319話 一人目の脱落者
激動の日々に疲れこそ感じながらも、着実に成果を出して勢力を伸ばし、自分達の立場を固めていくメグミとサーシャ。
反対に、弱者の気持ちを汲みとれず"机上の空論"しか生み出せないため、予算を使ってもロクな結果を残せず……
ストレスで部下に当たり散らし、部下からの評判まで下がる"負のスパイラル"に入った教会幹部達は、何とかこの状況を打開しようと足掻いていた。
「其方が、二級品の女でハニートラップなど仕掛けるから、娼婦共が教会所属の医師を嫌うようになったんだぞ! 責任をとれ!!」
「ふんっ! それを言うなら貴様こそ、疫病患者を露骨にポイ捨てしたせいで、信者からの評判がガタ落ちじゃないか。まぁ、それで困るのは貴様だし構わぬが」
「なにおぉ〜!」
「文句があるなら、感情的にならず端的にまとめて述べよ。そんなにキーキー喚いていると、来世はサルに生まれ変わるぞ」
「ウギィィィ〜〜〜〜ッ!!!!」
もっとも……彼等の優先順位は、「保身>出世>ライバルの蹴落とし>問題対処」なので、顔を合わせればライバルの失態を咎めようとケンカを始める。
そして建設的な議論に入れるのは、出世争いが激しいポジションにいる若手幹部が、喉を枯らすまでライバルを罵り静かになった後だ。
なお……本日は、日常となった"緊急会議"より(彼等にとっての)影響度が大きい議題が他にあるため、罵り合いが終わってもその話が優先される。
「しかし、まぁ何というか……ミョルリアン元聖者長のスキャンダルは、衝撃的だったな。まさか、空からゴシップ誌が降ってくるとは」
「<未設定のダンジョン>……あぁいや、今は<集金箱のダンジョン>になったのか。そこの女魔王を怒らせて、関係者一同地獄へ叩き落されたらしいぞ」
「親戚筋の屋敷まで泥棒に入られ、土地以外の資産を全て失ったからな。土地は売却するのに時間がかかるし、屋敷の維持費も賄えぬから破産一直線だ」
「笑い事ではないぞ! ミョルリアンの赤子ポイ捨ては、確かにやり過ぎだし、神の教えに背く行為だった。ゆえに天罰が下るのも致し方ないが……」
「うむ。我等の近所にある同レベルの邸宅が、こうもあっさり敵勢力の手に落ちるとは。セキュリティーはどうなっておるのだ!! 門番は寝ていたのか!?」
「ギフト持ちに記憶を読ませた限り、門番は事件当日"普通に"仕事をこなしていた。ただ単に、敵のコソ泥技術が高すぎたのだ」
「「「「「「「「「「…………。(やはり悪の化身だけある。狙われたのが私じゃなくて、本当に良かった)」」」」」」」」」」
自分たちは生涯傅かれて安全に暮らしていける、と根拠もなく信じていた教会幹部は、ご近所さんが泥棒に入られ人生終了させられたことに動揺。
事件当日から、上流階級の屋敷がある区画に割く警備員を倍増させ……泥棒がどこから忍び込んだのか、徹底的に調査し始めた。
だがメグミやサーシャは、エリート階級御用達のラヴィレンス高等学園に在籍していた過去があるため、権力者の保身力について熟知している。
それゆえ調査が始まる前に、<鑑定>で即バレするモンスター達は退避させており……教会本部周辺と調査区域には、監視カメラ以外何も残していない。
「ハァ〜。コソ泥魔王のせいで、"資産を安全に預かる"と提案してくる商人が増えた。どうせ詐欺師ばかりゆえ、被害者が出ぬよう規制を強めるべきだろう」
「ですね。そのような輩は一律"火炙り"にして、我等の威厳を示せば大人しくなるかと。後で適当な条文を作っておきます」
結局……人員を投下して実行犯を探っても、「逮捕→見せしめ処刑」という、彼等が望んだ展開には繋げられず……
思い当たる節ばかりの幹部は、「次は自分がターゲットになるのでは?」と内心怯えている。
だがソレを表に出すと、ライバルに足を引っ張られる格好のネタになるため、黙って一人でストレスを抱え、胃腸と毛根にダメージを蓄積するしかないのだ。
「ちなみに……神に仕える者として許さざれる愚行をはたらき、因果応報で地獄に落ちた、ミョルリアン元聖者長はどうしている?」
「あれだけ民に嫌われては、到底<聖者長>など務められぬため、"本人の希望で"一から出直してもらいました。来月には、職場の葬儀場へ旅立つ予定です」
「そうか。コソ泥などという卑怯な手段で報復をしてきた、女魔王<サーシャ>を許すことはできんが……ミョルリアン元聖者長にはいい薬になったな」
「まことに」
もちろんミョルリアン元聖者長は、ポジション続投を希望しており、断じて"本人の希望で"左遷された訳ではないのだが……
一度「片田舎の葬儀場で働く老司祭」になってしまえば、エリート界隈ではほぼ死人と同じなので、発言権などなく、本人が情報の誤りを訂正する機会もない。
メグミ&サーシャの報復に怯える彼等だったが、「ミョルリアン元聖者長が失脚した件」に関してだけは、(ポジションが一つ空くため)嬉しく……
己の不安な気持ちを慰めるように、「失脚した彼の末路」を思い浮かべて、薬の代わりとして心の傷口へすり込むのだった。
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






