307話 初めて人間扱いされた
〜とある患者side〜
俺の名前はリューイッド……この前まで、平凡だが幸せな5人家族の父親だった男だ。
懸命に働けば家族全員が腹いっぱい飯を食え、最低限とはいえ子供達に教育も受けさせてやれる、充実感のある毎日。
そんな日々がずっと続くと思っていたのに……このクソッタレな病が、俺から全てを奪いやがった!
最初に感染したのは、まだ8歳だった娘。
そこから兄2人にも移り、そして妻……俺と、一家全員が「致死率の高い病」にかかってしまったのだ。
それでも家財を売れば、子供達の薬くらいなら買えると思い、平民用の病院へ駆け込んだのだが、それが運の尽き。
ダンジョンを滅ぼすのに疫病患者が必要とかで、貴族共が生贄を探しており、目をつけられた俺たち家族は、5人まとめて捕えられ現在にいたる。
「ハァ……ハァ……。パパ、苦しいよぉ……」
「大丈夫だ! きっとすぐ治してもらえるから! (クソッ! 一体どうすれば……)」
不衛生な環境で、他の"病気持ち"と一緒くたにされて輸送され、灼熱の砂漠に放置されたせいで、一番体力のない娘は複数の病にかかっちまった。
今朝までは、最初に患った「皮膚が腐る病気」だけだったのに、昼前から高熱が出て苦しそうに呻いている。
<−−− ウィーーン −−−>
「どうぞ。貴方達の病室はコチラになります。ご家族まとめて……との希望でしたので、感染リスクは上がりますが5人部屋となります」
「あっ、ありがとうございます! えっ? マジで、こんなキレイな部屋を使わせてもらえるんですか!?」
「はい」
近所の住民にバイ菌扱いされ、祖国に見捨てられ……ドン底状態で<恵のダンジョン>に連れて来られた俺達は、ココで初めて"人間らしい扱い"を受けた。
「完治後<恵のダンジョン>に永住し、運命を共にする」と誓っただけで、貴族が入るような清潔な病室を与えられ、無料で治療してもらえたのだ。
「まず症状から。貴方達5人は、ルール壊皮病という疫病を患っています。この病自体は、高級ポーションを飲めば一撃で治りますから、それでいきましょう」
「はい。よろしくお願いいたします。(ありがたい! だが、治療が終わった瞬間食われたりしないよな? 脅されて子供達まで労働させられるんじゃ……)」
抑揚のない声で喋るオートマタが医師……助手の看護師もゴーレムという事を除けば、天国と間違えるほど恵まれた環境である。
俺たち人間にとって「ダンジョン=悪・魔王=天敵」だし……ガタイの良いゴーレムが怖すぎて、「何か裏があるんじゃ?」という思いが抜けないが。
「以上でルール壊皮病の治療は終わりです。罹患中に膿が付着した衣類をまた着ると、再感染のリスクがあるので、服はコチラで取り替えさせてもらいますね」
「ありがとうございます! ダッグ、シュート、リミミ……良かったなぁ、俺たち……治ったんだぞ!」
「えぇ、そうですね。貴方……よかった!」
医師として俺たちを診てくれたオートマタは、コチラの怯えなど意に介さず、パパッとポーションを飲ませて娘以外の4人を完治させた。
ルール壊皮病は、庶民が手に入れられる薬でも半分くらいの確率で治るが……もし治った場合でも、高確率で失明や瘢痕等の"後遺症"が残るので……
今まで見たこともないような高級ポーションで、傷一つ残さず治してもらえて、夢を見ているような気分だ。
「(これだけしてもらった以上、俺だけなら一生奴隷としてコキ使われても構わねぇ! だが、娘は……)」
ルール壊皮病は全員治してもらえたが、過酷な道中に別の病まで患ってしまった娘は、まだ高熱にうなされてハァハァと息を荒げている。
「この子の病気はウイルス性で、ポーションより薬で時間をかけて治す方が合っているので、今から治療を行います」
「そうなのですね。是非お願いいたします! どうか娘を救ってください!!」
「確約はできませんが善処いたします。それに関連してなのですが……ご家族に移されると、治療が二度手間になってしまうので、感染対策を徹底するように」
オートマタ先生に説明された病気のメカニズム云々は、読み書きと簡単な計算しか習ってこなかった俺には難しく、知恵熱が出かけたが……
要するに、「治療中も娘と過ごしたいなら、手洗い・うがい・マスクを徹底しろ」という事だったので、家族全員その要求を受け入れた。
本当は娘だけを別の病室に隔離して、他者への感染リスクを下げた状態で治療するべきらしいが、俺はもう「家族を失う恐怖」に怯えたくないんだ!
それでも大恩あるオートマタ先生に「離れろ」と命じられれば、なくなく従っただろうが、モンスターなのにコチラの気持ちも汲んでくれて……
マジで、天使みたいな先生達だぜ!
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「マスター。E棟85号室の患者さん、改善へ向かい始めました。あとは経口補水液をたっぷり飲ませて、ウイルスを流せばOKです!」
「そうか。現場班に、"お疲れさま"って伝えておいて。一番体力がなさそうな少女が死なないで良かったよ。子を失った親の恨みは怖いからさぁ〜」
「大丈夫だと思いますよ。コチラが適切な治療をおこない患者を慈しんだのは、彼等にも伝わっているでしょうから。とはいえ……結果論ですが、良かったです」
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






