に耳を傾けてくれる家族と親戚だけを連れて、早いうちに避難しよう。予想が正しければ、"今夜"襲ってくるぞ」
「「「「そうだな」」」」
そうして彼等は最低限の報告だけ済ませて、盗られたり壊されると困る貴重品をマジックバッグに詰めこみ、昼前には都市<ガロパ>を抜け出した。
話を聞いた者の中には、彼等を「臆病者」と嘲笑う者もいたが……彼等の言うとおり、"本番"は今夜やってくるのである。
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〜メグミside〜
「マスター。一部の富裕層が、家財を持って都市<ガロパ>から逃げ出しております。どうなさいますか?」
「う〜ん。其奴等は、教会幹部の関係者?」
「婚姻の幅がせまい貴族ゆえ、"薄い血縁関係"はあるようですが、ガッツリ癒着している間柄ではないかと。"一般的なお付き合い"といったレベルです」
「なら放っておいて。教会幹部が、彼等の動きを見て何か気づくと厄介だけど……今手を出したら、余計に"怪しんでください"と言っているようなものだ」
「かしこまりました。現場班にはそう伝えます」
「うん。共存関係にある奴以外は、逃げ出そうが火事場泥棒しようが捨ておけ! ターゲットに怪しまれなければ、他のことはどうでもいい」
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






