３００話 映像証拠の破壊力
当事者への情報伝達は最優先に行うべきなので、僕は＜オアシスフロア＞の住民達とマサルを公民館へ呼びだし……
住民の命が教会に狙われていることを伝えると同時に、証拠となる件のヤバイ映像を見せた。
もし住民の中に、裏切り者や金で寝返るような連中が混ざっていたら、教会側に「何等かの手段で監視されている」と知られ、対策を取られてしまうので……
公民館へ招いた住民は、＜オアシスフロア＞の中でも力を持つ幹部連中と、長くココに住み着いている古参だけだが、それでも1000人は超えている。
これだけの人数に機密情報を共有するのはリスクになる反面、明日には噂が広まって、＜オアシスフロア＞全ての民がこの事実を知ることになるし……
情報源の信憑性も担保されるので、僕が考えた中では最善の判断だと思う。
『うわっ、マジかよ……。俺、冒険者時代……善行とか思って、大きく稼いだとき教会にお布施していたんだけど、あの金……全額返してほしいわ』
『末端の信者にはいい奴も多いが、こういう組織って大抵"上が"腐っているんだよなぁ〜。マサルさんも、食い物にされて大変だっただろう。お疲れさん！』
映像を見終えた住民たちは、怒りを露わにする者や泣きだす者など様々だったが、リーダー格の連中は元冒険者だけあって冷静そのもの。
さり気なく言葉で、住民達の思考を「教会上層部が諸悪の根源」と誘導してくれ、ショックを受けて膝をついたマサルにも慰めの言葉をかけていた。
『あのぉ、教会のクソ爺ィ共がマジですみません。というか、俺が＜恵のダンジョン＞に意識を向けたからこんな事態に……本当に申し訳ない！』
自分の行動が、権力者の魔の手を＜オアシスフロア＞で暮らすか弱い民に及ばせたと、理解しているマサルは終始平謝りだったが……
こればかりは自業自得なので、今後も教会が何かしでかす度に、ため息をつき頭を下げて凹むハメになるだろう。
ただマサルには、これ以外にも見せなきゃいけない映像があって……
「抜け目のない連中が、お前の女好きを利用したハニトラの準備をしているから、何処ぞから"お姉様"を呼ぶときは注意しろよ〜」
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『＜堕ちた勇者＞についてですが……パーティーメンバーだった3人にも振られて、さぞ欲求不満なことでしょう。そろそろアレを仕掛けてみては？』
『なるほどのぉ。＜オアシスフロア＞の貧民女など、色気のカケラもない汚物ばかりだろうし、＜恵のダンジョン＞攻略中に＜ピー＞もできぬよなぁ』
『えぇ。砂漠の真ん中に娼館などあるはずもなく、＜堕ちた勇者＞は欲求を持て余していると思いますよ。ゆえに、微妙な娼婦でも数を送れば……』
『ふむ。うまく巡り会えて＜ピー＞できれば、賢者タイム中に彼奴を殺せるし、それが無理でも失うのはアバズレ共の命だけ。悪くない賭けだ』
『娼婦など掃いて捨てるほどいますから、第一弾が無理でも第二弾、第三弾と送って、＜堕ちた勇者＞に情けない最期をくれてやりましょう！』
『くくくっ。首と共に＜ピー＞もチョン切られて、無様に散った奴の骸を持ち帰った娼婦には、それなりの褒美をくれてやろう』
『口達者に途中経過を語られると迷惑なので、褒美を回収するついでに帰り道で事故死させ、＜堕ちた勇者＞の後を追ってもらいますがね』
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という、いかにもマサルが引っかかりそうなハニトラの準備が行われている会議映像も入手できたから、娼婦がココに来る前に共有しなきゃマズイんだよ。
もっとも……どう考えても客のいない砂漠の真ん中に、マサルが欲情するレベルの美女が来ること自体、常識的に考えて"あり得ない"ので……
下半身の欲望に引っ張られて、マサルの頭がチンパンジーにならない限り、僕が何も言わずともハニトラだと気付くと思うが。
「〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜！！！！」
呼び集めたついでに、このハニトラ計画動画も皆に見せたところ、マサルは怒髪天をつく勢いでブチ切れ、血が流れるほど強く拳を握りしめた。
先程の映像を見せたとき、言葉にこそ出さないものの、「マサルの奴、迷惑を持ち込みやがって」と思ってそうだった住民達も……
この映像を見た後で彼を責めることなどできず、憐れみの視線を向けて「まぁ頑張りな」と励ます始末。
マサル以外にも、愛妻家の男性達が妻を「色気のカケラもない汚物」と罵られて、怒りで壁を殴りつけたが……
公民館の壁はコンクリート製で頑丈ゆえ、逆に手を骨折してしまい可哀想な有様になっていたので、つい情けで上質なポーションを無料配布しちゃったよ。
『魔王様も対策は練ってくれるだろうが、俺等もできる事はするぞ！ とりあえず、娼婦にしか見えない女は当分"出入り禁止"だ。マサルも、それで良いな？』
『もちろんっス。いくら俺が"女好き"といっても、賢者タイムにナイフを突き立てるような女と、最期の夜を楽しみたくないっスよ』
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