302話 とある住民の復活劇
〜とある住民side〜
俺の名前はボリス。
仕事中のケガで冒険者を廃業してスラム落ちし、日々の食事にも事欠く懐事情で<恵のダンジョン>の<オアシスフロア>に流れ着いた、しがない中年男だ。
最初<オアシスフロア>へやってきたとき、俺は「魔王の腹の中で暮らす惨めな己」に絶望していたが、いざ住んでみるとココは天国だった。
まず衣・食・住をまかなう費用が、街で暮らす1/10もかからない。
たとえ破れかけの中古品でも、俺にとっては「何日も絶食して辛うじて買える高級品」だった衣服が、銅貨をチャリンチャリンと放り込むだけで手に入る。
そして飯代も、日々の労働で十分賄える金額だし……砂漠で最も貴重な水も、格安で買える便利さだ。
購入できる飯が出来合いの惣菜ばかりゆえ、自炊の腕が落ちちまったのが唯一の不満だが、そんなモン忘れられるほど美味い飯ばかりだから気にしない。
また住処だが……街にいた頃は、吹けば飛ぶようなスラム街のボロ小屋ですら、建てたら裏社会の顔役に、毎月幾ばくかの上納金を払わざるをえなかった。
別に払わなくても刑事罰はないのだが、支払いを拒否した連中は数日以内に行方不明になるので、(事実上)払うという選択肢以外なかったのだ。
でも<オアシスフロア>では、無料で雨風しのげる一人部屋を借りられるうえ、手形認証式の鍵までかけられる大盤振る舞い。
もし家の中に現金を置いて出かけても、誰にも盗まれない安全仕様である。
厳密には"エネルギーポイント払い"という方式で、魔王の元には「漏れ出た俺の生命エネルギー」が、金みたいな形で振り込まれているらしいが……
バカな俺には、説明されても詳しい仕組みなど理解できなかったし、脅されて金を取られたり臓器を抜かれる訳じゃねぇなら、タダと同じだ。
そして<恵のダンジョン>を治める魔王<メグミ>の、懐の深さと言ったら……マジで感激したぜ。
ある日、良くしてもらっている感謝の気持ちを伝えに神殿へ出向いたら、祈っている最中に「超レアなポーション」がドロップしたんだ。
俺もケガをするまでは冒険者家業をやっていたし、そこら辺の奴より腕も良かったのだが、それでも数回しか見たことないレベルの逸品。
考えなしで、宵越しの銭は持たぬ主義だった昔の俺が、ケガをしたときもしそのポーションを持っていたら、冒険者家業を続けられた程の治癒力を持つ……
超高級品だったので、最初は何の冗談かと思ったが、同封されていた手紙に「ケガを治して」と記されており……あの時は、男泣きでグチャグチャに泣いた。
今さら治療をしたところで冒険者としての盛りは過ぎているし、鍛えても全盛期ほどの力は出せないが、俺は魔王<メグミ>の温情で復活。
昔は自分の為だけにふるっていた武力を、<オアシスフロア>に住む仲間のために使い、日々の生活を楽しんでいる。
<恵のダンジョン>は特性柄しょっちゅう襲撃を受けており、行動制限がかかる事も多いが、今の俺は内職仕事でも食っていけるから問題ナシだ!
とはいえ……ずっと地下にこもっていると気が滅入ることもあるから、同じ砂漠とはいえダンジョンの外へ出て、気分転換できる方が嬉しいけどな。
『おぃ聞いたか? 塩・コショウ・スパイスの販売が、再開されたらしいぞ!』
『聞いた聞いた。以前あった自販機での販売から、宝箱経由の販売に変わったから、利便性はちょい落ちたけど、一番重要な"価格"は据え置きだってさ!』
マジかよ。
あの価格破壊の塩販売が、再開されるなんて……。
公共施設の図書館で、今さらながらに文字の読み書きを勉強していたら、住民仲間がヤバイ噂話をしていたので……
慌てて勉強を中断して現場へ向かうと、本当に調味料の格安販売が再開されていた。
宝箱経由の受注販売方式だし、今は教会の連中が俺等を目の敵にしているから、外へ売りに行って利鞘を稼ぐこともできないが……
それでも値段を気にせずスパイスを使い、自炊できるような価格帯で、30種類以上のスパイスが売られている。
「また自炊やってみようかな。自販機の惣菜も抜群に美味いけど、狩ったばかりの獲物に塩をふって焼くと、実際の味以上に美味く感じるし」
もちろん、世話になっている<恵のダンジョン>所属のモンスターを狩るなんて、不義理な真似はしないが……
<オアシスフロア>を一歩出たら、そこには広大な外界の砂漠が広がっており、俺でも狩れるレベルのモンスターだって生息している。
コスパを考えると、フロア内で大人しく内職したり若者に剣術を教える方が、金も体力も得なんだけど……
せっかく自由に動く肉体が戻ってきて、その上こんな格安スパイスを見せられちゃ、ひと暴れしたくもなるってもんよ!
「あれ? ボリス、どうした? なんか狩人みたいな目をしているぞ」
「くくくっ。いや、何でもない……。ちょっと昔を思い出してな」
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






