306話 職務怠慢上司×職務怠慢部下
住民達の希望通り<オアシスフロア>を32階層へ降ろし、もし<恵のダンジョン>に捨て置かれた疫病患者が、ココへの移住を希望した場合に備えて……
どんな治療プランを組めるかの確認と、各プランの比較検討をしつつ、敵の襲来を待つこと5日。
数珠繋ぎに縛られた疫病患者が、練度の低い兵士達に連れられて、600名ほどダンジョンへ入り……
なりふり構わず「帰りたい!」「捨てないでくれ!」という、悲痛な叫び声が0階層に響きわたった。
『なぁ、本当にココが<オアシスフロア>で合っているのか? 住居も自販機もないし、聞いていた"砂漠が広がる空間"と違って通路もあるぞ?』
『う〜ん。滅ぼせず手をこまねいている間に、ダンジョンが成長しちまったんだろ。それに、ほら……オアシスフロアへ行くフロアマップが載っているぞ!』
『うわっ、本当だ!』
あぁ、そのフロアマップに載っている"砂漠フロア"は、<オアシスフロア>と入れ替えた"本物の砂漠"だから、アパートも自販機もないよ?
だけど嘘は書いてないし、条件を満たせば誰でも入れるっちゃ入れるんで、「砂漠での滞在」を希望ならチャレンジしてくれ。
『仕方ねぇな。疫病患者だけ<オアシスフロア>へ押し込んで、俺等は帰るぞ! 攻略班でもねぇのに、こんな危ないダンジョンの探索なんてできるかよ!』
『たしかに。でも良いのか? ちゃんと"疫病がココの住民に感染する"まで見張らねぇと、上役連中が騒ぐぞ』
『そんなもん、虚偽報告で片付けるに決まっているだろ! こんな病原体共と長期間一緒にいたら、住民の前に俺等が罹患しちまうよ!』
『あ〜、そうだな。幸いな事に、小うるさい上の連中は"コイツ等の運搬"を嫌がって、全部下っ端の俺等に押し付けてきたし……誤魔化すか』
『おぅ。アイツ等が先に職務放棄したんだし、俺たちにだって"サボる権利"はあるだろう』
『くくくっ、たしかに……。目撃者も"ココでくたばる連中ばかり"だから、俺等で口裏を合わせればバレねぇしな』
泣き叫んで助けを乞う疫病患者を、槍で突いて押し戻した兵士達は、職務怠慢はなはだしいセリフを並べた後……
槍で威嚇するカタチで、疫病患者を<オアシスフロア>への入場ゲートへ突っ込み、そのまま引き上げていった。
「たしかに彼処から出るのには金と時間がかかるし、むやみにドアを潜らないって判断も合理的だけど……なんかムカつくな。執事君。奴等を始末してくれ」
「かしこまりました。<恵のダンジョン>から少し離れたところで、野生モンスターの仕業に見せかけて殺します」
「うん。それで頼む」
さてと……疫病患者より早く死ぬことが決まった、職務怠慢兵士のことは忘れるとして……
入場ゲートの途中で大泣きしている、約600人の患者たちはどうしよう?
「砂漠の真ん中にある<恵のダンジョン>まで、引っ張ってくる必要があったからか、予想よりは"元気な状態"で来たな」
ステータスを覗いた感じ、疫病の種類もメジャーで"コチラで対処できそうなやつ"ばかりだし、彼等の希望次第では治療するのもアリだと思う。
「執事君。オートマタと護衛のゴーレム達を、彼等が座り込んで泣いている場所へ向かわせてくれ。今後について、彼等の口から希望を聞きたい」
「かしこまりました。万が一、マスターやサーシャ様に感染ると大変ですので、担当チームはしばらくの間、お二人と接触しないよう配置いたします」
「う〜ん。こればかりは仕方ないね。僕等だけじゃなく<オアシスフロア>の住民達とも、接触は避けるよう取り計らってくれ」
「承知いたしました」
その後、担当者のオートマタが説明へ向かって15分で、置き去りにされた疫病患者たちは全面降伏した。
彼等だって「自分が捨てられたこと」はよく理解しており、もう何処にも帰る場所がなく、生き残れる可能性もコチラに縋らなきゃゼロなわけで……
藁にもすがる思いで降伏を申し出たのも、自然と言える。
「執事君。彼等を"罹っている病気"の種類別に隔離して、治療を始めてくれ。ウチの住人になるのだから、治療費はケチらなくていい」
「かしこまりました」
完治には高級ポーションを要する患者ばかりだが、まだそれほど重症化していないので、万能薬みたいな「値段ぶっ飛びアイテム」は無くても治る。
それに……治療を補助する解熱剤や経口補水液は、ドラッグストアの商品を選べば激安で揃えられるから、好きなだけ使っても大丈夫だ。
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〜セレクト自販機(Sランク)〜
以下の店で扱っている物の中から好きな商品を100点選び、ソレ等をいつでも自販機のメニューに並べることができる。
データの書き換えやリセットは、前の商品選択から1日以上経っていないと行えない。
・雑貨屋
・ドラッグストア
・工務店
・スーパー
・武器屋
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「問題は、彼等が元気になった後だよなぁ〜。祖国に見捨てられた事実と向き合えず暴れたり、八つ当たりで<恵のダンジョン>に歯向かわないか心配だよ」
読んでくださり、ありがとうございます!
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






