298話 その言動、見られていますよ
自分達の行動が、メグミとマサルの称号欄に変化を与え、それが原因でメグミに探りを入れられているとも知らない、教会幹部は……
安全圏だと盲信している神殿の会議室で、どうしたらマサルかメグミ……あるいは両方を殺せるのか、真剣に議論を重ねていた。
「<堕ちた勇者>を一時的に復職させ、魔王<メグミ>討伐の栄誉を与えるのはどうだ? それなら、化け物同士で潰し合うから楽だぞ」
「無理に決まっているだろう! 数週間前ならいざ知らず、すでに世論は"マサルの処刑"を願っている。一時的だったとしても、信者が許す訳がない」
「そもそも、<堕ちた勇者>がその話に応じるとは思えん。これだけ噂が広まれば、すでに自分が排斥されたことにも気付いておるだろう」
「なら、どうする? 彼奴の正義感を煽って魔王<メグミ>を屠らせるために、それっぽい証拠でも捏造するか?」
「現実的ではないな。そもそも、鬼畜ダンジョンを運営する魔王<メグミ>の評判は元から悪い。それゆえ、悪評を流しても大して広まらぬはずだ」
「チッ! クリーンなイメージだったマサルは、プロパガンダで即排除できたのに、同じ"勇者"でも大違いだ。圧倒的に、メグミの方がタチが悪い!」
「まぁまぁ、落ち着いて考えましょう。我々が奴等を攻めあぐねているのと同じように、向こうもまた教会には手が出せない。時間はあるはずです」
「手は出せないと言うがなぁ、本人でもないのに根拠が足らんわ! それに時間が経つほど、信者達の怒りが"マサルを処刑せず放流した我等"に向くのだぞ」
「表向き"逃亡した"事にしていますが、それにしたって事が解決せねば、教会の評価は"逃亡した勇者すら追いきれない無能"に成り下がる。厄介なものです」
彼等はメグミとマサルを罵りつつ、どうにか"自分達の被害少なく"二人を殺す手段を模索しているが、そんな他力本願……叶うわけがない。
それは、普通の頭を持っていれば誰だって分かりそうなものだが、彼等は生まれも育ちも聖職者家系のエリートばかり。
ゆえにこの状況になっても、無意識下で「勇者が教会の指示に従うのは当たり前。教会の方が上」と思っており……
その思い込みが、絶妙にズレた非常識な発言やどう考えても無理筋な意見へと、繋がっていた。
だか彼等は精神的に追い詰められており、冷静に物事を見る事ができなくなっているため、自分達の考えがいかに無謀か気づかない。
そしてそんな彼等の様子を、会議室にある時計台の奥から、捉えるものがあった。
メグミがセレクト自販機で購入し、清掃業者に化けた彼の協力者が仕込んだ、データ転送型の盗撮カメラである。
教会幹部が密談するときに使う会議室は、教会のスタッフであっても限られた者しか入ることができず、もし侵入バレすれば問答無用で処刑されてしまう。
そのため、こまめに撮影データを交換することはできないのだが、メグミはその問題を「清掃業者にスパイを潜り込ませる」事で解決した。
いくら会議室が基本立ち入り禁止の秘密空間だろうと、教会を牛耳るようなお偉いさんが、自ら部屋の掃除をする訳もなく……
清掃業者だけは、定期的に立ち入りを許されていたのだ。
それでも10日に1度出入りする程度なので……普段は時計台の目立たない位置からレンズを出して盗撮し、そのデータを外部の拠点へと転送しており……
清掃の機会がきたときに、時計を掃除するフリをしつつパパッとカメラのバッテリーだけ入れ替えて、対処したのである。
普通のカメラであれば10日間もバッテリーは保たないが、メグミが用意した盗撮カメラは、画面内に動きがあった時だけ撮影する高性能なカメラゆえ……
「トチ狂った教会幹部が、10日間ずっと会議を続けるパターン」がこない限り、バッテリーは保つ。
それでも足りないときは、非常事態用のサブカメラを、スマホから起動させる手筈になっており……
メグミとオートマタ達の、「機密情報は1秒たりとも聞き逃さない」という意思はかたい。
もっとも……会議の内容の95%が「ボケ爺ィの妄言」であり、メグミが直接確認すると、苛立ちで頭が沸騰しそうな映像ばかりなので……
集められた映像データは、知能が高くて「要る・要らない」の判別ができるオートマタ達が、手分けして全て視聴し……
その中から重要な部分だけを抽出して、メグミ付きの執事オートマタに渡す流れになっている。
「う〜ん。この映像データ、要りますかねぇ〜」
「いや……幹部の会議動画だから消しちゃダメだけど、マスターに直接見せる必要はないでしょう。"妄言を垂れていました"の一文で済む話だし」
「そうですね。次のデータに移ります」
なお……多少の感情こそ芽生えたものの、オートマタやゴーレムはあくまでも"機械由来のモンスター"であり、24時間同じ作業をしても苦にならない。
そのため、メグミ自身が視聴したら途中で発狂するようなクソ映像を見続けても、呆れるだけで怒りや苛立ちは湧かないのだ。
そして、淡々と次の映像データに手を伸ばしたオートマタは、こそで"当たり"を引き、メグミ付きの執事へそのデータを送った。
「私、マスターの役に立てたかな?」と、唯一の強い気持ちである"忠誠心"を胸に抱きながら。
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作者はお豆腐メンタルなので、燃料に引火させるのはやめてね(・Д・)






