表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
302/945

302話 とある住民の復活劇


〜とある住民side〜




 俺の名前はボリス。


 仕事中のケガで冒険者を廃業してスラム落ちし、日々の食事にも事欠く懐事情で<恵のダンジョン>の<オアシスフロア>に流れ着いた、しがない中年男だ。


 最初<オアシスフロア>へやってきたとき、俺は「魔王の腹の中で暮らす惨めな己」に絶望していたが、いざ住んでみるとココは天国だった。



 まず衣・食・住をまかなう費用が、街で暮らす1/10もかからない。


 たとえ破れかけの中古品でも、俺にとっては「何日も絶食して辛うじて買える高級品」だった衣服が、銅貨をチャリンチャリンと放り込むだけで手に入る。



 そして飯代も、日々の労働で十分賄える金額だし……砂漠で最も貴重な水も、格安で買える便利さだ。


 購入できる飯が出来合いの惣菜ばかりゆえ、自炊の腕が落ちちまったのが唯一の不満だが、そんなモン忘れられるほど美味い飯ばかりだから気にしない。



 また住処だが……街にいた頃は、吹けば飛ぶようなスラム街のボロ小屋ですら、建てたら裏社会の顔役に、毎月幾ばくかの上納金を払わざるをえなかった。


 別に払わなくても刑事罰はないのだが、支払いを拒否した連中は数日以内に行方不明になるので、(事実上)払うという選択肢以外なかったのだ。



 でも<オアシスフロア>では、無料で雨風しのげる一人部屋を借りられるうえ、手形認証式の鍵までかけられる大盤振る舞い。


 もし家の中に現金を置いて出かけても、誰にも盗まれない安全仕様である。



 厳密には"エネルギーポイント払い"という方式で、魔王の元には「漏れ出た俺の生命エネルギー」が、金みたいな形で振り込まれているらしいが……


 バカな俺には、説明されても詳しい仕組みなど理解できなかったし、脅されて金を取られたり臓器を抜かれる訳じゃねぇなら、タダと同じだ。






 そして<恵のダンジョン>を治める魔王<メグミ>の、懐の深さと言ったら……マジで感激したぜ。


 ある日、良くしてもらっている感謝の気持ちを伝えに神殿へ出向いたら、祈っている最中に「超レアなポーション」がドロップしたんだ。



 俺もケガをするまでは冒険者家業をやっていたし、そこら辺の奴より腕も良かったのだが、それでも数回しか見たことないレベルの逸品。


 考えなしで、宵越しの銭は持たぬ主義だった昔の俺が、ケガをしたときもしそのポーションを持っていたら、冒険者家業を続けられた程の治癒力を持つ……


 超高級品だったので、最初は何の冗談かと思ったが、同封されていた手紙に「ケガを治して」と記されており……あの時は、男泣きでグチャグチャに泣いた。



 今さら治療をしたところで冒険者としての盛りは過ぎているし、鍛えても全盛期ほどの力は出せないが、俺は魔王<メグミ>の温情で復活。


 昔は自分の為だけにふるっていた武力を、<オアシスフロア>に住む仲間のために使い、日々の生活を楽しんでいる。



 <恵のダンジョン>は特性柄しょっちゅう襲撃を受けており、行動制限がかかる事も多いが、今の俺は内職仕事でも食っていけるから問題ナシだ!


 とはいえ……ずっと地下にこもっていると気が滅入ることもあるから、同じ砂漠とはいえダンジョンの外へ出て、気分転換できる方が嬉しいけどな。



『おぃ聞いたか? 塩・コショウ・スパイスの販売が、再開されたらしいぞ!』


『聞いた聞いた。以前あった自販機での販売から、宝箱経由の販売に変わったから、利便性はちょい落ちたけど、一番重要な"価格"は据え置きだってさ!』



 マジかよ。


 あの価格破壊の塩販売が、再開されるなんて……。






 公共施設の図書館で、今さらながらに文字の読み書きを勉強していたら、住民仲間がヤバイ噂話をしていたので……


 慌てて勉強を中断して現場へ向かうと、本当に調味料の格安販売が再開されていた。



 宝箱経由の受注販売方式だし、今は教会の連中が俺等を目の敵にしているから、外へ売りに行って利鞘を稼ぐこともできないが……


 それでも値段を気にせずスパイスを使い、自炊できるような価格帯で、30種類以上のスパイスが売られている。



「また自炊やってみようかな。自販機の惣菜も抜群に美味いけど、狩ったばかりの獲物に塩をふって焼くと、実際の味以上に美味く感じるし」


 もちろん、世話になっている<恵のダンジョン>所属のモンスターを狩るなんて、不義理な真似はしないが……


 <オアシスフロア>を一歩出たら、そこには広大な外界の砂漠が広がっており、俺でも狩れるレベルのモンスターだって生息している。



 コスパを考えると、フロア内で大人しく内職したり若者に剣術を教える方が、金も体力も得なんだけど……


 せっかく自由に動く肉体が戻ってきて、その上こんな格安スパイスを見せられちゃ、ひと暴れしたくもなるってもんよ!



「あれ? ボリス、どうした? なんか狩人みたいな目をしているぞ」


「くくくっ。いや、何でもない……。ちょっと昔を思い出してな」

読んでくださり、ありがとうございます!


この小説を読んで面白いと思ってくれた、そこの貴方(≧∀≦)

モチベーションUPの為の燃料……ブクマ・評価・感想・レビュー、待ってます!!

作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 図書館の職員は?モンスター? 図書館の本は、どこから取り寄せた? それとも、自販機図書館? 悪意、害意に反応する検問とかあるのかな?
[一言] 隊組んでる人達って、どうやって荷物運んでるんだろ? 荷車?ラクダとか、飼ってなさそうに思うけど、いないの? メスは、搾乳用(工場で加工、住民、商隊への販売もあり)にして、雄のラクダは、食べる…
[気になる点] 宝箱販売の価格は、メグミにも利があるように、+アルファか、手数料くらい、とればどうだろ?
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ